第百四十六話 「裏神戸」
神戸湾岸自由区・深夜。
ネオンの雨。
巨大物流都市。
その表側は、
東アジア最大級の市場都市として輝いている。
だが。
ハヤトの黒塗り港湾車が入った先は、
別世界だった。
《第七码頭裏市場区画》
港湾コンテナ群。
違法ネオン看板。
路地全域へ漂う機械油の匂い。
空中監視ドローンすら少ない。
完全に“裏神戸”。
レンは窓外を見ながら呟く。
「……治安終わってんな」
《EYES》が即解析。
《裏神戸》
非正規物流率:
「極めて高い」
⸻
違法取引検知:
「多数」
「観光案内みたいに言うな!」
コメント欄爆笑。
《裏神戸きた》
《サイバーパンク感》
《空気いい》
その時。
車窓の向こうを、
巨大サイバー義肢を付けた男たちが歩いていく。
ノーマッド。
傭兵。
テッキー。
フィクサー。
港湾裏社会の人間たちだった。
レンが少し緊張する。
「……黒犬」
「お前ここ普通に歩けるの?」
黒犬は静かに頷く。
「昔仕事してた」
「聞きたくねぇぇ……」
ハヤトが笑う。
「裏神戸は港の墓場だからな」
「なんだその異名」
その時。
車が停止した。
目の前。
巨大倉庫。
赤ネオン。
《K-PORT SECURITY》
だが。
看板下には小さく。
《NON-LEGAL》
「違法って書いてある!?」
コメント欄爆発。
《親切》
《隠す気ゼロ》
《裏社会》
ハヤトは普通に降車する。
「行くぞ」
倉庫内部。
薄暗い。
武装ドローン。
違法義肢。
鎮圧装備。
港湾用外骨格。
完全にブラックマーケットだった。
レンが小声で言う。
「……映画じゃん」
その時。
倉庫奥から、
一人の巨漢が現れる。
スキンヘッド。
全身義体化。
そして。
港湾ヨコヅナタグ。
《鬼塚ガンリュウ》
神戸裏市場管理人
男はハヤトを見る。
「久しぶりだな」
「まだ死んでなかったか」
「そっちもな」
空気が重い。
完全に“危険人物同士の会話”だった。
その時。
鬼塚が黒犬を見る。
「……現場戻るのか」
黒犬は静かに答える。
「必要になった」
鬼塚は少し笑った。
「上海か」
レンが止まる。
「もう分かるのか?」
「裏市場は情報が早い」
その時。
倉庫奥の大型スクリーンへ、
上海映像が映し出される。
暴走群集。
燃える広告塔。
AI停止区域。
そして。
黒く塗り潰された都市区画。
鬼塚が低く言った。
「ありゃ普通のEmotion Crashじゃねぇ」
《EYES》が静かに反応する。
《同意》
⸻
「敵対AI介入可能性:
上昇中」
倉庫の空気が静まる。
神戸の裏側。
港湾ブラックマーケットの中で。
クルーたちは、
静かに次の戦場へ備え始めていた。




