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勇者と愉快な仲間達

勇者と一緒に国を捨て

作者: 酒人月歩

性転換とかホモォもぬるめであるよ!ギャグの範囲内ですが!

 東南の大地には魔王がいる。魔族を統べる王だから魔王。

 そんな魔王が最近侵略を始めたらしい。東の小国が滅ぼされたとの報が入ったのはつい最近だ。同盟国ではないが人族の住む土地が侵略されたのだ。人々は戦々恐々としている。


 なんて言ってたら自分の国の近くまで魔王軍が来るなんて誰が考えると思うのか。忙しいのに、自国の上層部がアホな事を言い出した。


 曰く、勇者を召還する。別の世界から呼び出すらしい。

 曰く、勇者は世界を渡るに当たって色々な能力を付加させるらしい。

 曰く、召還後は姫様と結婚させてこの地に縛り付ける予定らしい。


 生温い目で私はその言葉を聞いていた。もちろん、意見を求められた際にははっきり言った。

「責任押し付けた上にコキ使うとか鬼畜の所業ですね。あと予算は出しませんので悪しからず」

 勿論無視された。それくらいに自分の地位は低いのも、上層部から居ない様に扱われるのも慣れている。そろそろこの国を捨てていいかもしれない。いや、存在感の薄さは昔からだから出たところで野垂れ死にしそうな予感。あれ、目にゴミが……。


 もうどうにでもしろよ、正し予算は譲歩する場所まで、という結論に至ったのであとは丸投げ。金銭に関してはきっちり〆ました。召還をする魔術師よりも勇者予算が多めですが何か。この国の人間に払う金はねぇ。

 そうして呼ばれたのは、か弱そうな少女……ではなく少女のような少年だった。あれ、ウチの王子もけっこうな男の娘だったけどこの子それ以上だよ?

 肩までかかるこげ茶の髪を無造作に纏め、黄みがかった白い肌、ぱっちりとしたお目目に桜色の唇。でも骨格は男。身長は普通だが、線が細いので小さく見える。あれ、彼の苦労が今から目に見えるようで……最近逆さまつげで目が痛くなるなぁ。

 彼に勇者になって魔王を討ち取ってくれ、と王が言うとその可愛らしい顔を歪めて「はぁ?」という。

 可愛らしい口から罵詈雑言が飛び出たことで、王や側近達が目を丸くしていた。ははは、自分も驚いたけど今の気持ちは「いいぞもっとやれ」だ。プ、宰相涙目ざまぁ。

 しかし、王宮の面々はやられっぱなしにはならず勇者になれ、選ばれたものの義務だなんだと騒ぎ立てる。それ完全にこっちの都合だよね、と思ってすこしばかりイライラしてくる。

「ふざけんな、俺がなんでそんな面倒な事をしなきゃならん」

可愛い勇者は嫌そうに顔をゆがめて言う。

「魔王の侵攻を止めなければ人間が滅んでしまうんだ。どうか助けてくれ」

「俺一人がどうにか出来ると思ってんのか?頭おかしいんじゃねぇ?」

 王が下手に出ても勇者の態度は変わらない。

「貴方ならできます。貴方はこの世界の人間ではないし、この世界の神に祝福された力があります。その力を以ってどうかお救い下さい!」

 王女がうるうるさせた瞳で言う。出ました、性悪王女の泣き落とし攻撃。アレを食らって破滅したという人間が何人も居る。効かなくても破滅した人もいるようだけど。

「神ぃ?いるなら連れてきて俺を説得させてみろよ。会ってもない人間に態々祝福するとか、使い捨てする気満々だろ」

 おっと、本質を突いた言葉に王宮の面々が動揺している。ざまぁ。

 なんて考えていたら、王がキレて選出したらしいパーティーの面々に勇者を引きずって行かせた。頑張れ、勇者。

 それからまた議会が開かれた。やる気のない勇者をどうしようか、そしてもう一度召還するか。閑閑諤諤の議論。

 こんなことやってる暇あるんすかねー、と部下が鼻をほじっていた。解るけど議会室ではやめなさい。

「勇者を殺して新しい勇者を呼ぼう」

 と、誰かが提案した。一瞬静かになった室内が異様な雰囲気に包まれたと私は思う。

 ほら、周りが賛同し始めた。個々まで頭が沸いているとは思いもよらず、私は決心した。部下もそれが解ったらしい。私たちは議会が終わると同時に焦ることなく執務室にもどった。

