かたときの夢
華がないが良かったのか、と問いかけた俺の言葉に君は微笑んだ。
一口かじって、こちらに気づいて涙を湛える。
1年に1度の夏祭り。その片隅にある、こじんまりとした屋台。
品目はきゅうりの一本漬けのみだけれど、ここは特別だ。
見ないうちに、彼女は随分と大人びたように感じる。
前は背伸びしていた雰囲気のハイヒールも、様になってきた。
「毎年、ここに来るのがとても楽しみなのよ」
口調も大人になった。今後も成長しない俺とは違う。
はにかみながら祭りを、空を見つめる。
「この3日しか、貴方に会えないから」
会いたい人と暮らせる、不思議な祭。
祭の思い出を思い出しながらゆったりと過ごす、夢のひととき。
きゅうりの一本漬けは"涙"の味。
死に別れた人を呼び戻す、かたときの夢。