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My Sweet Home  作者:
33/52

部活とオヤと学校と

 夏の合宿は、8月の第1週と決まった。中原美保がどう根回ししたのか、葉月たちが口にする前に松田先生からその旨の発表があった。

『大学の施設だから、宿泊費は部の予算内に収まる。往復もスクールバスだから、交通費の心配もしなくて良いぞ』

 なにしろラグビー部も一緒だからな、と嬉しそうに続ける松田先生のことばに、小谷恵子がなぁんだと呟く。

『そりゃ、学校もバス出すわ』

 ラグビー部は去年、県大会の決勝まで進み、惜しくも準優勝に終わっている。今年こそは全国大会へと、学校をあげての期待を背負った強豪だ。

『うちも、天文部も、金魚のフンてとこだね』

 ふたりペアを組んでの柔軟体操をしながら、樋田久実子が苦笑まじりに言うと、まぁそんなもんでしょ、と田丸涼子がのびやかに返す。

『いいんじゃない。おかげさまでタダで合宿できるんだから』

 その田丸涼子にグイグイと背中を押されながら、葉月は中原美保のようすを窺う。けれど、身体の固い中原美保は容赦なく圧迫する小谷恵子の腕の下で悶絶していて、それどころではなさそうだった。

 いずれにしても合宿があるというのは葉月にとって吉報であり、そこに中原美保が絡んでいようといまいと、さして重要なことではない。葉月は母親に報告する段取りを頭のなかで忙しく練った。中学校を卒業するまで葉月は、林間学校や修学旅行といった行事のほかに家族以外との外出をしたことがなかった。そして恐らく母親の中では部活動の合宿など、学校行事以外のものに分類されるだろう。たかが1週間、されど1週間。それだけの期間を不在にすると伝えたときの母親の反応を思うと、葉月は身がすくむようだった。


『合宿?』

 電極に繋いだコイルから、七奈美は目だけを上げた。教壇では白衣を着た前田先生が実験の手本を見せている。コイルを持つ左手の薬指にはこなれたようすのリングが収まっていて、中原美保は前田先生のどこを好きになったのだろう、と葉月は幾つかのグループに分かれた中から彼女の姿を探し出そうと視線を泳がせた。

『ちょっと、はづ。話振っといて、なにそれ』

 そんな葉月の脇腹を麻季が突ついて、ぴくんと身をよじらせた拍子に葉月は視界の片隅に中原美保の横顔をとらえる。熱心に手元を見詰めるそのようすは優等生そのもので、実際に彼女の成績は学年でも1位2位を争うようレベルらしかった。

『おとなしそうな顔して、ね』

 葉月の視線の先に気付いた麻季に耳打ちされ、曖昧に頷きながら葉月は自分たちの実験に向きなおる。どんなに解説されても、電流の仕組みは頭に入らない。高校に進学してからというもの、理数系の学科は平均点を取るのが精一杯というありさまだった。

『え、で、なに?合宿って』

 シャープペンシルを指先で回しながら、七奈美は反対の手で葉月の袖を引く。グループにひとつずつの実験セットは男子の手元に渡って、かっこうの遊び道具になっていた。

『うん。ラグビー部の合宿に便乗して、うちと天文部が、』

『天文!?』

 声を上げかけた麻季が慌てて手で口をふさぎ、教壇を盗み見る。そのままそっと中原美保に視線を走らせた麻季は、葉月と七奈美を交互に見て肩をすくめた。

『なんかさぁ……。いいの?そういうの』

『いいもなにも、決まっちゃったことだから、ねぇ』

 うーん、と唸る麻季に七奈美が呆れたような顔を向ける。

『いいじゃん、もう。ほっときなよ』

『えー、だって……』

『いいから』

 麻季をたしなめておいて、七奈美は葉月に視線を戻した。

『で、なに?なんか気になることでもあんの?』

『うん……。いや、うちオヤが厳しくてさ』

 ダメとかって言い出しそうな気がすんだよね、とうなだれる葉月を前に、七奈美と麻季は目を見合わせた。

『そんなの』

『強制参加って言っときなよ』

 声を揃えて言うと、また顔を見合わせ、ぷっと吹き出す。

『はづ、さ』

 指先に挟んだシャープペンシルで葉月の手の甲を突つきながら、七奈美はほんの少し真顔を覗かせた。

『学校も、部活も。オヤは関係ないよ』

 悪いことしてるわけじゃないんだし、気を使うことないよ。七奈美のことばに、麻季も頭を縦に動かす。そうそ、あれこれ文句言われてもトランペット吹くの、あたしだしね。

『それ、どういう例えよ』

 七奈美が麻季の額をピンと弾く。いったぁい。大袈裟に上げた麻季の声に、周囲の目が集まる。

『そこ、ふざけない』

 教卓に座ったまま背中だけ伸ばした前田先生の声に終業のチャイムが重なって、葉月はうーんと声に出して両手を上に伸ばした。

『実験、終了っ。先生、お昼の時間です』

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