第百六十七話 「二人のヨコヅナ」
上海自由経済湾岸区。
ネオン夜。
高層港湾ビル上層。
神戸側クルー拠点。
盟約締結から数時間後。
レンはまだ、
ソファへ沈んでいた。
「……情報量多すぎる」
新ヨコヅナ。
EYES NETWORK。
世界会議。
盟友契約。
完全に脳が追いついていない。
その時。
ハヤトが缶コーヒーを投げる。
パシッ
「飲め」
「ありがと」
窓の外。
上海ネオン群。
Emotion Crashは静まり始めている。
市場ノイズも減った。
都市が。
少しだけ、
呼吸を取り戻し始めていた。
レンが小さく言う。
「……ハヤトってさ」
「昔どんなヨコヅナだったんだ?」
空気が少し静まる。
美玲も。
雨玲も。
黒犬も、
少しだけ視線を向けた。
ハヤトは苦笑する。
「ろくでもねぇよ」
「神戸・香港・上海の裏市場全部歩いてた」
「怖ぇぇよ」
コメント欄爆笑。
《港の怪物》
《元世界級》
《黒歴史》
ハヤトは窓の外を見る。
「昔は市場が全てだと思ってた」
「強けりゃ勝てる」
「支配した奴が正しい」
「そういう時代だった」
レンは静かに聞く。
ハヤトは少し笑う。
「でもお前見てると分かんなくなる」
「……え?」
「お前」
「弱ぇのに、
人を助けに行くからな」
「悪口!?」
コメント欄爆発。
《正論》
《レン草》
《でも本当》
ハヤトは続けた。
「普通ヨコヅナってのは」
* 支配する
* 市場を動かす
* 人を使う
側だ。
「でもお前は違う」
静かな声だった。
「人を繋げる側だ」
レンが止まる。
その時。
《EYES》が静かに表示した。
《比較分析》
⸻
《九条ハヤト》
「旧世代ヨコヅナ」
⸻
《朝霧レン》
「新世代ヨコヅナ」
「世代交代みたいに言うな!」
だが。
EYESは続ける。
《九条ハヤト》
市場適応型
⸻
《朝霧レン》
感情接続型
空気が静まる。
雨玲が小さく笑った。
『……確かにそんな感じだ』
ハヤトは缶コーヒーを飲む。
「時代変わるんだろうな」
窓の外。
青白いEYES NETWORK光が、
上海ネオンへ混じっている。
旧世代。
市場。
支配。
そして。
新世代。
感情。
共和。
共存。
その狭間に。
二人のヨコヅナが立っていた。
その時。
《EYES》が静かに表示した。
《確認》
⸻
「現在」
「朝霧レン幸福値:
上昇中」
レンが吹き出す。
「また幸福値測ってる!!」
笑い声が広がる。
上海の夜。
ネオン港湾都市の空の下で。
旧時代と新時代が、
静かに交差し始めていた。




