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They were anxious to alter their destinies.

《彼らは自分たちの運命を変えたいと切望していた。》

安東茂季は変わったと言われている。時代が、身分が彼を残酷にも残酷に変えたと。

だが、果たしてそうなのだろうか。

人は簡単には変われない。重い信念を持っているほどその傾向は強いだろう。

彼には重い信念を持っていた。数歳離れた姉を守るという。

相手はその姉より3歳も上の俺。彼は10にも満たない頃だ。

初めて彼にあったのは安東制圧後。

俺と彼の間には大きな差が出来ていた。

それなのに、彼は俺に噛み付いてきた。力の差を理解しておきながら。

姉さんは渡さないと。

まだ正式に愛李の嫁入りが決まる前から。

どこか、空気から察していたのだろう。

姉が家を出てしまうことを、離れることになることを。


安東領に戸沢・小野寺・由利連合軍が進行、南部軍と激突。

安東愛李を妻に迎えることで、比較的早急に旧安東領を安定させる。

婚姻の1つにこの意味があったことは否定できない。

しかい、どちらかと言えば、恋愛色が強かった。

一緒に過ごしたのは僅か1月。しかし、まるで前世からの仲の様に互いに惹かれあった。

一線を超えることはなかったが、いつそうなってもおかしくなかった。

なぜか彼女のもとでは安らげた。

戦時中だというのに我ながら怖いほど気を抜いていた。

彼女ならばいつでも俺を殺せただろう。

彼女とて武の嗜みはある。

油断している俺など赤子のようにたやすく殺せた。

それでも彼女は俺を殺さなかった。全幅の信頼を寄せるにふさわしい理由だ。


1月間たくさんの話をした。

俺が子供の頃にしたやんちゃ。初陣。塩による戦争。商人との駆け引き。そして、これからの未来について。


周りは決して近づけなかった。俺と彼女の時間を邪魔するものはいなかった。

お忍びで城下町に言って共に買い物をしたこともある。


幸せは1月で終わった。

敵味方の区別がついたのだ。これ以上は味方が寝返ってしまう。

迅速な行動が必要になるのだ。


俺は恋に生きることは選べなかった。

否、力がなければ生きることはできなかった。

でも、本当にそうだろうか。

俺は強い。それこそ、当時安東最強だった浅利あさり則祐のりすけを降していた。

愛李を連れ、どこか遠くへ。中央にでも行けば幸せに過ごせただろう。

豊かな領土。争いは多いが俺も彼女も強かった。


だから、だから。


この選択に後悔はない・・・・・・たぶん。

結果的に見れば良かったのだ。何も失わずに、全てを得た。


でも、俺はこの時に自分の弱さを知ってしまった。

そして、怖くなった。

彼女の近くに寄るのが。

俺は、彼女を不幸にしてしまうのではないのか。

夜な夜な俺を襲う不安。領地に居るときはいつもそれに心を削られた。


だから戦をする。

ここにいれば無駄なものに心悩ます暇などないから。


俺は、俺は。

いったい何がしたかったのだろうか。


もう、何も分からなくなってきた・・・・・・。







※※※※※



浅利勝頼は安東茂季の右腕だった。

同年代の家臣。幼い頃から兄弟のように育てられてきた。

浅利家の次男坊。家を継がされる予定はないが、次期当主の茂季の巻き添えで学問も習ったが、優秀な兄、浅利 則祐といつも比べられた。

お兄さんはもう出来たのに、お兄さんなら。お兄さんは。


いつもいつも言われ続けた。


それでも、幼いときは兄に憧れていた。

兄のようになりたい。その思いは次第に捻じ曲がり、兄になりたいと思うように変わっていった。


兄の全てが妬ましい。

兄は何もかも。何もかも持っていた。



父、浅利 則頼のりよりは智勇文武音曲に優れた人物で、特に琵琶を愛していた。

独鈷城を本拠地として比内浅利氏の勢力拡大を目指し比内郡における一大勢力とした。

二ツ井町荷上場館平城から上津野までを席巻し各地の国人を併合した。

独鈷城・笹館城・花岡城・扇田長岡城を主力とし、西の守りには娘婿・牛欄を八木橋城に配置して守りを固めた。


父も、安東の英雄だった。

その名声は息子の兄に引き継がされ、安東家臣最有力な家柄。

父の才、智勇文武音曲の全てを持っていた。兄は安東愛李様、茂季の姉上から笛をいただき、綺麗な音色を夜会で鳴らしたという。

また、どこに行っても目立っていた。顔は整っており、紫色の長めの髪は馬上でなびく。町を歩けば町娘たちの黄色い声援。皆に好まれていた。夜会で他の城主の娘は騒いでいたのにいつも愛李様だけは興味なさげに庭を見ていたのは印象的だった。2人が並べばお似合い。言葉で言い表せないほどだ。

武勇は何度も攻めてくる南部家相手に何度も上げている。

初陣で相手の将の首をとったことは有名だ。

安東にこの人有り。そう言わしめた。

内政は父の後を継いでさらなる発展を促している。


この人の荒を探すことの方が難しかった。


どうすることもできなかった。努力はしたでも超えられない壁はあった。


ついに、兄と愛李様との間で縁談の話が持ち上がった。

兄は既に安東家で地位を確立していた。

兄の影響力は次第に高くなっていった。茂季を怪しばむほど。

茂季の次期当主の座が怪しくなった。


兄の敗北を初めて聞いたときは歓喜に湧いた。

あの負け知らずが負けたのだ。

兄が絶対ではないことが証明された。


それから数日後、

愛李様が捕まった。

茂季は護衛もつけずに飛び出した。

いつも巻き添えを食らうのは俺だ。


兄を降し、愛李様を捕らえている九戸家の当主は守りを固めてしまった。


援軍の南部軍が現れても、開城せず籠ったまんまだった。

南部軍は茂季が率いる安東軍と開戦。

俺も別働隊の指揮を任されていた。


兄がいない間に俺も手柄を挙げた。


それでも、城が開くことはなかった。


1月後、突如南部軍が揺れる。

すると、一時的に城が開き、一つ矢に進み、南部軍の中央を突破して抜けさってしまう。


南部軍に一時混乱があったものの、指揮官が代わり、七戸が指揮をしだすと落ち着いた。

安東軍は攻めきれず、大きな手柄を上げることはなかった。


それからはあっという間だった。


南部をまとめた九戸政実はいともたやすく帰還。

さらに増えた軍で安東を制圧した。


戦疲れで撤退していた茂季と俺らの代わりには当主自らが出ていたのにだ。


多方面からの総攻撃に膝を折り、降ることになった。

大事な戦に参加できなかったことを茂季は悔しく思っているようだ。


そして、愛李様と九戸政実の結婚。

愛李様は幸せそうに見えた。

兄と一緒にいた頃にはついぞ見なかった笑顔だ。


戦時中。キラビカさのない厳かな結婚式ではあったものの、当人同士は幸せそうだった。


しかし、愛李様には悪いが、俺は何時かこの人を超える。

兄のさらなる上を行くこの人に勝ち。兄より強い事を証明するのだ。

今は臥薪嘗胆がしんしょうたんのとき、時期が来るまではなり潜め、味方を作らなければ。

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