第百三十話 「感謝祭ライブ」
長崎電脳居留区・夜。
海霧の港町は、
祭りの光で溢れていた。
《長崎感情異常解決感謝祭》
赤提灯ネオン。
港湾屋台。
坂道ホログラム。
海上花火ドローン。
2092年の港町祭りだった。
レンは坂道上から、
長崎の夜景を見下ろしていた。
「……すげぇ」
感情異常があったとは思えない。
街はもう、
普通に笑っている。
《EYES》が静かに表示。
《長崎感情指数》
安定
⸻
市街幸福値上昇
「幸福値って出るのかよ」
その時。
ハヤトが笑う。
「港町は立ち直り早ぇんだ」
下の通りでは、
ノーマッドたちが酒盛りしていた。
ロッカーボーイは演奏。
屋台街は満席。
完全にお祭り状態。
その時。
巨大ホログラムスクリーンが点灯した。
《SPECIAL LIVE》
歓声が上がる。
「来るぞ!」
「MAY-LINだ!」
レンが振り向く。
坂道中央特設ステージ。
海霧ネオンの中。
美玲が立っていた。
赤いジャケット。
港風で揺れる黒髪。
背後には、
長崎の夜景。
コメント欄爆発。
《歌姫》
《MAY-LIN》
《長崎ライブ》
《MAY-LIN LIVE》起動。
《同接:20億9000万人》
「また増えてるぅぅぅ!!」
レンが叫ぶ。
藍華が笑う。
「もう世界イベントなんだよ」
その時。
美玲が静かにマイクを握った。
海風が吹く。
ネオン提灯が揺れる。
そして。
歌い始める。
⸻
♪「Neon harbor」
♪「海霧の night」
♪「帰る場所は still alive」
⸻
中国語。
日本語。
英語。
三つの言葉が、
港町へ溶けていく。
観客たちが静かに聞き入る。
怒号も。
熱狂もない。
ただ。
安心した顔で、
みんな歌を聞いていた。
《EYES》が解析。
《感情波解析》
安堵感情増加
⸻
Emotion Crash率低下継続
レンは少し笑う。
「……変わったな」
前のMAY-LINは、
世界を熱狂させていた。
でも今は違う。
世界を、
落ち着かせている。
その時。
美玲の視線が、
レンへ向く。
そして。
少しだけ笑った。
⸻
♪「君はもう」
♪「一人じゃない」
⸻
レンは少し止まる。
海風。
ネオン。
港町。
クルー。
全部が、
この瞬間だけ繋がっている気がした。
その時。
ドォォォン!!
海上花火ドローン起動。
ネオン花火が、
長崎の空を埋め尽くす。
歓声。
笑い声。
音楽。
2092年。
感情市場に支配された世界で。
長崎電脳居留区だけは。
今夜だけ、
本当に平和だった。




