案出し
次の日――。
「優くん! 先生に呼ばれてるから、先に教室に行ってて!
私もすぐ行くから!」
百合とは靴箱で別れ、俺は一人で教室へ向かった。
教室のドアを開ける。
薔薇崎や秋は、まだ来ていないようだ。
……だが。
後ろの席に、一人だけ座っている生徒がいた。
椿だ。
昨日のクエスト、そして意味深な言葉が頭から離れない。
俺は、思い切って声をかけることにした。
「あー……おはよう、椿さん……」
「おはようございます、愛羅武くん。
私のことは“小夜”で構いませんよ」
彼女は、いつも通り淡々と答える。
「じゃあ、俺の方も“優”でいいよ。呼び捨てで」
「いいえ。愛羅武くんと呼ばせていただきます」
その声は、どこかさっきとは少し違って聞こえた。
「……まあいいか。
それでさ、昨日のことなんだけど。鉄がどうとか言ってたろ?
あれ、何なのか詳しく聞きたくてさ」
小夜は、じっと俺を見つめてから口を開いた。
「それは――???????ですから……」
……聞き取れなかった。
まるで、音声にノイズが走ったかのように、言葉だけが欠け落ちた。
「……?」
俺が困惑の表情を浮かべていると、小夜は静かに首を傾げる。
「どうしたのですか?」
そう言ってから、少し間を置き、再び口を開いた。
「あぁ……そういうことですね。
どうやら、まだこの情報を話すことはできないようです」
「……できない?」
「そして、貴方が私に話しかけてきた理由も理解しました」
彼女は、淡々と続ける。
「今回は、あのタイミングでクエストが発生したのですね」
「……どうして、それを……」
俺は、無意識に体に力が入るのを感じた。
「私からは、まだ言えません。
進めてください……クエストを」
俺は、その場で立ち尽くした。
(……一体、どこまでこの世界を知っている?
“役目”って、何なんだ……)
「――あ! 優くん!」
振り返ると、用事を終えた百合が教室に入ってきた。
「……と、小夜ちゃんだよね! よろしくね!」
「夢見さん、よろしくお願いします」
軽く挨拶を交わした後、百合が俺に小声で聞いてくる。
「優くん、小夜ちゃんと何話してたの?」
「昨日、校内を案内した時の続きだよ」
嘘はついていない。
……たぶん。
そうこうしているうちに、クラスの生徒たちが続々と入ってくる。
薔薇崎と秋の姿も見えた。
「愛羅武さま、今日もおはようございます」
「愛羅武くん! おはよう!」
「薔薇崎、秋、おはよう!」
挨拶を交わした直後、チャイムが鳴った。
俺たちは席に着いた
(……タイミング良すぎだろ)
教室のドアが開き、君待先生が入ってくる。
先生は入室すると、一瞬だけ教室の後ろ――小夜の方を見て、わずかに動きを止めた。
だが、何事もなかったかのように教卓へ向かう。
「えー、転校生が来てすぐだが、文化祭について話す。
クラスで一つ出し物を出す。案を出して、投票で決めるぞ」
案出しは、驚くほどあっさり終わった。
なぜなら――
案を出したのが、薔薇崎、秋、百合、小夜の四人だけだったからだ。
……まあ、この世界だ。
今さら気にすることでもないか。
「では、投票だ。
小夜さんは案を出してたから、投票は優くんが最後だな」
黒板に、案が並ぶ。
お化け屋敷 (椿 / )
カフェ喫茶 (夢見 / )
ステージ披露 (薔薇崎/ )
模擬店 (桜 / )
――体育祭の時と同じだ。
選ぶ内容によって、誰の好感度が上がるかが変わる。
俺は、もう選ぶものを決めていた。




