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追試デビュー、しちゃいました

作者: REZ☆

この物語は完全なるフィクションであり実際の人物及び団体とは何の関係もありません。あくまで創作されたものとしてお読みください。それと追試常連の方、かつてそうであった方、すみませんでした。

 その日の二時間目と三時間目の間の休み時間は妙に教室の空気がふわふわしていた。

 皆どこか落ち着かなくて、ソワソワしている。もちろん俺も例に漏れず、不安と緊張の真っただ中にいながらもどこかワクワクした高揚感を味わっていた。それはなぜか?理由は次の数学の時間にある。

 チャイムが鳴るまであと10秒。先生がたくさんの紙束を抱えて教室にはいって来た。それまでざわざわしていた教室が静まり返り、チャイムが鳴り響く。委員長の号令と共にクラス全員が立ち上がり、一礼し、もとの席に座った。ここまでは、いつもと同じ流れ。

「それでは、前回やった数学の小テストを返します」

 教壇の上で先生が言った。クラスの空気が変わる。皆考えていることはきっと同じ。自分は追試なのかそうではないのかということだ。

「それでは、座席順に返します――湯川」

 窓際の一番前の席の女子の名が呼ばれる。彼女が立ち上がると同時に張りつめていた空気がふっと緩んだ。皆小声でひそひそと話始める。やべぇ俺追試不可避だわ、どうしようあたし今回絶対追試だよ、ウチ今回は自信あるんだ、嘘つけお前が追試じゃなかったら奇跡だわ。様々な思惑が言葉となって飛び交う。

 それらを聞きながら俺は考える。今回の範囲は珍しく相性の良い単元だった。諸事情で少し空欄を作ってしまったけど問題ないだろう。公式もほとんどは覚えていたし、計算ミスも演習をした分ではほとんどなかった。大丈夫。今回も追試は取らない。何たって高校に入ってから一度も追試は取ったことがないのだ。それが学力面における俺の唯一の自慢であり、モチベーションにつながるものだった。だから、こんな簡単なとこで追試なんて取るわけない。大丈夫、大丈夫、大丈夫――「只野」

「は、はいっ」

 俺の名前が呼ばれた。心拍数は急上昇。教室の前まで行き、恐る恐る先生から答案を受け取る。先生の表情からは何も読み取れない。ニヤリともしなければ難しそうな顔もしない。一体俺はどっちなんだ。席に戻るまで、軽く二つ折りにされている答案は開かない。

「お前何点よー」

「追試かー?」

 俺の席は一番後ろのため、戻るまではそれなりに距離がある。つまり、たくさんのクラスメイト達の席を通過していかなければならない。所々で俺に向かって投げかけられる言葉を「まだ見てねーよ」の一言で捌き、俺は席についた。

 よし、開くぞ。

 何かやましいものでも見るかのように答案用紙を全部開かず、右上の方だけをそーっと開いて覗き見る。

「あっ」

 ……嘘だろ!?

 そこには信じられない点数が刻まれていた。

 34点。

 赤文字で、でかでかと痛ましく記されていたその数字は俺の心にぐさりとささった。

 40点満点中ではない。50点満点中でもない。

 100点満点。

 そう、紛うことなき正真正銘100点満点のテストで俺はあろうことか34点なんていうとんでもない点数を取ってしまった。

 頭に、がいーんと殴られたような衝撃が走る。こんな点数は初めてだ。いつも50点は取ってるのに。

 これって……追試?いや、落ち着け。まだ追試と決まったわけではない。もしかしたら、もしかしたら、きっとこれは難しいテストで皆も30点くらいしか取っていないのかもしれない。

 そっと隣の吉住という女子の答案を盗み見る。

 74点。

 俺より40点も上だった。

 周りの声がやけに遠のいて聞こえる。追試点は何点だ。何点からなんだ。早く、早く全部返し終わってくれ。

 ようやく最後の一人が返され、先生がこちらに向き直り、教室の空気が落ち着いた。先生が口を開く。

「今回のテストは難しくなかったです。これくらいのテストで70点は取れないようじゃあ、話になりませんね」

 一言一言が胸に刺さる。

「本当は60点以下は皆追試にしたかったんですがね、余りにも多すぎるんでやめました。それで追試は34点からですね。34点も入りますからね。該当者は勉強しておくように。追試は三日後です」

 俺は自分の答案を見る。34点。

 今、先生はなんて言った?34点から追試。34点も該当。

 34点、それはつまり俺の点数。34点34点34点。34点、から。

(うわああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!)

