確認
「……はぁっ!」
一瞬で理解した。
俺は、また死んだようだ……なぜなら――
「優くん! 今日の晩ご飯、お祝いで外食とかどう?
あれ? 優くん? どうしたの……額の汗、すごいよ……大丈夫?」
百合が目の前で心配してくれている。
だが、百合の姿も言葉も、今の俺には届かなかった。
百合の姿は、ウィンドウに隠れて見えていなかった。
『貴方は死にました』
『制限時間:1,689,322,001秒』
これを見るたびに、俺は自分の死を深く実感する……。
そして、俺の手には黒い手帳が握られている。
俺はその場から動けなかった。
「優くん!」
百合がウィンドウを通り抜け、俺の肩に手をかけた。
「ほんとうに大丈夫なの……?」
百合は心配そうな表情を浮かべていた。
俺は大きく息を吐いた。
「ふぅ……あ、あぁ、大丈夫だよ……
ご飯の話だっけ? ……みんなで行こうか」
気持ちを切り替える。
さっきとは行動を変えるため、教室には行かず、百合と一緒に行動することにした。
だが
「やっぱり今日は無し!!!
私がお父さんとおばさんに言っとくから!
優くんは家で休もう!」
百合は本気で心配しているのだろう。
その気持ちが、痛いほど伝わってきた。
「わかったよ……じゃあ帰るな。
今日はありがとうな、百合」
こうして俺たちは外食をせず、それぞれ家に帰ることになった。
⸻
家に帰ると、父さんがリビングの椅子に座り、新聞を読んでいた。
「父さん、ただいま……。
なんとか体育祭、優勝できたよ!」
「優……頑張ったな。
だが顔色が少し悪い。今日はもう、ゆっくり休みなさい」
俺の不調に、すぐ気づいたようだった。
リビングに入ると、この空間がたまらなく温かい。
手帳によれば、この家は“安全地帯”らしい。
父さんや母さんが安全だと思うと……
胸の奥が、ほっと緩んだ。
晩ご飯を家族と食べ終え、風呂も済ませた後、
俺は自分の部屋へ戻った。
机の上に置いた黒い手帳を、もう一度読み返す。
『黒色は危険であり、脅威だ』
『この世界にとって、黒はイレギュラーな存在である』
『だが、感覚として近しい何かを感じるだろう』
『自分の家が、一番安全な場所である』
『害意のあるものは、入ってこられない』
この文章だけが書かれ、他のページはすべて空白だった。
モヤ……あいつの目的がわからない。
そして、俺を刺した存在……視界を奪われ、姿を確認できなかった。
わからないことはいったん置いておく事にした。
俺はウィンドウを開く。
『追加クエスト:体育祭で優勝する』
クエスト完了
『報酬:記憶のかけらを受け取りますか?』
やはり、報酬は家の中で受け取るべきなのだろう。
手帳の内容が、それを示しているし。
『報酬:記憶のかけらを受け取りますか?』
「受け取る」
『記憶のかけらを手に入れました』
『記憶のかけらを入手した事により、同期を開始します』
俺はベッドの上で、再び意識が薄れていった……。