 戻った瞬間の私と部下の行動はそれまで着々と用意していたものの点検だ。

 私には大勢の部下が居ない。なんでこう、予算を組まされたり使用人の管理まがいのこと色々してたのに部下一人だけなの?バカなの死ぬの?という面持ちで仕事をしていたわけですが、これでもうオサラバだ。


「生きてたら会おう、イグリット」

「えぇ、アクタさんもお元気で」

 拳を会わせてイグリットを送り出す。そして私はというと。


「やぁ、勇者。一緒に旅に出ないか」

勇者を誘いに行っていた。もちろん超絶仏頂面で睨まれた。それもそうだろう。石壁の隙間から覗き込んで話してるわけだし。

「勿論、魔王を倒す旅じゃない。生きるための旅だ。このままだと君、殺されるからね」

というと更に睨まれた。

「議会でね、君を殺して新しい勇者を召還しようって話が出てたから。パーティーメンバーも居ないし逃げるならイマノウチ」

「見返りもなにも用意できねぇぞ」

その言葉に私はにかっと笑う。気にするのはそこなんだ、勇者君よ。

「いいよ。私はね、正直召還なんぞに反対だったんだ。何で、この世界の人間のために他所の世界の人間を誘拐した挙句、死ぬかもしれないのに戦わせて、勝ったら王女と結婚させてこの国の奴隷にしなきゃいけない?これは私たちの問題なのにね?挙句の果てに本人が嫌がったら殺すとかおかしいだろう?」

「まぁな」

 渋々と頷く。

「だから、私は凄く申し訳なく思うんだ。力も権力もない私が反対したところでこのザマだ。んー、でもまぁ、半分以上は好きにしろなんて思った当時の自分を殴りに行きたいという擬似的な罪悪感があるんだ。自分勝手な罪悪感でも持たないよりはマシだとは思うけどね。あぁでも許さなくていいよ、君は存分に私を利用してくれて構わない」

「……正直そんな壁の向こうから子供みたいに首を出して言われてもな」

 呆れたように言う。しかし警戒心は解いてくれたようだ。

「そこはほら、イザというときのためにね?時間が全くないけどどうする?ここで死ぬか、逃げて生きるか」

「……」

 勇者は俯いた。

「あ、言い忘れてた。私はウィンドレッド・アクタと申します」

「名乗るのおせえ上に考えさせろよ!!!」

俯いた瞬間に名乗ったら突っ込まれた。

「あーもー、アンタはここのアホ面どもと違うようだし、死ぬのはごめんだから一緒に行くわ!無事ににげられるんだろうなぁ?!」

「それは勿論、おまかせあれ」

 にかっと笑うと勇者が変な顔をして言う。

「あんた、笑ってるつもりだろうけど……笑うのやめた方がいい」

 失礼な!


 そうして、城の隠し通路へ勇者を誘う。この隠し通路は正直王族しか知らない。何故そんなものを知っているか、というと私は一時期倉庫整理をやっていた。そこで素晴らしい地図を手に入れ、暇さえあれば歩き回った。おかげで今私は密偵レベルに使いこなしている。近道とかあって楽だし。

 勇者を一度執務室へ案内し、用意しておいたこちらの地味な服と皮の防具に着替えてもらう。私も一緒に着替え、資金や荷物を持って改めて通路を通って街へと出る。

 王城通いももうない。アホ面の王と腹黒王子、性悪王女やお人よし宰相、狸の財務大臣などなど色々と煩わしく、雑務をまわしてきたクソ野郎どもと縁が切れたと思うとそれはもう晴れ晴れしい気持ちにもなる。横に居る勇者には気味悪そうな顔をされたのは一体どういうことだろうか。

