第二章7 光の残滓
これは、昔々の物語。
元々都会と離れた地方都市生まれ育った二人は幼き日をその地で暮らした。
男の子が4歳に、女の子が1歳になったとき、彼彼女の父が東京へ転勤することとなり、同時に家族で住むことになった。
父には都内に出て働くだけの鑑定士としての仕事技術はあった。やはりこんな辺境の田舎ではその力が十分には発揮できないという風に思ったのだろう。
母は元々東京に住んでいたというのもあり、彼女の母を介護する目的もあってのことで、結果、実家をリフォームし住むこととなった。
父の念願であった自分の店は、将来永劫繁盛させるため家とはまた離れたところにある商店街の一角に完成し、地元の人々との掛け合いでささやかに開店式典のようなものも行われた。
当時はこちらへ越してきたばかりだったため、まるで知り合いもいない中地域の方々に挨拶して回った。
億劫な男の子は父さんの後ろに隠れ。女の子もまた、兄の横にずっと引っ付いて離れなかった。
母さんはお世話になる人達をお店の前に呼んで茶会の準備をしていた。
茶会ではお世話になる地域の人達との繋がりもできた。
その子らの母は、彼女と同年代で息子と同じ歳の男の子がいるという、女の人とすっかり仲良くなり会話に耽っていた。
茶会で自分の母たちが世間話に夢中の間、子供だけで遊び始めた。
その男の子はこの界隈を知らぬ二人に「面白いところ連れてってあげるよ」と、遊んでいるという近くの公園まで誘った。
広くもなく、丁度いい大きさの公園で、子供が何人かで遊ぶにはうってつけだった。
追いかけっこをしたり、忍者ごっこをして楽しんでいるうちにすっかり打ち解けあった。
「なまえ、何ていうの」
名前を聞くとその男の子はたかひろ、と名乗った。
「すぐる、とこっちは……」
「あや、なの!」
「すぐるとあやはきょうだい?」
「そうなのー!」
「じゃあたかひろ、よろしくな!」
「おう!」
これ以降はすっかり仲良くなり、彼らは公園でも一緒によく遊ぶようになった。
ある日のこと。
「忍者、すぐるさんじょー!」
「なにっ」
「おうぎ、手裏剣!しゅしゅっ!」
「こっちも負けていられん、くノ一あや、手を貸してくれ!」
「ぎょいっ」
「敵はすぐるひとりのみ!皆のものあいつを捕まえろー!」
「おー」
「そっ、そんなのひきょうだぁぁあ!!」
こんな忍者ごっこだったりでよく遊んでいた。
「しょうらいおれさ、忍者になる!」
「おれもなる!」
「あやもなのよ!」
彼らが公園で仲良くしているのを見た母親たちが気を利かせ、いろいろな縁もあったということでも、その子のいる幼稚園へ通うこととなった。
とはいえ家から遠いので自転車で母親にいつも送り迎えをしてもらった。
そして、幼稚園を卒園するまでいつも一緒に遊んでいた。
その春からはそれぞれ地元の小学校に通うこととなり、彼彼女とその男の子らは暫く会うことも無く音信不通ではあった。
久しぶりに顔を合わせたのも中学の夏の頃である。
暇だし会えればと、彼の方から家まで来てくれたのである。
沢山遊んで、沢山語って。
そんな日々をまた、送ることに彼らは歓びを感じていた。と同時に、また疎遠になっていくのではないかと少々危機感も抱いていたのであった。
その関係は杞憂に終わる。
結果的には彼ーー卓が高校を卒業してもなお続いたのであった。
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「断片的には思い出せる……ここまで思い出しといて重要なことが抜けるはずもない……」
それはそうとして、何故こんなただの「なくしもの」に俺に拘るか、傍から見たら頭のおかしな奴だ、とか正直バカだろと思うだろうが……こいつらはあのことがあってから気を使ってくれているようでもある。
こうしている事実、なくしものは、この世界からも忘れられている。
この現象がなんだか分かるような気がするんだ。
あれに似ているんだよ、未来から何か干渉があったときに、世界線が揺れ動いて、その埋め合わせとしてものが無くなるってあれ。
カルトか否か、というより、明らかに認知していたものが消えている。
部屋は掃除されていても無くなるはずがないし、伯母さんにも勿論その話はしていて、うっかり棄てるなんて考えずらい。
そんな話もしておきながら、「それ」を、誰もが忘れている。
記憶の奥底からも、その情報だけがすっぽ抜けている。
——これは、「異常」だ。




