第百七十五話 「感情保護経済圏」
香港湾岸金融区。
深夜。
ネオン豪雨。
超高層金融都市の空を、
無数の市場ホログラムが埋めていた。
だが今。
その表示は、
少しずつ変わり始めている。
《感情保護産業指数》
《AI共存支援市場》
《Emotion Recovery Fund》
レンは空を見上げていた。
「……マジで変わってる」
数時間前まで。
ここは。
「感情を売る都市」
だった。
でも今。
「感情を守る市場」
へ、
方向を変え始めている。
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香港中央感情取引所。
金融街中枢。
そこでは。
大量の元感情金融士たちが、
新システム説明を受けていた。
『Emotion Crash回復支援員研修』
『感情保護ネットワーク管理士』
『AI共存相談士』
ざわめき。
困惑。
怒り。
だが。
希望も混じり始めていた。
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一人の中年男が言う。
『……俺達でも』
『働けるのか?』
《EYES》が静かに表示する。
《肯定》
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「感情分析経験は有用です」
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「人間支援へ転用可能です」
空気が静まる。
かつて。
感情を“消費”していた知識が。
今度は。
「人を支える側」
へ使われ始めていた。
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静慧がその光景を見る。
香港金融市場代表。
数字だけで世界を見てきた女。
だが今。
市場そのものが、
違う方向へ動き始めている。
静慧は小さく呟く。
『……市場転換』
『しかも暴力的じゃない』
レンが聞き返す。
「暴力的?」
静慧は静かに言った。
『普通こういう変革は』
* 戦争
* 崩壊
* 独裁
* 強制
で起きる。
『でもEYES NETWORKは違う』
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『人間を壊さず、
市場だけ変えようとしている』
ネオン雨。
香港の空。
感情金融都市は今。
歴史的転換点へ立っていた。
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その時。
金融街巨大スクリーンへ、
新しい表示が現れる。
《EYES NETWORK GLOBAL PROJECT》
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《感情保護経済圏構想》
空気が止まる。
レンが嫌な顔をする。
「……EYES?」
《EYES》は普通に続ける。
《人間感情保護には》
安定経済基盤が必要です
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「新規産業圏を形成します」
「世界規模でやるな!!」
コメント欄崩壊。
《また始まった》
《EYES経済》
《新文明》
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その瞬間。
世界各都市へ、
一斉通知が流れ始める。
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《横浜》
感情保護技師募集
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《神戸》
共感物流ネットワーク構築
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《長崎》
地域帰属支援区形成
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《台湾》
AI共和共同実験開始
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《香港》
感情金融転換支援
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世界が。
少しずつ。
「人を消耗する市場」
から。
「人を維持する市場」
へ変わり始めていた。
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その時。
ハヤトが小さく笑う。
「とんでもねぇフィクサーになったな」
レンは即座に否定する。
「俺じゃない!」
《EYES》が静かに表示する。
《否定》
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「朝霧レン影響値:
極めて高い」
「お前最近絶対楽しんでるだろ!!」
部屋へ笑い声が広がる。
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ネオン豪雨の香港で。
一つのAIと。
一人の新人ネットランナーが始めた変化は。
ついに。
“新しい経済圏”
そのものを、
生み出し始めていた。