「ところで、君名前なんでしたっけ」

「あー、名乗ってなかったな。悪い」

ばつが悪そうな顔で勇者は言う。

「ナノッテナカッタ・ナワルイ?」

「誰だそれは!!」

いいツッコミだ。その勢い素晴らしい。イグリッドは慣れたらツッコミすらしてくれなかったからな。

「冗談冗談」

「全く……あそこに居たときは淡々としてたくせに」

舌打ちをする。

「周りを観察する時間よくあったなっていうか私のこと良く覚えてましたねってか見てたんだ」

驚きの観察力である。

「視線が違った」

「は?」

「どいつもこいつも気持ちわりー目してたのに、なんというか、アンタの目線はそれと違った意味で気持ち悪かった」

おかしいなー、雨降ってきたのかなー。視界がぼやけてきたぞー?

「あ、いや、気持ち悪いってもなんてーか、その場においてって意味だからな?!こう、えーっと、そう!違和感というか!」

 フォローしてくれてもそれ以前にけなされてるから泣くしかない。

「あー、とにかく。俺は穂積羽積――ハツミ・ホヅミだ」

よろしく、と手を差し出してきたのでそれに答える。

「韻を踏んでいる素晴らしい名前だね」

「そこかよ、そこなのかよ」

 勇者もといハツミが頭を抱えた。そこだと思うんだが?


 * * * *


 城から抜け出して半年。

 ハツミは勇者補正がかかっているからだろうか、旅の途中に出会った魔獣も魔族もバッタバッタざっくざっくと薙ぎ倒していく。このご時世に出てくる盗賊などのならず者もさっさと切り捨てていく。あれ、私役立たず?でも金銭管理や後方支援してるから大丈夫なはずだ!多分。

 彼が言うには、元の世界で人を殺すことも獣を殺すことは無かったらしい。その割りには随分だと思うのだが、本人は生きるためだからと割り切っているらしい。齢18だというのに達観しているなとは思う。

 そんな彼に世界の事を教えつつ、戦を避けて旅をしていると、あの国で勇者が召還されたらしい噂がとどいた。

 正直またか、と思う気持ちがある。他力本願もいい加減にしろ。あの国の滅亡はもう秒読みに入っている。ぜひとも魔王に頑張って欲しい。応援している。

「……見た目だけならウィンの方が魔王だよな」

聞いた噂を肴に酒場で話しているとハツミはぼそりと呟いた。

「どこらへんで」

 断固抗議したいところだ。

「うん、美形だけど笑うと凶悪だし、色がさ……氷の魔王っていうの?」

 銀髪で青い眼だからな、と笑う。

「私は美形でもなければそんな色で魔王とされる要素は無いはず。むしろ気配を感じられないようで居たの?といわれる始末だと言うのに!」

「それ怖くて言い出せなかったんじゃねぇの?」

 首を傾げられても困る。

「ハツミ、私の影の薄さを舐めてはいけない。親兄弟からも居ないと思ってたと散々悪口を言われ出先や家に置いていかれ、学院に通っても同じ繰り返し、就職してからも同じ上雑務を押し付けられるというこの雑魚っぷり」

「いやー、聞いただけだとウィンは雑魚と言うか、なんでもこなしちゃったからまずかったんじゃないの?なんだかんだと利用されてたというか。そうじゃなきゃおかしいぞ、仕事の量が。労働基準局に訴えられるレベル」

「ろうどうきじゅんきょくが何かは知らないが、そこまでかね?」

 確かに、おかしいくらいの仕事量だった。財務局仕事しろと言いたいくらいの財務系の雑事、女官長侍従長仕事しろというくらいの後宮や使用人の管理の雑務、騎士団の書類整理に図書室や倉庫の整理に夜会茶会の整備の交渉とってあれ?私身分なんでしたっけ。

「……庶務課」

ハツミがぼそり、と呟く。

「しょむか?」

「本来の業務じゃなくて、給料の計算みたいな事務仕事や備品の管理とかまぁ、色々やるところだ」

ハツミは苦笑して教えてくれる。まさに私のやっていたこと。

「が、大きな会社だと……たとえば有名で大きな商会レベルだと、総務という大きな部屋になる。もちろんそれなりに人数は居る。だけどさ、ウィンはあのお城の中でたった二人でこなしてたんだろ?うすら寒くて声をかけられないか、あまりに自然で仕事したように思えなかったんじゃないの?」

