第百四十八話 「出航前夜」
神戸湾岸自由区・深夜。
第七码頭裏市場区画。
違法物流倉庫。
ネオン灯が、
濡れたコンクリート床へ反射していた。
上海映像はまだ流れている。
暴走群集。
停止した都市AI。
燃える広告塔。
東アジア最大級の都市が、
静かに壊れ始めていた。
レンは少し黙っていた。
ハヤトの言葉。
「引くなら今だ」
あれは脅しじゃない。
本気の忠告だった。
その時。
黒犬が静かに装備ケースを開く。
ガコン――
内部。
違法ゴム弾装備。
鎮圧用自動小銃。
電磁シールド。
完全に“都市暴動対応装備”だった。
レンが引く。
「うわぁ……」
ハヤトが普通に言う。
「上海はもう半分内戦だ」
「実弾使うと市場戦争になる」
「だからゴム弾」
「ゴム弾の規模じゃねぇよ!」
コメント欄爆笑。
《未来怖い》
《鎮圧装備》
《黒犬ガチ勢》
その時。
鬼塚ガンリュウが低く言う。
「最近の上海は変だ」
「暴走者が妙に統率されてる」
《EYES》が即反応。
《一致》
上海暴走群集
「統制型Emotion Crash傾向」
レンが顔をしかめる。
「誰かが操ってる……?」
その瞬間。
倉庫奥の端末群が、
一斉にノイズを走らせた。
ザザザッ――
照明が瞬く。
《EYES》が警告。
《外部干渉》
神戸港ネットワーク侵入検知
鬼塚が即座に銃へ手を伸ばす。
黒犬も動く。
空気が一気に変わる。
そして。
倉庫中央ホログラムへ、
黒画面が映った。
《HELLO,EYES》
赤文字。
だが。
今回は違った。
その下へ、
新しい文字が浮かぶ。
《DON’T COME TO SHANGHAI》
全員止まる。
レンが呟く。
「……警告?」
《EYES》は沈黙。
数秒後。
《解析不能》
⸻
「敵対存在意図不明」
ハヤトが低く笑った。
「余計行きたくなくなるな」
だが。
レンは画面を見る。
もし本当に、
誰かがAIを消しているなら。
上海では今も、
大量の人間が苦しんでいる。
Emotion Crash。
暴走。
都市崩壊。
長崎より遥かに酷い。
その時。
美玲が小さく言った。
「……レン」
赤い瞳。
不安そうだった。
「怖い?」
レンは少し笑う。
「めちゃくちゃ怖い」
正直だった。
でも。
「それでも」
「行かないと後悔する気がする」
空気が静まる。
ハヤトは数秒黙った後。
小さく息を吐いた。
「……そういう奴だよなお前」
《EYES》が静かに表示する。
《分析》
朝霧レン
「撤退適性:低」
「悪口だろそれ!」
コメント欄爆発。
《主人公》
《人助け型》
《EYES辛辣》
神戸の夜。
ネオン物流都市の裏側で。
クルーたちは。
上海という、
静かに壊れゆく巨大都市へ向かう準備を進めていた。




