第六話
翌日の午前中。虹橋高校の二年A組では、リンクス関連科目のひとつ「リンクス基礎学」の授業が行われていた。この授業はリンクスに関連する事柄を学ぶ授業である。
教室の前に立つのは、黒川先生。バウト経験が豊富で、WLAの臨時講師としても活動している人物だ。黒川先生は教壇に立つと、腕を組んでクラスを見渡した。
「さて、お前らも知ってるとは思うが、軽くおさらいしとくぞ」
教室の空気が少しだけ引き締まる。黒川先生はホワイトボードに三つの単語を書いた。
『リンクス』 『リンクバウト』 『WLA』
この世界で生きていれば一度は必ず耳にする言葉だ。
「この三つは、この世界で生きていく上で避けて通れん。特にトレーナー志望のやつは、基礎を理解してないと話にならんからな」
普段は眠そうにしている生徒たちまでも姿勢を正し、黒川先生の言葉に耳を傾けた。
「まずはリンクスだ。お前らが毎日使ってる生物のことだな」
教室のあちこちで頷きが起こる。リンクスと人は切っても切れない関係にある。時に敵対し、時に共に歩みを進めてきた。
「リンクスは大きく分けて二種類。野生産と異界産だ。野生産は街の外や自然地帯に生息してる普通のやつ。異界産は異界に生息しているやつだ」
異界とは、人類が住む世界とは別の空間にある存在で、世界中にランダムに出現する。そこには地上には存在しない植物や鉱石があり、あらゆる分野で活用されるほどの不思議な特性を宿している。しかし、異界とは何なのか、どのようにして現れたのか、未だに解明できていない謎の空間でもあるのだ。専門家の中には、異界を活用することを危険視している人もいるほどだ。
「異界産は強い個体が多く、希少性も高い。ランクも野生より高くなりやすい。……その分危険も多いがな。まあ、お前たちにはまだ早い話だ。異界に行けるのはプラチナランクからだからな。ここにいるほとんどの奴には縁がねえだろう」
プラチナランクともなればランク6のリンクスは当たり前に保持しているほどの実力者となる。プロとして問題なく活動できるランクであり世界大会への出場権も得られるくらいだ。これだけで異界がどれほど危険な場所なのか想像できるだろう。
異界産のリンクスや高ランクのリンクスを手なずけるのは難しい。そのため、トレーナーのほとんどはランク4以下のリンクスを手なずけ、少しずつランクを上げていく。黒川先生は腕を組み、話を続けた。
「リンクスのランクは1〜10。育成方法で強さが大きく変わる。これは覚えとけ。才能より育成だ。ちゃんと先を見越して育てないとろくなことにならんからな」
リンクスの育成は単なるレベル上げだけではない。個体の特性や能力値のバランス、スキルの習得順序、さらにはリンクス同士の相性や戦術的な役割分担も考慮しなければならない。例えば、防御に優れたリンクスを盾役に据え、攻撃力の高いリンクスを前線に配置するなど、チーム編成の戦略性が勝敗を左右することも多い。
「リンクスはランクを上げていくと、育て方や環境で全く異なる個性が出てくる。同じ種族でも特性が違うってのはざらにある。だからこそ、その時その時の対応が重要になってくる」
リンクスバウトの難しさはこれにある。いくら対策をしようが不意を突かれることはある。知識は確かに武器となるが、だからといって知識に頼り切るのはよくなかったりする。
黒川先生は次の単語を指す。
「次、リンクバウト。これは公式戦の総称だ。WLAが管理してるバトルで、リンクス同士を戦わせる。その結果に準じてランクポイントが手に入る」
真也が小声でリナに囁く。
「昨日の試合、俺のランクポイント全然増えなかったんだよな……」
「そりゃ負けたからでしょ」
「うるせぇ」
黒川先生が咳払いをして、二人を睨む。
「リンクバウトは遊びじゃない。世界的なスポーツであり、プロリーグもある。お前らが目指すなら、まずは基礎を固めろ。リンクバウトはWLAのバトル会場ですると、報酬だって手に入る。お前たちも何度か言ってるはずだ。」
「対戦ルールは大会や会場で異なる。1v1や2v2は一番多いルールだな。グランドファイナルにもなれば、召喚数、タイミングが自由になるな。他にも色々とルールがある。ちゃんと把握しておけよ」
学生の大会であれば、召喚数2体の1V1が主流だ。リンクスは仲間にした数が多ければ多いほど管理が難しくなる。WLAのバトル報酬があるとはいえ、勝つことが必須であるし学生のランク帯では報酬も低い。そういったことを加味してルール決めが行われる。
リンクバウトの戦略は単なる力比べではない。相手のリンクスの特徴や戦術を読み、最適なタイミングでスキルを使い分けることが重要だ。例えば、相手の強力な攻撃を防ぐために防御スキルを温存したり、逆に一気に攻撃を仕掛けて相手の隙を突くなど、戦況に応じた柔軟な対応が求められる。
黒川先生は最後の単語を指した。
「最後にさっき言ったWLAについてだ。正式名称はWorld Link-bout Association。リンクスとトレーナーを管理する国際組織だ」
「資格管理、リンクス登録、バトル運営、異界調査……全部WLAの仕事だ。お前らがリングデバイスを使えるのも、WLAが管理してるからだ」
WLAの存在は大きい。世界中で影響力を持ち、WLAからの要求を拒むことは難しいとされている。WLAの規則やルールは世界中で統一されており、これに従うことがリンクス活動の基本となる。違反行為には厳しい罰則が科されるため、トレーナーは常に最新のルールを把握し、遵守する必要がある。
「WLAは世界中に支部がある。日本だけでも百以上だ。虹橋支部は学生向けの設備が充実してるから、初心者にはありがたい場所だな」
「お前らのランクを管理してるのもWLAだ。この組織がリンクスに関する全てを管理してるってことだな」
黒川先生はホワイトボードを軽く叩いた。
「以上が基礎だ。知ってる内容も多かっただろうが、忘れた頃に事故は起きる。しっかり頭に入れとけ」
「さてじゃあ、ここから今日の本題に入るぞ」
高校二年生にもなってリンクスの基礎の部分を学ぶっておかしくね?ということに途中で気づいて、おさらいという形にしたのは内緒である。