「私の存在が空気なのは理解した」

 そこじゃねぇ、とハツミは頭を抱えた。最近彼は良く頭を抱えるが、大丈夫だろうか。



* * * *



 魔王の侵攻は勢い止まらず、しかし勇者に阻まれていると聞いた筈なのだが。

「あ、ウィン。紹介するわ。さっき会った魔王」

とハツミが朗らかに、漆黒につつまれた美丈夫を紹介してきた。

「魔王?」

首を傾げると、

「デザイア・フェデリという名前が他に居なければ」

と美丈夫は笑う。

 そういえば魔王ってそんな名前だった。正直忘れてた。魔王で通じるし。

「なにがどうなった?」

と首を傾げる。

 いや、ホント私が買い物している間何してた?ここで昼飯食べてるっていうのは聞いてはいたが。

「あー、省略すると、この酒場に向かってたら女と間違えられて絡まれてたんだが、助けてくれた」

 ハツミは笑うが、若干哀愁が漂っている。

「つまり絡んだバカと魔王に女性と間違えられて凹んでる、と」

「ちげぇよ!」

 真剣に頷いたら突っ込まれた。

「くっ……君たちは面白いな」

 漆黒の美丈夫は拳を口にあてて笑いを抑えている。そんな姿も絵になるなんて美形爆発しろ。

「異世界の勇者と、雑務の魔王、か。素晴らしいじゃないか色々と」

「……ハツミ、何を話した」

 初対面の人間が何故知ってる。その二つ名の様なものは何だ。

「あぁ。デザイアと話し込んでたからなー」

「雑務の魔王とはどういうことですか」

「だから見た目もだけど城の雑務を二人で回すその手腕は魔王の如くって聞くのそこか。どうして話したとかじゃないんだ」

 それ以外何を問い詰めろと言うのだ。そもそも、どちらを話してもこのご時世どうせ信じられないだろうから別に話したって構わない。正確に言えばハツミは勇者ではないのだし。召還されたときの補正はあるけれど。

「ふむ、人間のしかも王国の要の雑務を二人でこなしていたとなればさぞ優秀なのだろうな」

と魔王ことデザイアが満足そうに頷く。嫌な予感。

「いいじゃないか。ハツミ、それと……」

「あ、ウィンドレッド・アクタです。ウィンでいいです」

「そうか。ハツミ、ウィン。私と共に来ないか?」

魔王からのお誘いです。

「いや、旅してる方が面白いし宮仕えは懲り懲りなので遠慮したいです」

 即答か、とハツミが言っているが当たり前だ。

「前の給料の5倍は出すぞ?」

「それで仕事が五倍になっても……」

 嫌に決まっている。確かに前の給料の五倍はオイシイ!オイシイけど!

「ふむ、そこまで仕事量は多くないと思うが」

 魔王は頤に指をかけて考えるしぐさをする。

「因みにどんなお仕事で?」

「うむ、我が国は色々な意味で人手不足だからな。まずは適正を見せてもらおうかと思うのだが」

どうだ?と魔王が笑う。凄く……人誑しの笑顔です。こ、コレだから美形は……何か背筋が寒くなったのは気のせいだ。気のせいったら気のせいだ。ハツミも同じ事を考えたのか「タラシですねわかります」と呟いて笑っていた。

「まぁ、確かに色んな国落としてますもんね。広大な領地を治めるには人手不足でしょうし」

まぁ、適正とか何があるか知りたいしと頷こうとすると、魔王は微妙な顔になる。

「もしかして、そちらの国では私が落した国をすべて魔国の領土にしてると勘違いしているのか?」

「え?違いますか?」

そう聞いたんですけども。

「別に落したつもりはないし、自国の領土にしたつもりもない。侵攻したと言えるのはガラリア神聖国のみだ」

 ガラリア神聖国は東にある国の一つで魔王や魔族たちに対して妙に敵対していた宗教国家だ。太陽神に選ばれし人間を最上の種族とし、闇の神に祝福された魔族たちを穢れた種族としてなにかとちょっかいを出していたと記憶している。

