『また』は来ない
「またか…。」
また人間が命を落とした。自ら死へと歩を進める者、他人から恨みを買い殺められる者、自然の怒りにふれた者。様々な者たちが去っていくのをただただ俺は眺めるだけ。
他の地では、飢えに苦しむ者や国のために命を捧げる者もいる。そのような土地にこそ神が必要なのだが、どうしてもここの日本を離れることができなかった。
『またその歌聞かせてね。』
あの女がそう言った。あれからどれほどの時間がたったのだろうか。俺はいつの間にか『また』という時を待っていたようだ。どうせ来ないだろうとあの時は思っていた。でも、なぜか少しの期待を抱いてしまっていたようで、気がついたら長い時が経ってしまった。
あの女が死ぬ瞬間を見た筈なのに、もう来ないとわかっているのに俺の体は根が生えた様に動かない。
あの女は自殺をした。たしかに会う度にとても疲れた顔をしていたのを覚えている。だから俺の歌で癒した。俺の歌を聴くと幸せそうな顔になる。それが嬉しかった。
でも…、あの女は約束を破った。『また』は来なかった。俺を裏切った。騙した。そもそも人間なんかと親しくなったのがいけなかった。
もう誰も信じない。どうせ裏切られる。
俺はそう決めた。
「あぁ、また去った。」
一人の少女がトラックに轢かれるのが目に入った。哀れな少女だ。