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My Sweet Home  作者:
17/52

図書室

 植村さん、と声をかけられて顔を上げると、同じクラスの白間さんの笑顔に迎えられた。

『ここ、良い?』

 葉月の隣を指し、返事を待たずに椅子をひく。葉月は頷いて、白間さんのために少しだけ椅子を横にずらす。放課後の図書室を利用する生徒は少なくて、葉月と白間さんを除いては、貸出カウンターの中に退屈そうに図書カードを整理している図書委員の姿があるだけだった。

 菫と麻里絵から拒否されて以来、葉月は図書室で放課後のひとときを過ごすようになった。母親にはまだ、茶華道部に所属していることにしていたから、早い時間に帰宅する訳にはいかなかった。それに、図書室には読みきれない程の蔵書があって、そのひとつひとつが、葉月を虜にした。

 なに読んでるの?白間さんが葉月の手元を覗く。フランソワーズ・サガンの小説を閉じて、葉月は答える。

『悲しみよこんにちは』

 名作とうたわれているその小説に、葉月はまるで感情を移入できなかった。

『面白い?』

『わかんない』

『なにそれ。読んでたんでしょ?』

『そのうち面白くなるかなぁ、って』

『ああ、なるほどね』

 白間さんは笑う。どうしたんだろう、急に。葉月が目で問うと、白間さんは思い出したように真顔に戻った。

『植村さん、英語どうだった?』

『98点』

『あ~、負けた。あたし96だったから、今回はいけるかと思ったのに』

 週末にあった中間試験の答案に点数がはいり、ぼちぼち手元に戻ってきている。葉月の学校では、試験のたびに上位10名が発表されることになっていて、白間さんと葉月は毎回3位から6位辺りをうろうろしていた。

『でも、まだ数学が返ってきてないから』

『う~ん。でも、国語では絶対に勝てないしなぁ』

 読書量がさいわいしてか、葉月は国語の試験で点を落とすことがなかった。けれど、数学と理科の成績は学年が進むごとに低迷し、ときには上位10名から外れることもあった。

『やっぱりさ、国文とか、そっち進むの?』

『……どうだろう』

『間違いなく理系ではないもんね』

『うん』

 頷きはしたものの、葉月はまるでぴんとこなかった。そろそろ周りが口にしだす行きたい高校のことも、葉月にはまだ想像すらできないのだ。

『白間さんは、どこの高校、受けるの?』

『あたしは、西葛かな』

 白間さんが口にしたのは、地域でもトップレベルの進学校だった。

『英文に行きたいんだよね』

『ふうん』

 英語を本格的に学んで、通訳になりたいのだという。

『だから、英語では誰にも負けたくないんだよ』

 あ~、悔しい。半分冗談で、でも瞳の奥に強い意思を見え隠れさせながら、白間さんは葉月の腕をつついた。

『植村さんは?何になりたいの?作家?』

『……看護師』

『……うそ』

 全然、方向性違うじゃん。もったいない。白間さんは目を丸くする。

『なりたいんだったら、良いと思うけどさ……』

『……うん』

『もっと、向いてる仕事ってあると思うよ』

向いてる仕事。でも、お母さんは向いてると言った。それに、わたしは……。

『わたしね、誰かの役に立つ仕事がしたいの』

 葉月の言葉は、半ば自分に言い聞かせるようでもあった。

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