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体育祭3

「全学年のクラス順位が確定しました。

次の競技に移ります。

二人三脚に出場する生徒は、集合してください」


「優くんと華麗ちゃん……秋ちゃんと一緒に応援しとくね」


百合と薔薇崎は、いつの間にかすっかり仲良くなっていたようだ。


俺と薔薇崎は、集合場所へ向かう。


「頑張ろうな」


「ええ」


短い言葉を交わし、スタート地点へ向かう。


俺たちは第一走者のペアで、全部で第三走者まであるらしい。


準備が整う。

土の匂いが、鼻を刺した。


パンッ――号砲が鳴る。


俺が右足を踏み出すと、

神経が繋がっているかのように、薔薇崎も左足を出した。


息が合う。


俺たちは並んで走り出す。

練習で何度も走った道だ。


周囲の生徒たちを置いていく感覚が、音として伝わってくる。

いや――耳には、何も入ってこない。


まるで、世界から音が消えたようだった。


俺たちには理由がある。

この勝負は、遊びじゃない。


練習の成果をすべて込めて、足を動かす。


コースの五割を越えたあたりで、俺は一瞬だけ視線を動かした。


――他のペアは、まだ序盤。

転んだり、ぐらついたりしている。


次に、薔薇崎を見る。


表情に異変はない。

だが、妙に汗が多い。


地面に落ちる汗を追い、彼女の足元を見る。


そこで、俺は気づいた。


――走り方が違う。


練習の時とは違うフォーム。

痛む足を庇うような、不自然な動き。


昨日、薔薇崎が転んだことが頭によぎる。


――まだ、痛みが残っているんだ。


「ペースを落とそう」


俺がそう声をかけると、


「いいえ。絶対に、ペースは落としませんわ……」


薔薇崎の声には、強い決意があった。


その覚悟を感じ取り、

俺は何も言わず、同じペースを維持する。


そして――。


俺たちは、ゴールラインを越えた。


アナウンスが響く。


「第一走者、Aクラス!

とてつもない速さで、第二走者へと繋ぎましたー!」


薔薇崎は、痛みを感じながらも、

顔色ひとつ変えず、走り切ったのだ。



競技後、薔薇崎を椅子に座らせる。


「無茶するなよ」


「わたくしを心配してくださり、感謝いたしますわ。

ですが……これが、わたくしの選択でしたの」


「全力で走ると、決めていましたから」


「それと……わたくしのペースに合わせてくださったこと、

改めて感謝いたします。

愛羅武さまには、助けられましたわ」


彼女は、痛みなど感じていないかのような、

穏やかで幸せそうな笑顔を向けてくる。


その瞬間――。


クエスト

『???を助けてあげてください

 薔薇崎華麗を達成しました』


『報酬を受け取りますか?』


本来なら、

怪我も痛みもなく、達成できたはずだった。


そう思うと、

俺の胸は、心臓を掴まれたような感覚に襲われた

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