第四話
放課後のバウトフィールドは、まだ熱気を帯びていた。先ほどの激戦――悠と真也のシルバー上位同士のぶつかり合いは、多くの学生に強烈な印象を残している。その余韻が漂う中、今度はリナがフィールドに立つ番だった。
リナは顔を真っ赤にして固まっていたが、観客席からの期待の視線に押され、覚悟を決めたように深呼吸をした。
「……よし。やるけど……手加減してね?」
悠は軽く笑い、首を縦に振る。
「もちろん。全力で行くよ」
「どこがもちろん!?」
観客席から笑いが起きる。だが、リナはすぐに気持ちを切り替えた。
「ウィンフィ、行こっ!」
淡い緑色の光が舞い、小さな風精霊が姿を現す。羽ばたくたびに風の粒子がきらめき、観客席から「かわいい……」という声が漏れた。
悠はリングデバイスを軽く回し、静かに宣言する。
「次は……グレイブモールで行くよ」
地面が低く唸り、黒い影がせり上がるように現れる。獣人リンクス――グレイブモール。筋肉質な体躯に鋭い爪、土の匂いをまとった戦士のような存在だ。
「グルル……」
その低い唸り声に、観客席がざわつく。
「うわ、相澤のグレイブモールだ……!」 「フロワラーとは違うタイプだけど、あれも強いんだよな……」
リナは思わず身をすくめた。
「え、えぇ……ホントにやる気満々じゃん……」
「リナが相手なら、ちょうどいいかなって」
「どこが!?」
《3》
《2》
《1》
《START》
開始の合図と同時に、ウィンフィが軽やかに舞い上がる。
「ウィンフィ、エアバリア!」
ウィンフィは自身の周囲に風を起こし、その風を自分を守るように展開する。これにより、ウィンフィを守る風のバリアが出来上がった。リナはすかさず次の指示を出す。
「ウィンフィ、エアスライス!」
風の刃が鋭く放たれる。悠は落ち着いた声で指示を出す。
「グレイブモール、ガード」
グレイブモールは腕を交差させ、風の刃を受け止める。筋肉が軋む音が聞こえるほどの威力だが、彼は微動だにしない。
「うへえ、やっぱり硬い……」
リナは辟易しながらも、すぐに次の指示を飛ばす。
「ウィンフィ、スモールトルネード!」
ウィンフィの前方に小さな竜巻が生まれ、グレイブモールへ迫る。
人を簡単に吞み込めそうな竜巻だが、悠は慌てることなく指示を出す。
「グレイブモール、突っ込め」
グレイブモールは一切の抵抗を受けることなく、竜巻を正面から一気に、風を押しつぶすように突破した。
「えぇぇぇ!?」
そのままウィンフィに突っ込んでくるグレイブモールに、リナは焦りながらも必死に声を張る。
「ウィンフィ、上昇して距離取って!」
ウィンフィは急上昇し、グレイブモールの接近をかわす。
悠はその動きを見て、わずかに頷いた。
上に逃げれば問題ないと思っていたリナだが、悠はそれを見越したうえですぐに次の指示を出した。
「グレイブモール、咆哮」
グレイブモールはその指示を聞き、大きく吸い込み
「グラアアアアアアアッ!」
フィールド全体に響き渡る咆哮。そのあまりにも大きい音にリナは両手で耳を塞ぎ、ウィンフィも空中で体勢を崩してしまう。咆哮の終わった後も耳鳴りで正常な判断ができず指示が一瞬遅れてしまった。
悠はその隙を逃さなかった。
「グレイブモール、アースジャンプ」
グレイブモールが地面を強く踏み込み、土煙を上げながら跳躍する。巨体とは思えないほどの跳躍力だ。
「ウィンフィ、避けて!」
だが間に合わない。
グレイブモールの拳がウィンフィの風のバリアを砕き、衝撃波がフィールドに広がる。
「きゃっ……!」
リナが思わず声を上げる。バリアでぎりぎり攻撃を受けずに済んだが、その衝撃波でウィンフィはふらついてしまう。しかし、必死に羽ばたいてすぐに体勢を立て直した。
「ウィンフィ……まだいける?」
「……ふわっ!」
小さな返事に、リナの目に決意が宿る。
「ウィンフィ、エアバリア強化! そのまま旋回して!」
ウィンフィの周囲に風の膜が二重に張られ、旋回しながらグレイブモールの周囲を飛び回る。
ウィンフィのスピードがどんどんと上がっていき、高速で旋回する。
悠はその様子を見て、少し驚いたように目を細めた。
「成長してるね、リナ」
「そ、そんなこと……ないよ……!」
今までのウィンフィにここまでの速さは出せなかった。
だが、ウィンフィの動きは確かに鋭くなっており、攻撃と防御の切り替えがうまくなっている。
「ウィンフィ!そのままエアスライス!」
風の刃が連続で放たれ、グレイブモールは腕で受け止めながら後退する。
「グルル……!」
「押してる……!?」
リナの顔に希望が灯る。だが悠は、静かに腕を上げ指示を出した。
「グレイブモール、バーストチャージ」
グレイブモールの体が淡く光り、筋肉が膨張する。地面が震え、観客席から悲鳴が上がる。
「な、なにこれ……!」
バーストチャージ。グレイブモールの筋肉を一時的に強化し攻撃力、瞬発力を上昇させる強化技だ。
悠は短く言った。
「行くよ」
グレイブモールが地面を蹴った瞬間、爆発的な加速が起きた。
「ウィンフィ、避け――」
リナの声より早く、グレイブモールの拳がウィンフィのバリアを粉砕し、風精霊はフィールドの壁まで吹き飛ばされ、光の粒子となってリナのリングへもどってしまった。
《ウィンフィ、戦闘不能》
ホログラムが結果を表示する。
リナは肩を落としながらも、どこか満足そうに微笑んだ。
「……負けちゃった。お疲れ様、ありがとうウィンフィ」
悠は優しく笑った。
「リナ、すごく強くなってるよ。ウィンフィもね」
「えへへ……ありがとう……!」
観客席から拍手が起こり、放課後のバウトフィールドは再び温かな空気に包まれた。




