Darkness that lurks in the mind
《心に潜む闇》
1565年
九戸政実は集めた部隊を率いて本腰を入れて伊達とぶつかった。
それまでは消極的な攻めだったのに対して、真逆の苛烈に攻める。
対伊達戦線を開いた当時は伊達軍の抵抗が強かったため攻めきれなかったが、何年も戦をしていれば弱まる。
「全軍、進め!」
旧大崎領に資材を置き、物質の補給線を整えた。
また、南側の相馬からも軍を編成し南北を南部軍で挟む。
北側、南部軍本陣には北、東、毛馬内、泉山、石亀のそれぞれを主とした部隊と別働隊をいくつか。
南側は同盟の相馬軍、浅利勝頼を大将とし、安東軍、戸沢、斯波等々の部隊がいる。
しかし、南側は岩城とも戦っているため、部隊の全てが伊達に集中出来る訳ではない。
※※※※※
内通者を通じて電撃の如く城を落としていく。
既に手回しが終わっているため、そこまでの被害なく開城しているが、内通者が数人裏切ってきた。
一城に数人の内通者がいるためなんとかなったが、南に行くほど工作が難しくなる。
泉山、石亀に支城をつぶさせ、本陣はこのまま敵、本城を取りに行く。
「ここが正念場だ!」
黒川、国分、留守、秋保、栗野等の国人衆を次々と倒したり、調教したりして烈火の如く進む。
伊達の下に降っていたが従順でなかった半独立していた国人衆たちは味方に引き込めたため消耗が少なく済んだ。
「進め!進め!」
大きく旗が振られ、伊達の幾多もある城を開城していった。
そんな快進撃も背後からの裏切りによって止められる。
※※※※※
佐竹義重は文を書いていた。
宛先は南部家。
遂に家臣の江戸氏が独立し南方に巨大な敵が出来た。が、これにより北条家の脅威から逃れられると思われていた。しかし、水面下の交渉で江戸氏は北条家と渡りを着けており江戸北条連合軍によって大幅に南方が侵略された。
これにより北で相馬、南部家と岩城のことで争っている場合ではないと考え、葦名氏に仲介を頼み、対伊達に協力する引き換えに対北条の物質支援をお願いした。
当主が急遽変わったこともあり、有力家臣の反乱で家の存亡を賭ける戦になることは明らかで、佐竹は南部家に多大な借りを作ることを決断した。
これにより南部家は関東進出の足掛かりを得ることになった。
また、岩城を緩衝地帯と置き、不可侵を結ぶことで対伊達に専念出来るようにする。
小野崎氏が鯉淵氏等の江戸氏と因縁のある家臣たちを纏め上げて佐竹当主、義重の代わりに対江戸氏前線で指揮をとった。
小野崎氏は自前の部下を上手く使い、倍近くの相手に互角以上に渡り合った。
「我々には上杉も南部も着いている。我々に負けはない!ここで手柄を上げ褒美を受け取るのは誰か」
小野崎氏は刀を空に突き出し、
「進め!大きな失敗を恐れない者のみが大成する。恐れるな!怯むな!怯えるな!勝利を渇望し、その先に夢を見たのなら怖がるな。どんな人間も自分で思っている以上のことが出来る。自分で勝手に限界を決めつけるな。進め!進め!未来はすぐそこにあるのだから」
味方を鼓舞する。
※※※※※
「どうか、どうか。当主の首で」
男は額を床に擦りつけて伏して声を上げる。
「貴様!貴様らから裏切っておきながらなんたる。なんたる!」
側近の1人がお腰に付けた刀に手を掛ける。
「静まれ真壁、殿の御前だぞ」
右後ろにいた幼馴染みの小貫 (おぬき)頼久が氏幹を止める。
男はずっと頭を下げたまま震えている。
「顔を上げよ、神生殿」
そう言うと、やっと男は顔を上げた。
顔は蒼白で大した食事も出来ていないのか細かった。
「義重様、どうか、どうか。主君、江戸通政様の首で、我らの服属を認めて下さい」
また頭を下げる。
「殿。私は賛成しますよ」
横から頼久が口を出す。
「頼久殿!?」
氏幹が声を上げる。
「私たちが今回戦っているのは江戸氏ではあるものの、実際には北上氏だ。ここで被害を出しながら通政の首を取ったととしてもその後ろには北条がいる。
ならば、ここで神生殿の提案通り無傷で通政の首を取り、北条に備えるべきかと」
「ふむ。なるほど」
頼久の言うことは最もだ。
「しかしです!ここでこうも簡単に叛逆者を許されれば規律が緩み、裏切り者が出るかもしれますまい。強く当たるべきかと」
実益を取るか、体面を取るか。
※※※※※
1度神生殿を下がらせて、会議をしていると慌てて兵が入ってきた。
「報告します!北条が軍を率いて北上中とのこと。援軍として上杉と南部に要請をとのこと。今回は北条も本腰入れたのか我が軍だけでは到底持ちこたえられません」
「そうか」
辺りを見回す。
「殿。そろそろお決め下さい。神生殿の処分を。私たちは殿の家臣。殿の判断に従います」
「ええ。殿が自身で決められたのならば」
他の側近も頷く。
「分かった。沙汰を下す。神生殿を呼んで参れ」
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「神生殿。江戸通政の首。これと引き換えに貴殿たちの服属を認めよう。北条軍を迎え入れた後、首を取り、背後から追撃をしろ。そのときの成果で減罰しよう」
「はは。ありがたき御言葉。身を粉にして働きます」
「神生殿。800の兵を貸します。それで首を私たちの下まで持ってきてください」
「助力感謝します」
神生殿は深々とお辞儀をする。
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1566年
北条軍は江戸氏解体の影響で満足な補給が出来なくなり大幅に撤退せざる終えない状況に追い込まれた。