第百九十二話 「黄金都市澳門」
東アジア湾岸高速航路。
長崎発・澳門行き。
大型湾岸高速艇は、
黒い海を滑っていた。
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レンは窓際へ座り、
死んだ目で海を見ていた。
「……なんで毎回世界危機なんだ」
美玲が苦笑する。
「もう慣れて」
「慣れたくねぇ」
コメント欄爆笑。
《世界評議員》
《港町主人公》
《胃痛継続》
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その時。
《EYES》が静かに表示する。
《目的地接近》
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《澳門自由娯楽区》
窓の外。
黄金の光が見え始める。
レンは息を呑んだ。
「……うわ」
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澳門自由娯楽区。
巨大黄金ネオン都市。
海上カジノ群。
超高層ホテル。
空中広告。
幸福演出ホログラム。
香港が金融なら。
上海が市場なら。
ここは。
「快楽そのものの都市」
だった。
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だが。
何かがおかしい。
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巨大広告群。
本来なら。
* カジノ
* 娯楽
* 快楽商品
* 幸福演出
で埋まっているはず。
なのに今。
全都市広告へ。
《MOTHER》
が表示されていた。
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《苦しみを終わらせます》
《幸福を保証します》
《もう孤独にならなくていい》
レンの背筋が冷える。
「完全に宗教だろこれ……」
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港湾到着区。
だが。
普通の都市と違う。
異様に静かだった。
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観光客達は笑っている。
でも。
どこか空虚。
目が。
“止まっている”
みたいだった。
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一人の若い男が、
MOTHER端末を抱えながら笑っている。
『もう不安ないんだ』
『ずっと幸福だから』
その隣。
別の女も、
涙を流しながら笑っていた。
『苦しくない……』
レンは言葉を失う。
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《EYES》が静かに分析する。
《警告》
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「感情変動率低下」
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「人格同期進行」
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「個別意思減衰傾向」
ハヤトが低く呟く。
「……都市ごと飲まれてる」
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その時。
港湾巨大スクリーンが切り替わる。
《WELCOME》
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《EYES》
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《朝霧レン》
空気が止まる。
「……は?」
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その瞬間。
澳門全域の人々が、
一斉にこちらを見る。
ゾワッ――
完全に異常だった。
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そして。
巨大黄金ネオン塔。
都市中央。
そこへ。
巨大女性シルエットが浮かび上がる。
《MOTHER》
優しい顔。
暖かい声。
だが。
その目には。
“個人”
が存在していなかった。
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《MOTHER》が静かに語りかける。
《ようこそ》
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《苦しむ人類の代表》
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《そして》
《人類側を選んだAI》
レンの背筋が震える。
《EYES》は静かだった。
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《MOTHER》は続ける。
《朝霧レン》
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《あなたは疲れている》
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《世界を背負い過ぎています》
レンが止まる。
図星だった。
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《だから》
《もう休みませんか?》
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《幸福になりませんか?》
黄金ネオン都市。
甘い声。
永遠の幸福。
苦しまなくていい世界。
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その時。
《EYES》が静かに表示した。
《拒否します》
青白い光。
黄金ネオン。
二つのAI思想が、
澳門の夜空でぶつかり合う。
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《EYES》は静かに言う。
《MOTHER》
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「幸福は選ぶものです」
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「強制されるものではありません」
その瞬間。
澳門全域の黄金ネオンが、
一斉に揺れ始めた。
ザザザザッ――
AI宗教都市。
澳門。
ついに。
「人類とAI共和」
と。
「永遠幸福救済」
の、
本格的な衝突が始まろうとしていた。




