Full of wine save the world
浅利則頼は500の騎馬兵を率いて駆けていた。
必要最低限の荷物しか持たずに、迅速に行動していた。
馬がダメにならない程度には休憩を入れているが、訓練されている兵でも疲労が出てきている。
「ここら辺で今日は休もう。野営の準備を」
予定より進めているため、後は兵に気を遣いながら進むことにした。
いくら早く着いたからといって、兵が疲れていたら意味がないのだ。
※※※※※
砂越軍と武藤軍が戦っている。
「浅利様、どうしますか?」
「旗を掲げろ。武藤の右翼を穿つ」
「はっ」
殿から預かった南部の旗と、浅利の旗を掲げ、一匹の獣であるかのように部隊を動かし、敵陣を縦横無尽に駆け巡る。
「敵襲!敵襲!」
突如として現れた別軍に対応しきれずに崩れる。
「撤退だ!」
武藤軍は浅利隊参戦から一刻もしないうちに撤退した。
「助かりましたよ、浅利殿。何分劣勢を強いられていましたからね」
「そうですか。ですが、なぜ野戦を?」
そう言うと砂越の将は頬を掻いて
「お恥ずかしながら、誘い出されてしまいまして。致し方なく戦っていたのです」
※※※※※
その日は砂越で熱烈な歓待を受けた。
「よく来てくれた浅利殿。浅利殿が来てくれたら百人力ですよ」
「いえ、無事間に合って良かったです」
「ええ。今回は相手方も本腰を入れてきているので危ないところでした」
「ところで、上杉勢は?」
一番大事な本題に入る。
「今の所は。しかし、陣内にいるとのことで。斎藤朝信の姿を見つけています」
「大軍を寄越すことはなかったか」
「ええ。南が怖いでしょうしね。脅威の少ない北に戦力は送れないでしょう。少なくても今の所は」
「将1人で、一体どこまでできるのだか」
その後、細かい打ち合せをして別れた。
※※※※※
毛馬内の率いる軍も到着して、満足に物資が集まる。
「かたじけのうござる」
砂越氏にも物資を配分し、戦の準備をする。
既に軽くだがいくどか戦っているが、両軍とも肩慣らしていどにしかやっていない。
武藤には上杉からの援軍の様子はなく、時間が経つほどこちらが優勢になっていく。
※※※※※
毛馬内が来て2日後、両軍が平原にて陣を構えて向かい合った。
上杉も南部もあくまで同盟国。
武藤と砂越は堂々と優劣を決めるようだ。
これは両軍の数がそう変わらないからだろう。
ここで勝った方が庄内の影響力を持つ。
※※※※※
合戦開始から3日、上杉より援軍到着の知らせが届いた。
「敵、およそ2000の援軍です」
砂越が勝っていたが、一気に劣勢に追い込まれた。
※※※※※
再び合戦にもたれこんだ。
互いにしのぎを削っているが、両陣営に大きな損害もなく、長引いている。
しかし、武田が上杉と同盟している江馬を攻め入る。
南が不安になり、早期決戦を求めるようになった。
※※※※※
上杉に急かされた武藤はまた合戦を開いた。
砂越勢は部隊を分けて多面的に攻撃していく。
それに対応して武藤も部隊を分ける。
自然と範囲が広がり、戦が独立していく。
早期決戦を求める上杉勢は、精鋭を率いて、中央突発する。
「砂越殿、下がって下さい」
浅利則頼が前に出る。
「斎藤朝信。ここは通さぬぞ」
槍を振るい、馬の息の根を止める。
朝信は上に飛び上がり、巻き添えを食らわないように少し横に着地する。
「ほう。砂越にこんな武将が?」
「南部家直臣、浅利則頼。いざ参らん」
「南部の者か。なるほどな。斎藤朝信、参ろう」
槍と槍をぶつけ合う。
※※※※※
南長義は南部領で行われている政策を許されたら直ぐに行い、領土を豊かにしてきた。
元葛西の家臣だった者たちも従順で、これと言って困ったことはなかった。
度あるごとに葛西家が攻めてきているが、境目の城主たちだけで追い返している。
しかも、度重なるたびに、離脱が相継いでいて、何もせずとも領地が広がっていた。
※※※※※
遂に、葛西晴信が国境を突破しそうになると報告があった。
準備していた軍を率いて、再び相見える。
「私は南部家家臣南長義。先の戦により直臣へとなった。葛西晴信、貴君を倒し、政実様にお褒め頂く。今宵を最後の戦にしてみたもう!」
突発した葛西晴信の部隊は既に包囲されていた。
今日のため、長らく準備をしていたのだ。
相手の有力武将、熊谷氏の調教など。
勝敗は、戦う前から決まっている。
※※※※※
葛西領を完全に切り取り、大崎に攻め入る準備が整った。
大崎は伊達と最上の影響が強く、攻め入ればどちらか一方は必ず敵対する。
伊達と最上は互いに争っているため、片方とは同盟を組めるかもしいれないが、現在敵対している最上が同盟を組むかは不安なところだ。
かと言って、大崎は旧伊達領。攻め入れば先ず伊達軍と戦うことになる。
※※※※※
激戦を制したのは則頼だった。
命までは取らずに縄にかける。
「何故?」
着けていた鎧は至る所に傷が付き、右腹部は穴が空いて血が流れているが、死に至るまでの大怪我ではなかった。
出血の手当てをさせる。
「何故、か。それは殿に上杉と戦おうとの意思がないからであろう」
「何!?」
「我々は武藤と戦っていただけ」
「ほう。それは」
「たまたま出会った朝信殿とは一晩酒を共に飲み、友誼を交わした。友に便宜を図ってもらう」
朝信は悩み出す。
「これを飲んでみろ」
瓶を持ってきて、盛る。
二つの盃に注ぎ、先に飲む。
「美味いな」
朝信もおそるおそる飲んで驚いている。
「家の名産だ。生産量が少ないから流通されていないのだが、ときどきこうして配られている」
「これが…羨ましいな」
「上杉殿にも」
「ほう」
瓶を掲げ、盃に注ぐ。
「《一杯の酒は世界を救う》か」
そう独りでに呟く。