表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら、つるっぱげ  作者: 続けて 次郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/10

第九章 被らない理由

朝、目が覚める。


静かだ。


スマートフォンは鳴っていない。


メッセージもない。


理由がある。


距離を置いているからだ。


それは喧嘩ではない。

でも、日常から澄の存在が抜けると、部屋の空気は変わる。


恋人がいなくなると、

部屋は広くなる。


でも、広い部屋は寒い。



洗面所。


蛍光灯。


いつも通りの白。


鏡の中に、つるっぱげがいる。


僕だ。


何も変わらない。


でも昨日までと違うのは、

“見られる前提”がないこと。


今日は澄と会わない。

今日は誰にも見せる必要がない。


だから帽子を被らない――


そう思って、僕は止まる。


それは違う。


“見せる相手がいないから被らない”は、

ただの消極的選択だ。


僕は深呼吸する。


そして決める。


今日は被らない。


理由は一つ。


――自分のために。



外に出る。


快晴。


最悪のコンディション。


直射日光。


僕の頭は、太陽光を全力で反射する。


眩しい。


でも歩く。


視線はある。


気のせいじゃない。


実際にある。


でも今日は、不思議と刺さらない。


なぜなら今日は、

誰かにどう思われるかより、

自分がどう立つかを考えているからだ。



駅。


ホーム。


ガラスに映る自分。


黒スーツ。


疲れた顔。


つるっぱげ。


でも、今日は帽子がない。


被らない理由が、


「守るものがないから」じゃない。


「守らないと決めたから」だ。


それだけで、立ち方が変わる。



面接。


三人。


ハゲ社会力学理論によれば、三人は危険。


でも今日は、違う。


「志望動機をお願いします」


話す。


目を逸らさない。


頭も隠さない。


視線が落ちる。


0.3秒。


でも今日は、その0.3秒に怯えない。


「個性的ですね」


また来た。


でも僕は言う。


「覚えていただけるなら、光栄です」


少し笑いが起きる。


前より自然だ。


自虐じゃない。


事実として扱う。


ハゲは事実。


でも評価は、そこから始まらない。


そこから始めない。


僕が。



結果はまだ分からない。


でも、帰り道の気分が違う。


落ちるかもしれない。


でも今日は、自分を隠さなかった。


それだけで、少しだけ前進だ。



夜。


コンビニ帰り。


強い風。


以前なら即帽子だった。


今日は押さえるものがない。


風が頭皮を撫でる。


冷たい。


でも、悪くない。


思い出す。


橋の上。


告白の日。


澄の声。


「温かいですね」


僕は笑う。


今は冷たい。


でも、生きている。


ちゃんと。



数日後。


不採用メール。


「ご縁がなく」


慣れているはずなのに、やっぱり刺さる。


でも今日は違う。


僕は帽子に手を伸ばさない。


代わりに、履歴書を開く。


修正する。


改善点を書く。


自分を責める代わりに、分析する。


それは小さな変化だ。


でも大きい。


自己否定は楽だ。


全部を“自分の欠陥”にすればいい。


ハゲだから。

魅力ないから。

社会に合わないから。


でもそれは思考停止だ。


本当は、戦略が足りないだけかもしれない。


企業との相性かもしれない。


単純に倍率かもしれない。


全部をハゲに押し付けるのは、

楽だが卑怯だ。


僕は初めて、それに気づく。



一週間後。


面接。


同じ質問。


同じ視線。


でも僕は変わらない。


頭を隠さない。


声も震えない。


面接官の一人が言う。


「印象に残りますね」


今度は違う響き。


僕は答える。


「忘れられないのが取り柄です」


軽い笑い。


でも今回は、嫌味じゃない。


自分を下げていない。


ただ、事実を軽く置いただけ。


それが、自虐との違いだ。



帰り道。


スマートフォンが震える。


通知。


知らない番号。


心臓が鳴る。


出る。


「真壁さんですか?」


企業名。


結果。


「ぜひ次の選考に進んでいただきたく」


一瞬、意味が分からない。


頭が真っ白。


白は慣れている。


でも今回は違う。


これは、否定じゃない。


肯定だ。


僕は深呼吸する。


「ありがとうございます」


声が震える。


でも、嬉しい。



電話を切る。


駅のホーム。


空を見上げる。


晴れ。


直射日光。


頭が光る。


でも今日は、それが祝福みたいに思える。


反射は、欠陥じゃない。


存在証明だ。



その夜、澄にメッセージを送る。


迷う。


送っていいのか。


距離を置いている。


でもこれは、“依存”じゃない。


報告だ。


「今日、次の選考進めた」


短い文。


送信。


既読。


少し間があって、返信。


「よかったですね」


それだけ。


絵文字なし。


でも冷たくない。


僕は画面を見ながら、思う。


今はこれでいい。


距離はある。


でも断絶じゃない。


僕が変わる時間。


その途中だ。



鏡の前。


つるっぱげ。


変わらない。


でも今日は、胸を張れる。


毛は生えない。


でも、少しだけ自信が生えた。


帽子を被らない理由は、


守るものがないからじゃない。


自分を隠さないと決めたからだ。


距離は置かれた。


でも僕は、止まらない。


止まらない限り、


終わりじゃない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