 叫び出したかった。何で。どうして。あと一点。あと一点さえあれば。

(ちくっしょおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!)

 何かを言い続ける先生の声など耳に入らない。この瞬間から俺の頭は《追試》という二文字に支配されてしまい、胸の中は屈辱の追試デビューをたった一点取れなかっただけで果たしてしまったという悔しさで満たされた。


 三時間目が終わったあとの10分休みに左隣の古川に話しかけられた。

「只野お前さ、何点だった?」

「そういうお前はどうなんだよ」

 古川の学力は追試を取らないテストはないのではというほどだ。つまり、率直に言ってバカ。そんな奴にいつもなら堂々と俺の点数を自慢してやるのだが、如何せん今日は俺の方が点数が低いという可能性もゼロではない。こちらから教えて向こうの方が上だったら正直辛い。だからここは質問返しで切り抜けよう。俺より上だったら点数は言わない。

「33点だよ。また追試だー」

 しかし返ってきた点数は予想を裏切らないものであったため、俺はほっとする。

「俺は34点だよ。追試取っちまった」

「マジ!?お前が!?」

 俺も点数を晒すと古川は心底驚いた顔をした。

「お前今まで追試取ったことなかったんじゃなかったっけ?」

「ああ。これが初めての追試だ」

「はー、あの只野がなぁー。珍しいこともあるもんだ」

「もう俺追試ゼロって言えねえよ・・・・」

 何だかすごく悲し気な口調になってしまった。そんな俺の気持ちを察してか古川は。

「まあ、まだ一回だからいいじゃねえか。俺なんか追試皆勤賞だぞ」

 と慰め(?)の言葉をかけてくれた。てか皆勤賞って……。お前そこまでだったのか。

 それから他の周りの席の奴等も交えて追試とは何の関係もない取り留めの話をしたが、やはり頭のどこかでは絶えず《追試》の二文字がちらついていた。


 昼休み。

 俺はいつも佐倉と品田と俺の三人で昼食を食べている。今日も弁当箱を持って佐倉の席の周りに集まる。

「只野、テストどうだった?」

 話題はやっぱりテストのこと。佐倉にそう聞かれ、俺は正直に答えた。

「34点だったよ」

「え、それって追試……?」

「ああ」

 肩を落とす俺を見て佐倉はにやりと笑った。

 あ、今こいつ俺のこと見下した。

 はっきりと直感した。胸の中にもやもやっとした苛立ちに近いけれどもっと複雑な不快感が広がった。

「品田は?」

 続いて品田にも尋ねる。

 俺は正直、品田も追試であることを願っていた。何しろ、彼も『追試の守護神』という渾名がつくほどの追試の常連なのだ。

「ふっふー。聞いて驚け、実は俺は追試じゃないんだな!!」

「「えっ!!!???」」

 これには佐倉も面食らった顔をした。

 俺の動揺なんて半端じゃない。心臓が止まるんじゃないかってほどの衝撃を受けている。

「いやー俺も驚いたよー。まあ、ギリセフって感じなんだけどさ。いやーついに守護神脱退!!めでたいめでたい!!」

 となるとこの中で追試は俺だけか……。

 四月に出会った頃は二人が追試で俺だけ免れるのがお約束だったのになあ……。

 半年以上経つとこんなにも変わってしまうものなのか。俺だって勉強しているはずなのに。というか今回は得意な単元だったはずなのに。くそう、一体何が。何が駄目だったって言うんだ。

 いつの間にか佐倉は成績が伸びてるし、品田も追試を免れてしまった。そして俺は成績が下がる一方。なんだこれ、全然面白くないぞ。

 佐倉は自分が一番上だと知って満足したのか、さっさとテストの話題を終わらせて別の話をしている。追試という心配事からやっと逃れることのできた品田もどこか嬉しそうだ。

 なんか俺だけ取り残されてる。何だろうこの疎外感。俺が、一人だけ追試を取ったからか……?

