体育祭2
挨拶と準備体操が終わった。
場内に、放送が流れる。
「ペア障害物競走に出場する生徒は、集合してください」
百合が席を立った。
「私、頑張ってくるね!」
そう言って、百合は競技エリアへ向かっていった。
この競技は、一人目が走り終えると二人目が走り出す、
リレーに近い形式だ。
百合は二人目の走者だった。
パンッ――号砲が鳴る。
生徒たちが一斉に走り出し、
障害物を越えていく。
一人目の走者がゴールし、
百合の番が回ってきた。
順位は二位。
百合が走り出す。
「百合! がんばれ! いけるぞ!」
俺は、声が枯れるほど応援した。
(優くん……優くんの声が聞こえる……
私は……私は、一位になりたい!!)
その瞬間、百合のスピードが一気に上がった。
前を走る生徒を抜き去り、
そのまま――ゴールラインを越える。
アナウンスが響く。
「ゴーーーール!
一年Aクラス、一位です!」
百合が、一直線に俺のもとへ駆け寄ってきた。
「優くん!
優くんの応援、聞こえたよ!
ありがとうね! 私、頑張ったよ!」
「ああ。百合、よく頑張った。最高だったぞ」
俺は、思わず百合の頭を撫でた。
百合は、顔を真っ赤にする。
「じゃ、じゃあ……私、ちょっとお手洗いに行ってくるね!」
そう言って、足早にトイレへ向かっていった。
――そんなに我慢してたのか。
まあ、それで一位なら、報われたのかもしれない。
再び、アナウンスが流れる。
「全学年のクラス順位が確定しました。
続いての競技に移ります。
背中風船運びに出場する生徒は、集合してください」
背後から、声がした。
「おや、次はボクの番だね。
夢見さんみたいに、頑張ってくるよ」
秋だった。
「おう。頑張れよ、秋。
お前ならいける!」
そう言うと、秋は軽く手を振って競技エリアへ向かった。
この競技は、背中に風船を挟んだまま目的地まで運ぶものだ。
落としたら最初からやり直し。
コースの半分を過ぎた地点で、
次の走者へ風船を渡し、
受け取った側はゴールまで落とさず進まなければならない。
秋も、二人目の走者らしい。
パンッ――号砲が鳴る。
一走目の生徒たちが走り出す。
Dクラスだけがミスをしたが、
A・B・Cクラスはほぼ同時だった。
風船は、無事に秋へ渡る。
「秋! 上手い!
そのまま行けるぞ! 頑張れ!」
俺は、大声全力で応援する。
(愛羅武くん……聞こえてる……
聞こえてるよ……恥ずかしいじゃないか……)
三クラスは、ほぼ同時にゴールした。
――結果は、どうなる?
緊張の中、アナウンスが流れる。
「非常に僅差でしたが、協議の結果――
Aクラスが、わずかに早いという結論に至りました!
Aクラス、一位です!」
俺は、思わず拳を握った。
――このままいけば、優勝も狙える!
俺は、秋のもとへ駆け寄る。
「秋! おめでとう!
よくやったな!」
そう言うと、秋は眉をひそめ、
顔を少し赤くしながら口を開いた。
「……ありがとう、愛羅武くん。
声が大きくて、全部聞こえてたよ。
とてもよく聞こえてたよ…」
そう言って、秋は赤い顔を伏せ、
トイレの方へ向かっていった。
「秋も……トイレだったのか?」
そんなことを、つい口に出してしまう。
「優くん……」
いつの間にか戻ってきていた百合が、
呆れたような目でこちらを見ていた。
再び、アナウンスが鳴る。
「全学年のクラス順位が確定しました。
次の競技に移ります。
二人三脚に出場する生徒は、集合してください」
――俺と、薔薇崎の出番だ。




