He loved drinking sake like 'a typical man who experiences transcendent ecstasy in drink.'
全体的に押されていた砂越勢だが、安東茂季の到着で持ち直した。
戦況は膠着状態を続け、上杉の同盟の件もあり、一時休戦となった。
※※※※※
上杉との同盟交渉の代表は安東茂季に代わり、浅利則頼は補佐に回った。
現地で話をさらに深めるのと、主君に伺いを立てるのとで分かれ、話し合いが進められた。
「南上最同盟ですか。最上とは話しが出来ているのですか?」
「いえ。ですが、現在交渉中です。上杉殿が賛同してくれたら、最上も靡くかと」
「そうですね。伊達が内部を押さえれなくなり、久しく。関東を攻めるものも現れますしね」
「上杉は関東管領ですしね」
「ええ」
酒を交えつつ、友好的に話しを進める。
※※※※※
時は流れ、上杉領
「これは?」
上座で蝋燭の火が揺らいでいる。
少ない灯りを頼りに、文を読む男。この男こそが、関東管領、上杉謙信だ。
「南部家より、対伊達同盟の申し込みです。最上も参加するかと」
「ほう。北か」
「はっ。北の脅威が軽減されるかと。強国の伊達と最上がある限りは南部家には上杉家と戦うだけの余力は残らないかと」
上杉謙信はゆっくりと文を畳、傍に置く。
腕組みをして
「分かった。この同盟を受けよう」
「!本当ですか」
「ああ。斎藤朝信、貴様にこの件を任せる」
「ははぁぁ。……謙信様、南部より友好の証として美酒を受け取ってます」
「ほう、美酒か」
暗闇の中ながら、目を輝かせ前のめりになる。
「貴様は儂が酒にうるさいのは知っておろう。期待を裏切るなよ」
朝信は盃に注ぎ、先に飲む。
「では儂も」
重臣である斎藤朝信を疑っていた訳ではないが、古来より行われてきた毒味を終え、飲み始める。
「……」
声はなく、味わうように口の中で転がす。
口の中に広がるのは黄金色の世界ーーー
湧き水を更に清めたような透明感ある味ーーー
口の中に含んだときに爆発した香りーーー
今まで飲んだことのないアルコールの強い刺激ーーー
「甘いな」
柔らかい舌触りとほんの少しの甘さを感じる。
「これは…」
朝信も驚いているようだ。
「どうした?」
謙信は怪訝な表情を浮かべる。
「いえ…、その…。はい。以前飲んだ酒とは違いまして、驚いているのです」
「何!?これと違う酒もあるのか?」
謙信は遂に立ち上がった。
「これよりは一段下がりますが、名酒が」
「ほう」
一段下がると聞いて、謙信は落ち着いた。
静かに座り
「たとえ一段下がると言っても興味深いな。これほどの酒を造る者にもあってみたいな。どれほど美味いのか」
「はっ。謙信様でも満足出来るかと。さすがにこれほどの酒の後では…」
「くっくっく。いつか飲んでみたいものだな」
静かにゆっくりと、しかし確実にお酒は減っていった。
《彼は「典型的な酒仙の面影が髣髴とする」ほどの酒好きであった。》
※※※※※
斎藤朝信が庄内に戻ってきた。
同盟は成立。たとえ最上が受けなくても、南上同盟は結ぶことで制定された。
謙信からの文を読み、問題ないことを確認すると直ぐに使者を走らせて政実の下へ向かわせる。
※※※※※
浅利則頼、毛馬内秀範の部隊が砂越にいる中、九戸政実は最上にいた。
指揮権の移動などに手間取って安東茂季が砂越へ向かうのが遅れたが他に問題は起こらなかった。
その後、政実が現れ、政実に指揮権が移った。
そして今、政実の左右には七戸と一戸。その背後には泉山と石亀もいる。
話し合いを行うのは草原の中心。
両陣営がにらみ合っている中で行われる。
相手は最上の総大将、最上義光。
「文を頂き、考えさせていただきもうした」
「して、いかに」
両軍の総大将が1歩前にでる。
「答えは是非。我々は南部と組みましょう」
「良いのかね?」
「我々では、いくら経っても伊達には勝てませんので」
「了承した」
「しかし、実に上杉と同盟を組めるのですな」
南上最同盟は上杉との同盟が要だ。
これが出来なければ、先の同盟の話も誤算となり、信用も失う。
そうとう危険な賭であった。
それなのに政実は行った。
それには、絶対の自信があったからだ。
一騎の馬が駆けてくる。
「伝令。伝令。殿、安東殿からの伝令です」
「申せ」
「はっ。先の和睦交渉の後、話し合いを続け、同盟に成功したようです。こちらが文になります」
「うむ。これで良い。良いタイミングだったぞ」
「急ぎとのことでしたから」
「大義であった。義光殿、これで良いかな」
「ああ」
最上義光は思っていたよりも早く達成された同盟に茫然としていた。