 すぐ近くにいるのに、二人がやけに遠く感じた。


 昼休みが終わり、席に戻った。古川と話す気にも、次の授業の準備をする気にもなれずに右側のドアの数センチ開いた隙間から、廊下を通り過ぎる先生たちをぼんやりと眺めていたら吉住から不意に声をかけられた。

「只野君」

「ん?」

「なんか……色々頑張ってね」

 可哀想なものを見るような目で言われた。

 色々ってなんだ色々って。

 そんな俺落ち込んでるかな。

「あ、ああ」

 少し声が上ずってしまった。駄目だ俺。なんか……駄目だ。

 吉住にこんなこと言わせてしまうなんて。

 左下を向き、吉住に気づかれないようにそっとため息をついた。


 帰り道で俺はずっと今日は何を勉強すべきかを考えていた。

 とりあえず、テストはやり直すだろ……。追試って何が出るんだろ。受けたことがないから対処法もわからない。追々試は絶対に免れたい。それすら落ちて補習組に入るなんてもってのほかだ。補習は本当に怖い。既に補習組に入ってしまった奴の話を聞くと、どうやら放課後は毎日何時になるかわからないまで先生に監視されながら数学の問題に拘束され、酷いときは土曜日も午前中はそれで潰れるそうだ。絶対にそうはなりたくない。何とかせねば。

 もうこうなったら追試で満点を取ってやる。追試を取った時点で俺のプライドはズタボロだから、もう心の平穏を保つためにはそれしかない。スムーズに追試の勉強に入るためにはまずは先に明日の数学と英語の予習を終わらせて……ああ、英語は宿題も出てたんだっけ。くそ、やることありすぎだ。何でこんなときに限って。

 それでも事前に計画を立てておいたのがよかったのか、今日は何とか家庭学習においてノルマを達成することができた。1時半までかかったけど。



「はぁぁ……」

 次の日の朝、俺は眠たい目を擦りながら教室に入った。

「おう、只野おはよ!!」

「おはよう古川……お前朝から元気だな」

「そりゃあ昨日たっぷり寝たからな!!」

 笑顔で言う古川は顔つやも良く、健康そのものだ。

 対する俺は目の下に隈ができてもともと細身であるのも相まって不健康そのもの。

「昨日追試の勉強してたんだけどよ……追試って何が出るんだ?」

「まじかお前勉強したのか!偉いな!!俺なんかさっぱりだぞ!!」

 そんな自慢げに言うことじゃないだろ。でもこういうところがこいつの憎めないところなんだろうと思う。

「それって大丈夫なのか?」

「大丈夫だって!!追試なんてテストの問題とそのと解き方さえ覚えてたら余裕よ!!」

「そうなのか?」

「ああ!追試マスターの俺が言うんだから間違いねえ」

 ぐっと親指を突き出す古川。それを見て、俺は何だか笑えてきた。

「そうだな。じゃあテストを復習するだけでいいのかな」

「そうだ。俺なんか前、授業の予習全てそっちのけで追試対策で数学のワークやったけど結局何も役にたたんかった。いやーあれは時間の無駄だったわ」

「そっかいいこと聞いたよありがとう」

「まったく追試受けたことないっていうのも難儀なものだな」

「今回が俺のデビュー戦だからな。是非満点を取りたいね」

「あー狙っちゃう?そこ狙っちゃう?」

 なぜだろう。心を抉るような話をしているはずなのに古川と話すのは劣等感も自分に対する嫌悪感も全くなくて、安心感とか、楽しさとかそんな類のものを感じた。自然と、気持ちが和む。古川も俺も追試組という対等な立場にあるという理由もあるかもしれないけど、でも。

 古川、すげえな。

 佐倉や品田とは全然違う、相手を癒すような会話力が古川にはあるんだろう。

 こいつ、いい奴だな。

 改めてそう思った。


 今日は追試の勉強はやらない。

 家庭学習を始める前、俺は決意した。というのも、数学の授業で今やっているのがとても難しい単元でかつ進みが速いため、その予習をするだけで日付が変わってしまうだろうと予想したからだ。それに、古川のおかげで追試の方向性もわかった。結局、何故俺が追試になってしまったかというと得意だった故に油断していたのだ。できるからと早めにワークをやり、それからテストまで二週間ずっと放置しっぱなしだったのだ。だからテストを受ける頃にはすっかり忘れてしまっていた。つまりはそういうことなのだ。油断は禁物。改めてその言葉が心に染みた。しかし、テストを解き直し、ワークを見直したことで記憶は全て蘇った。もう大丈夫。テストの問題の解法は全て理解できる。だからひとまず追試のことは忘れて明日の授業に集中しよう。

