夏休み
翌日。
俺たちは駅に集合し、薔薇崎家の迎えの車で別荘へ向かった。
「すごいねー! リムジンだよ、リムジン!」
百合がはしゃいでいる。
俺も、こんな高級車に乗るのは初めてだ。
車は街を抜け、山道へと入っていく。
快適なドライブ――のはずだった。
俺は窓の外を流れる景色を見て、違和感を覚えた。
(……なんだ、あれ)
遠くに見える山肌の木々が、風に揺れていない。
いや、揺れていないどころか、まるで写真の切り抜きを貼り付けたように平面的だ。
トンネルを抜ける瞬間、景色が切り替わるタイミングで、視界に一瞬だけ「砂嵐」のようなノイズが走る。
俺は思わず口を開けた。
「処理落ち……」
ゲームでよくある現象だ。
プレイヤー――つまり俺が普段行かない場所、重要でない背景のデータは、簡略化されているのだろう。
この世界が「本物」ではないことを、まざまざと見せつけられている気分だった。
「着きましたわ」
薔薇崎の声で、俺は思考を切り替える。
目の前には、白亜の豪邸。
そしてその奥には、絵に描いたような青い海と白い砂浜が広がっていた。
この海について、俺はどこか見覚えがある……。
少し考えていると――
「うわー! 海だー!!」
女子たちが隣で大歓声を上げる。
そして、みんなは早速着替えに向かっていった。
俺も割り当てられた部屋で水着に着替え、ビーチへ出る。
日差しが眩しい。波の音。潮の香り。
ここ――メインエリアの解像度は、山道と比べると完璧だった。
「お待たせー! 優くん!」
振り返ると、水着姿の三人が立っていた。
百合は白のビキニ。健康的なスタイルが、俺の目には眩しい。
秋はスポーティなラッシュガードにショートパンツ。ボクっ子定番なのか?
薔薇崎はフリルのついたエレガントな水着。見たことのあるブランドマークだ……実在するかも。
「ど、どうかな……? 変じゃない?」
百合が顔を赤くしながら聞いてくる。
「いや……みんな、似合ってるよ。すごく」
俺が目のやり場に困りながらそう答えると、三人の胸に飾られた花が、一斉に輝いた気がした。
水着になっても、その花は違和感なく付いている。
まるで、体の一部であるかのように。




