第一章0 ある一日の朝
今日も新しい一日が始まる。その一日は誰かには当たり前のことのように。また違う誰かにはまるで約束されたかのように。
その誰か、なんてことに関わらずとも時間とは不思議なもので、あっという間に終わってしまう楽しい一日もあれば、長く苦しく感じる一日もあったりする。しかし実際には、皆同じに、どんな日も時間は平等に分配される。そして誰かが過ごしたその日がどうなろうとも、始まった一日は必ず終わりを迎える。
そんな平等など知ったことではない、とまるで人の心情なんてのは気にも置いていないだろう初夏の太陽は街角の店を明るく照らしだす。
古びた青い自転車がブレーキの油の足りない音を立て店先に停まる。その自転車の持ち主は店の前に立つと思いっきり伸びをする。
自転車のそれよりも明るいライトブルーの空に手を高く、高く。いくら努力しても手は何も無いところを虚しく空を切る。そんな分かりきったこと痛いほど知っている。届くはずもないのに───
───あの人がいつもいた、店の奥まった場所に観月卓は今、立っている。しかし、あの場所とこの場所はひとつも違わない、同じもののはずなのにまるで全く異質だ。何をしていけばいいのかはっきりと言って分からないでいる。
その何も見えない闇を模索する時間すら、癖か習慣かは知らず。
この彼の身体には機械仕掛けかのように、良くも悪くも朝の日課、マストであると刻み込まれてしまった。




