第百三十七話 「港湾ネットワーク」
長崎電脳居留区・深夜。
長崎側隠れ家。
海霧が窓の外を流れていた。
共有リビングでは、
クルーたちが珍しく静かだった。
飯後。
満腹。
完全に休息モード。
レンはソファで伸びをする。
「……平和だ」
《EYES》が即反応。
《補足》
「現在、クルー幸福値は高水準です」
「最近ほんと幸福値好きだなお前」
コメント欄爆笑。
《EYES進化中》
《AIかわいい》
《完全に家族》
その時。
ハヤトが大型ホログラムを展開した。
《東アジア港湾ネットワーク》
ネオン地図。
神戸。
長崎。
横浜。
香港。
上海。
澳門。
台湾。
複数港湾都市が、
光の線で繋がっている。
レンが呆れる。
「……改めて見ると規模おかしいな」
ハヤトは普通に缶コーヒーを飲む。
「港押さえると物流押さえられる」
「感情市場も物流で動くしな」
藍華が地図を見る。
「長崎は何担当なの?」
ハヤトは少し考えた。
「休憩」
「担当ふわっとしてんな!?」
全員少し笑う。
だが。
それは本音だった。
神戸は仕事。
横浜は戦場。
池袋は混沌。
でも長崎は。
帰ってきて、
息を吐ける街だった。
その時。
《EYES》が静かに表示した。
《都市感情分析》
⸻
横浜
「高密度感情市場」
⸻
池袋
「混沌型感情流動」
⸻
神戸
「市場物流中枢」
⸻
長崎
「感情安定傾向」
レンが吹き出す。
「ちゃんと分析してんのか」
《EYES》が返答。
《はい》
「長崎ではクルー精神安定率が高いです」
その時。
美玲が窓際で海を見る。
赤い瞳へ、
港ネオンが映っていた。
「……海好き」
レンが笑う。
「長崎完全適性あるな」
美玲は少し考えて。
「神戸の海も好き」
「港全部好きなんじゃねぇか?」
コメント欄爆笑。
《港適性S》
《海の歌姫》
《MAY-LIN》
その時。
ハヤトの端末へ、
一件の通知が届いた。
《東アジアヨコヅナ会議》
緊急通信
空気が少し変わる。
レンが顔を上げる。
「……何だ?」
ハヤトは通知を見る。
数秒沈黙。
そして。
「上海側が騒がしい」
海風が吹く。
長崎の穏やかな空気へ、
少しだけ不穏が混ざった。
《EYES》が静かに表示する。
《新規感情市場異常予兆》
発生地点:
《上海自由経済湾岸区》
レンは小さく息を吐く。
「……次か」
2092年。
ネオンの海は、
まだ静かには終わってくれなかった。




