表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら、つるっぱげ  作者: 続けて 次郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/10

第三章 三人以上は危険

人は一人だと優しい。


二人だと少し強くなる。


三人になると、笑いを探す。


四人になると、標的を探す。


僕は長年の観察から、その法則を導き出していた。


――ハゲ社会力学理論。


証明済み。


再現性あり。


そして僕は、理論の実験体だった。



風事件から数日後。


教室は平穏だった。


少なくとも表面上は。


でも平穏というのは、

嵐の前の静けさであることが多い。


昼休み。


男子三人組が、僕の机の周りに集まる。


一人なら雑談。

二人なら軽口。

三人。危険。


「真壁さ」


来た。


「なんでそんなツヤ出るの?」


直球だな。


僕は笑う。


「毎朝磨いてる」


笑い。


成立。


でも一人が言う。


「触っていい?」


ああ、来た。


触りたい欲。


人は珍しいものに触れたがる。


美術館の展示に“触るな”と書いてあるのと同じだ。


僕は即座に返す。


「有料」


笑いが起きる。


空気は軽い。


でも、軽いからこそ危うい。


「夏とかやばくね?日焼け」


「日焼け止め塗るの?」


「てかさ、なんで生えないの?」


最後の一言。


それは、冗談じゃない。


質問だ。


本質。


僕は一瞬、言葉に詰まる。


なんで生えないのか?


知らないよ。


毛根が会議して辞めたからだよ。


「体質」


そう言う。


便利な言葉。


体質。


でも体質という言葉は、

責任の所在をぼかすだけで、痛みは消えない。


男子の一人が、ぽつりと言う。


「将来どうすんの?」


その瞬間、教室の空気が少しだけ変わる。


将来。


未来。


その単語は、僕にとって刃物だ。


中学時代の記憶が蘇る。



中学二年のとき。


体育館のバスケの授業。


汗が光る。


僕の頭も光る。


男子の一人が言った。


「お前、将来マジでやばくね?」


笑い。


「もうやばいだろ」


別の声。


「結婚できんの?」


「帽子取った瞬間、帰られそう」


笑い。


そのとき僕は、笑った。


「帽子はオプションです」


場は和む。


でも家に帰って、鏡を見て、

初めて思った。


――結婚できないかもしれない。


十四歳で、そんなことを考える必要はない。


でも考えてしまった。


未来は、眩しいんじゃない。


怖い。



教室に戻る。


男子の質問は、軽い。


でも僕の中では重い。


「将来?」


僕は笑う。


「発電所」


「は?」


「太陽光」


笑い。


成立。


でも胸の奥は、少しだけざらつく。


月島澄が、少し離れた席からこちらを見ている。


何も言わない。


でも、聞いている。



昼休みが終わる。


男子三人は散る。


僕は机に突っ伏す。


自虐は盾だ。


でも盾は削れる。


毎日使えば、摩耗する。


月島澄が近づく。


「疲れてます?」


「いや、通常運転」


彼女は少し考えてから言う。


「触っていいですか?」


またか。


僕は笑う。


「今日は有料」


「いくらですか」


「三百円」


彼女は財布を出すふりをする。


「高いですね」


「物価高騰」


くだらないやりとり。


でも、安心する。


彼女は、僕の頭を“珍しいもの”としてじゃなく、“僕の一部”として扱う。


それがどれだけ救いか。



放課後。


図書室。


静かな空間。


僕はぽつりと言う。


「さっきのさ」


「はい」


「将来どうすんのって」


彼女は本を閉じる。


ちゃんと聞く姿勢。


逃げない。


「……ちょっと、怖い」


言ってしまった。


自虐じゃなく、本音。


「結婚とか、仕事とか」


「ハゲってだけで、減点される気がして」


彼女は少し考える。


「減点されることは、あると思います」


正直だな。


僕は苦笑する。


「ですよね」


「でも」


彼女は続ける。


「最初の点数が低いからって、最後まで低いとは限りません」


「入試じゃないんだから」


その例えが、少し可笑しい。


「人って、総合評価だと思います」


総合評価。


僕は今まで、

“髪の毛”という項目だけで自分を評価していた。


項目は他にもあるのに。


性格、努力、優しさ、仕事、笑い。


でも僕は、

“髪なし=不合格”と自分で決めつけていた。


「真壁くんは」


彼女が言う。


「面白いです」


「それはハゲだから?」


「違います」


即答。


「ハゲは事実です」


さらっと言うな。


「でも、面白いのは選択です」


その言葉が、胸に落ちる。


選択。


僕は自虐を選んできた。


防御を選んできた。


でもそれは、“弱さ”じゃなく“選択”だったのかもしれない。



「三人以上は危険だね」


僕は言う。


彼女は笑う。


「何ですかそれ」


「理論」


ハゲ社会力学理論を説明する。


彼女は真剣に聞く。


「じゃあ、二人なら安全?」


「だいたい」


「今は?」


僕は周りを見る。


図書室。


静か。


「安全」


彼女は言う。


「じゃあ、三人にならないようにしましょう」


その言い方が、少しだけ特別だった。


僕は胸の奥が、温かくなるのを感じた。


守られている。


でも同時に、


並んでいる。



その日、帰り道。


夕日が差す。


僕の頭が、オレンジ色に染まる。


彼女が笑う。


「夕日、きれいですね」


「頭も?」


「頭は通常営業です」


僕は吹き出す。


この人は、


僕を過剰に特別扱いしない。


でも雑にも扱わない。


それがどれだけ難しいか。



家に帰る。


鏡を見る。


つるっぱげ。


変わらない。


でも今日は、少し違う。


ハゲは事実。


でも、評価は自分で決められる。


三人以上は危険。


でも、


二人なら、


安全地帯は作れる。


僕は初めて思った。


――恋、してるな。


毛は生えない。


でも、


未来は、少しだけ怖くなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