(しっかしあの教師、一日で10ページ進むとか鬼かよ……)

 心の中で数学の教科担任に悪態をつきながら、俺は教科書のページを開いた。



 遂に追試前日になった。昼休み、今日は品田は部活のミーティングがあるとかでいないので佐倉と二人で弁当を食べる。

「今朝さ、母さんが朝ごはんにカツカレー出してきてさ、そんな脂っこいもん食えるかーって感じだよな」

 いつものように他愛もない話を振る。

「……そうか」

 しかし佐倉は軽く相槌を打つだけだった。それ以上話を発展させるでもなく、自分の話にすげ替えるわけでもなく。

 なんか最近こいつと話弾まねえな。前はもっといっぱい話してたはずなのに。

 最近の佐倉はなんか変だ。焦っている感じがする。現に、さっさと弁当を食べ終え、勉強道具を広げ始めた。

 ……おいおい、俺がいるんだぞ?まあ、嫌われてはいないってことだろうか。しかしこいつは話によると毎日塾で三時間、土日は7時間近く勉強してるそうなんだから昼休みくらい休んだっていいだろうに。

 そんなことを考えながら「あー明日追試だー」と言ってみる。

 佐倉は俺をちらりと見もせずに「そうか、頑張れ」と言った。興味のないことが嫌でもわかるほどの見事な棒読みだった。

 ここまで感情の籠ってない応援も珍しいなと苦笑した。


 明日は追試だ。

 風呂に入ったあと最終確認のために机に向かい、今度は本格的に時間を計ってテストの全問を解き直した結果はたった二問間違えただけだった。どちらも計算ミス。

(よし、これなら明日はいけるな)

 自分に自信をつけるように大きく頷き、明かりを消してベッドに入った。

 だがしかし。

 (……ね、眠れねえ……)

 どういうわけかさっぱり眠気がやってこない。もしかして俺、緊張してる?

 何だろう。受からなかったらどうしようとか、問題の出し方変わってたらどうしようとか、問題を二回解いただけで本当にいいのかとか、無意識にそんな不安が頭をよぎってるみたいだ。どうしよう。このまま眠れなかったら、明日睡眠不足で放課後の追試で睡没なんて……。

 どんどん悪い方に考えていく頭をなんとか思考停止させようとする。

 やめろやめろ。考えるな。何も考えるな。寝よう。今はただ寝よう。

 しかし寝ようと思えば思うほど不安が大きくなってきてどうにも眠れない。起きて机に向かおうとする気持ちをだるさで抑えて頭まですっぽりと布団を被った。そうやって、かなり時間はかかったけど俺は今日という夜を乗り切るのに成功した。



 そして迎えた追試当日。

「やべえ、追試まじやべえ」

 教室では朝から古川が大騒ぎしていた。

「どした古川」

「やべえよ全然わからねえよ。てか覚えられねえ!!どうしよう真面目に不安になってきたわ」

 言いながら図形やら数字やらが書かれたノートに目を通している古川。その様子を見てこいつより俺は確実にできるなと思った。そのとき気づいた。きっと、俺は今佐倉みたいな目をしているのだろうと。何も佐倉が感じ悪いのではない。俺もだった。あんなに良くしてくれた、対等であることの安心感を与えてくれた古川にさえも俺はそれより上に立ちたいと思ってしまったのだ。

