So much for small talk . Let's get down to business .
《雑談はここまでにして、本題に入りましょう。》
正直言って舐めていた。
今までがあまりにもうまくいっていたため、無意識のうちに今回も、と。
驕っていたのだろう。そこを突かれることになった。
完全な敗北。認めるしかない。
かねてより石川高信は岩手進出を進めていたから安東が1度落ち着いたときに遊軍として動くことを許可していた。
今回はそれがうまく作動して、斯波 詮真あきざね、次期斯波家当主、斯波経詮の息子が守っている城を襲い制圧、捕虜とした。
その後、俺が苦戦していると聞いて援軍に駆けつける途中に、斯波経詮の軍を見つけ襲撃。
斯波経詮も捕虜にすることに成功したそうだ。
抵抗を続けていた雫石 久詮は主君が捕まったことを知ると直ぐに降伏した。
人数が3倍以上、圧倒的に優位だったにも関わらず相手とさほど変わらない被害。
地の利が相手にあったとは言え、被害は大きかった。
立て直しは効くが、当初の予定が大幅に狂ってしまった。
このまま稗貫、阿曽沼に攻め込み和賀まで制圧するつもりだったのだ。
それが最初の斯波で躓いてしまった。
己の不甲斐なさに腹が立つ。
これからは慢心しないようにしなければ。
※※※※※
稗貫、阿曽沼制圧はあっけなく終わりを迎えた。
慢心をやめ、徹底的に攻め落としたら1月と掛からなかった。
南長義、石亀信房、泉山古康、毛馬内秀範を副将とし、部隊を引きいらせて多方面攻撃と葛西、和賀の足止めをさせていたため、横槍が入ることもなかった。
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次は和賀だ。
既に、斯波を取るために一部を取っていたが、今回は本腰を入れる。
葛西に邪魔されないためにも、北から石川高信に攻めて貰う。
既に幾度か経験があり、消極的な戦いをしている。
最上は先の飢饉から未だ立ち直れず、他国の面倒を見れるほどの余裕はない。
それに対してこちらは元から蓄えもあり、部隊を2つ、3つと別けても前線を維持出来るだけの余裕がある。
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進発した南長義の軍は山中で葛西の敷いた伏兵に足止めされていた。しかし南長義は主君の九戸政実が作った間者を利用して少数の兵を数多く展開することで逆に敵兵を殲滅してゆく。間者を利用した連絡網を構築し、発見した敵兵を必ず挟撃、もしくは包囲して一気に殲滅する。
南長義は飢饉の前に父である前当主が主君の政実に反乱をしており、気が気でなかった。
自分は先の責任をとらされ、前線で使い潰されるのか。
人知れず、恐怖に震え上がっていた。
しかし、任されたのは大軍の将。
石川高信と同規模の軍の指揮を任され、葛西攻略を命じられた。
主君には感謝している。
打ち首でもおかしくはなかった。
だが、主君は私を、私たちを生かしてくれた。家を存続させてくれた。
そして、この度の戦で手柄を挙げれば、帳消しにならずとも、罰は軽くなるだろう。
父のようにはならない。
絶対の忠誠を捧げると誓ったのだ。
そのために知恵を絞る。南長義は力攻め一辺倒の猪武者にはなしえない知略をも併せ持っていた。これには父より引き継いだ兵の力があったという。南部家の精鋭は九戸家の兵だ。だが、他の兵も弱いという訳ではない。南家の兵とて、九戸家に引けを取らない。
先の戦、雫石の将の戦を実際に目にしてから、兵を消耗させるようないくさをしていてはまずいと彼なりに考えた。
山岳地帯を駆け降りた南勢は、葛西の城を1つ、2つと抜いていった。葛西の兵が右往左往していたのは山中で当主葛西かさい親信ちかのぶを討ったせいである。将がいなくなり、指揮系統に混乱が生じるようになった。撤退中、最後尾にいた大将は最前列になる。そこを回しておいた部隊が襲撃。首尾よく討つことに成功した。
そして、残りは烏合の衆と成り果てた。そんな烏合の衆を放っておけるほど南長義は余裕に満ちていたはずがない。
手柄に飢えていたのだ。
蹂躙は続き、終いには次期当主の葛西 晴信はるのぶが現れるまで追い込んだ。
※※※※※
南長義が葛西相手に快進撃をしている間、俺は安東茂季と会っていた。
先の戦のときは、状況が急変し、呼び出す前に戦となった。しかし今回は茂季にも参加してもらうため、軍を率いて来てもらっている。
「茂季、よくぞ駆けつけた。その軍を率いて南より攻めよ」
「はっ。政実様の要請。慎んでお受けいたします」
参上の挨拶を終え、一度戻らせる。
それから、部下と主君ではなく、兄と義弟の関係として呼び出す。
「最近何か変わったことないか?」
「変わったこと?」
「ああ。お前が父親を晒首にしたと聞いてね」
「ああ。そういうこと。変わったといえば弟くん、九戸 実親さねちか君とよく遊んだよ。
戦の話をせがまれてね。一戸の支援に行ったら居て驚いたよ」
「前線にか」
「そう、なんでも戦見たさに護衛を巻いて丘まで行ったんだって。あったことはあったけどあんなところにいるとは思わなくて偽物か、他人の空似か。影武者を疑ったよ」
「そうか。そんなやんちゃだったんだな」
「見つけて直ぐに保護したから良かったけどね。でもまあ、それ以上近寄るつもりは無かったのか、お義兄さんが渡した双眼鏡で見てただけだったよ」
「まああいつは子供だが馬鹿ではない。危険とわかっておきながらそう安々と首を突っ込まないだろう。俺も子供の頃はやんちゃして世話役に叱られたものだ」
「お義兄さんが?あんま想像できないな。子供の頃から内政に口出ししてそうなイメージだよ」
「そうか?俺はいまでもかなり無茶を通していると思うけど」
「そうでもないよ。他はもっとひどい。それに比べたら温いもんだよ。それより、そろそろいいんじゃない?」
「何が?」
俺は少し笑みをこぼす。
「はは。本題、入ろうよ」
茂季も笑う。
「姉さんがいるなら前みたいに腹割って話し合うのも分かるけど、ここも戦場だよ。あるんでしょ、本題が」
「ああ。まあな。これも1つの目的ではあったんだけどね。」
「・・・」
「浅利勝頼に気を付けよ」