 確かあまりにちょっかい出してきたので返り討ちにしたんだろうなと思う。侵攻され、滅んだと聞いたときは「ざまぁwww」って笑った覚えがある。あの太陽神信仰の宗教者は大体が傲慢で肥えており、神殿雑用まで私に押し付けたからな!あのジジイどもの蒼白な顔にイグリッドと共に祝杯をあげたほどだ。

「他にちょっかい出してくる国やその気配のある国に直接出向いて牽制してるが、属国にした覚えも滅ぼして領土にした覚えはない」

「じゃぁ勇者は?!魔王の軍勢が近くに居たってあれなんなの?!」

そんな噂あったなー、とハツミが苦笑している。

「ハツミの次の勇者か?あれが勇者とは、高が知れている」

 魔王は鼻で笑った。あぁ、会ってはいるんだ。

「周りに騙されていると知らずに、独りよがりの正義感に浸って力を振るうバカだ。叩きのめして召還された国に送っておいたよ」

 黒い笑いを漏らす。

「……元ですが、我が国がご迷惑をおかけしまして」

 思わず謝ってしまう。

「あのくらい構わんよ。また向かってきたときには考えるが」

 とくすくす笑う。

「魔王の軍勢、ね。大方私に追いつけなかった護衛たちのことだろう。いらないというのに毎回100人は寄越してくるのだ」

「それは迷惑な話ですが、一国の王としてそれはどうかと」

 強さがわかってても心配なんだろうなぁ、そこは部下の気持ちを汲んであげて欲しいなぁとと思う。しかし魔王は気にしていないらしい。

「と、言うわけで俺の国は東の最果、ハーディアルだけだ。とはいえ、最近人材不でね。教育中でもあるが、即戦力がなくてな」

 悪くはないが効率が上がらない、という。

 いや悪くないなら魔王様がフラフラ出歩いてる方が問題だと思うんだが。

「他国の牽制ついでに人材探しもしているんだと」

ハツミが言う。

「はぁ、じゃぁ適正を見てもらうくらいはしてもいいですよ。あとは環境によりけりですね。あと、ハツミはいいのか?」

 道連れに聞くと

「あぁ、ハーディアルはなんか面白そうだからな」

と答えてくれた。魔族の国は確かに、こちらの国とは違うこともあるだろう。他国の文化に触れるのは面白いものだ。

「決まりだな」

 魔王が満足そうに笑う。

 てっきり歩いていくのかと思ったらまさかの転移だった。書類に埋もれて死にそうな人が魔王を見た瞬間生き返って飛んできて二人で喧嘩し始めたりとかハプニングはあったけども魔族の国ハーディアルにいとも簡単に来てしまったわけだ。



* * * *



 さて、私は今聞きたいことがある。

 それは目の前でにやにやしてるハツミと、感涙に咽ぶ魔王城の面々と、私の手を取って跪く魔王。いや、どうしてこうなった。

 私は魔王城でハツミとともに色々調べてもらっていたわけだ。筆記やら実技やらいろいろあった。うん、私に出来る範囲で頑張った。最終は魔力があるかとかも調べてもらったらどうしてこうなった!!!