 くそ。

 一瞬芽生えたそんな黒い感情を何とか散らそうとする。

「頑張れよ古川ー。テストをやり直しておいたらイケるんだろ?」

 しかしそれはすぐには消えてくれず、次に俺の口から出たのはそんな何とも嫌味っぽい言葉だった。

「いややり直しはしたんだけどさあ。只野はもう完璧なんだろ?」

「いやまあ俺はね」

 あ、なんか俺少し得意になってる?このまま調子乗ったら嫌味な奴になってしまう。やめようやめよう。どうにかこのノリを脱退しなければ。話題を変えよう。

 そうして、俺は何とかこの何とも嫌なノリを振り払った。


 放課後。遂に追試だ。

 追試会場である社会科教室に向かう。ところで追試ってどれだけいるんだ?俺は今のところ古川しかしらないが……。

 教室に着いてびっくりした。

 何だこの人の多さは。

 いや全部で八クラスあるか当然と言っちゃ当然かもしれないのだが結構追試受ける奴って多いんだな……。俺だけの点数が悪かったわけではない事実にほっとする。

 教室の入り口には座席表が貼ってあった。俺の名前もちゃんと書いてある……げ、一番前かよ。まあ追試のときだけの席だから関係ないけどさ。

 一番前の席って落ち着かないな。左右の人は真剣にテスト問題を見たり参考書を見たりしてる。あれ、何もしてないの俺だけじゃね?数学だから昨日やったし大丈夫かなと全部問題とか置いてきたんだがまずかったかな。若干不安になってきたところに先生が入ってきた。

 まずは計算用紙を配る。それから答案用紙。

「名前を書いて裏返しにしてください」

 名前を書きながら問題をちらりと見る。どれも見たことあるのばかり。大丈夫。これならいける。

「それでは始めてください。時間は55分です」

 そして追試が始まった。


「はいじゃあ時間です。集めてください」

 先生の合図でシャーペンのガリガリという音が一斉に消えた。

 張りつめていた教室の空気が一気に緩む。

 後ろから問題が送られてきた。

 一瞬、自分の答案を重ねる前に前の人のを見たがそれは空欄だらけで、埋まっている解答欄が空欄より少ないという有様だった。

 俺はというと結局、わからない問題は一つもなかった。それどころか、20分ほど時間が余って見直しを2回やれたほどだ。

(これで満点じゃなかったら俺発狂するわ……)

 そんなことを考えながら「時間足りなかったー」とか「全然わかんねー」とか「追々試だー」などという声を聞いて、同じ追試組には変わりないくせに優越感ににやりとしてしまう自分がいた。

 


 そして追試翌日の数学の時間。

「はいじゃあ追試返すぞー」

 先生が言った。

 まじか。皆の前で返されるのか。

 自分は追試を受けた落ちこぼれですって言っているようで何だか恥ずかしい。

「清田ー、古川―、……――只野」

「は、はい」

 俺の名前が呼ばれた。心拍数は急上昇。「え!?只野!?」「まさかあいつが!?」そんなクラスメイト達の驚きの声に包まれながら教室の前まで行き、恐る恐る先生から答案を受け取る。先生の表情からは何も読み取れない。ニヤリともしなければ難しそうな顔もしない。俺は受かっているのだろうか。席に戻るまで、軽く二つ折りにされている答案は開かない。

 よし、開くぞ。

 席に着いた俺は何かやましいものでも見るかのように答案用紙を全部開かず、右上の方だけをそーっと開いて覗き見た。

「あっ」

 そこには。

 100点。

 そんな三桁の数字が堂々と誇らしげに刻まれていた。

 100点満点中、100点。

(いやったああああああああああああああああああ!!!!!!!!)

 俺は踊りだしたいような気持だった。小さくガッツポーズをする。

 左を見ると古川が満面の笑みで親指を立ててこちらを見ていた。どうやら古川も受かったようだった。

 本当に良かった。でも。

 こんな追試で満点をとれるんだったら最初から満点が取れたんじゃないか。

 そんなどこか残念な気持ちがあったのも否定はしない。

 とにもかくにも。

 もう追試は懲り懲りな俺だった。今日からまた勉強しっかり頑張ろう。











 


 

 



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― 新着の感想 ―
[一言] 読みやすかったです! 人間のエゴがいい具合に書かれていたと思います 長さもクドくない程度で(個人的判断ですが)ちょうどよかったです(^^)さすが、と言っていいのか(笑) ただ妙にリアルで、…
[良い点]  本当にただ追試を受けるだけの話でしたが、何故か引き込まれました。初めて追試を受けることになった時の、焦りや不安がよく伝わってきて、自分も初めての追試の時はこんな感じだったなと思い出しまし…
2014/10/18 05:04 退会済み
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