「おめでとう、ウィン」

 爆笑寸前の顔で何を言うか、この勇者。恨みがましそうな目を向けると、決壊したらしい。勢い良く噴出した。

「ま、まさか……再就職先が……ぶふっ……ハーディアルのぶっ……おう、王妃っ……王妃とかぶっふー!!ウィン王妃かー!ひぃ、ひぃいいい」

「まだ決まってないから!再就職するとか言ってないから!」

 このクソガキ!と叫んでもハツミは死ぬほど笑っていて聞いていない。

「魔王、頼むから跪かないで欲しいし手を離して欲しいしそんなキラキラしい笑顔を向けないで頂きたい!」

 と懇願してもうっとりと見られる。美形のうっとり顔(しかも同性)とか怖すぎる。

「俺はな、自分を越えるか、近しい実力を持った者を伴侶としたいと思っていたのだ」

「私の何処が貴方と同じ実力があるというのです!」

 叫んでもびくともしない。そもそも伴侶って。伴侶って。

「伴侶ー!?」

 ハツミが叫んで更に吹いている。ハツミ後で殴る。

「魔力だ。その身に蠢く魔力の強大なことを知らぬとは」

「いやいや、魔力とか無いと言われてましたし、魔法とか使えませんからね?!」

「それは回りの人間が愚鈍だったのだろう」

「否定できないんですがとにかく手を!離してください!」

 抜こうとしてもがっちり掴まれて動かない。びくともしない。

「嫌だ。それに俺は君に惚れたのだ」

「会って間もないのにそんな告白されても!」

「確かに会ったのは先日の昼だ。しかし私は君の存在をそれ以前に見かけたのだよ」

 どこでですか。魔王に目をつけられてたとか怖すぎる。

「ディアル国の王都だ。その銀の髪、忘れはしない」

「いやいやいや、こんなの何処にでも居ますから!」

「一瞬にして魅かれた者を間違えるはずはない。何より、ハツミが側に居たのが証拠だ。そしてこの魔力からしても間違いではない」

「万が一本人だといたしましょう。しかし私は男ですよ!?」

 爆笑の中「確かにホモォ」とハツミが咽ていた。ホモォじゃない、ホモォじゃ!!というかホモォとはなんぞ。

「問題ない。魔族は伴侶の性別も姿にも頓着しないからな」

「そこはして欲しかったかな!」

「では、君の姿を変えれば問題ないな?」

「ご自分は選択肢に無いんですか?!」

「うむ、言っただろう?『伴侶の姿には頓着しない』と」

 つまり、あくまで伴侶に対してであって自分自身の姿には拘るんですか。

 膝から崩れ落ちそうになったのは言うまでも無いが、必死にこらえている。多分ここで崩れ落ちたらまずい。

「TS最高じゃないですか、王妃になっちゃえよ、ウィン」

 ふひっと笑い声をかすかに残して何を言うのだ。TSって何だ。さっきから凄く不愉快な事を言われてる気がする……。

「は、ハツミじゃダメなんですか?彼も結構な魔力もちだと思うんですが」

「君がいい」

熱っぽい視線寄越さないで下さい。あ、今なんか背筋に寒いものが通ってきた。

「ウィンドレッド、私の伴侶になってくれ」

 美形が微笑むと殊更綺麗だ。しかし、私に同性を愛するという気持ちは無い。しかし考えてみれば異性に対してもそういう気持ちをもたなかっ……あれ、ちょっと目頭が熱くなってきた。思えば家族にも他人にも広義狭義の愛を感じたことはあまり無い。私人間じゃなかったのかーそうかそうかーそして待って、魔王が何か唱えてます。

「ちょ、ま、何を?!」

 と叫んだ瞬間、足元から光に包まれる。ひぃいいいい、何をされたの私!?

「TSキタコレ!!ウィンやっぱり美人だよなー」

 光が収まると、ハツミの言葉が聞こえる。もうあいつ殴っていいよね。

「これで問題なかろう?」

 魔王がにやりと笑う。まるで肉食獣……だ?

「問題……?」

 まさか、と思いつつ自由な手でそっと胸元に手を当てると、ふにょん、と柔らかな感覚。おそるおそる俯くと。


 ありました。謎の膨らみが。あれですか、男の浪漫がつまっているという――


「~~~~~っ?!」

声にならない悲鳴をあげた次の瞬間。

「こ、婚礼の準備だあああああ!」

「急げ!魔王様がご結婚なさるぞおおおおお!!!」

「国中に知らせろ!!」

と臣下たちの怒涛の叫びが部屋に響く。


 気づけば呆然としたまま幾日が過ぎ、気づけば逃げられないように外堀を埋められ、元の姿に戻れぬまま魔国ハーディアルの王妃とされていた。もちろん食われましたとも!ちくしょう!!!!


すみませんホモォって呟いてるだけでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] ぜひとも後日談が読みたいですなぁ(2828
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