痛み
五日目。
今日も俺は、薔薇崎と練習を始めた。
四日目の夜に雨が降ったからか、
グラウンドは少しぬかるんでいた。
だが今は、少しでも体力を上げるため、
俺たちは足を結ばない状態で、八百メートルを走っていた。
並んで走っていたが、
七百メートルあたりで、薔薇崎が口を開いた。
「わたくし、負けず嫌いですので……
お先にゴールさせていただきますわ」
そう言うと、彼女はさらに足を速め、
俺の前へと出た。
――そろそろゴール、というところで。
薔薇崎が、突然倒れた。
「薔薇崎!! 大丈夫か!」
俺は慌てて駆け寄った。
「え、ええ……痛みはありますけれど、出血はしていませんわ。明日には問題ないと思いますの」
「気をつけないと駄目じゃないか」
俺がそう言うと、
彼女は慌てた様子で首を振った。
「わ、わたくしが不注意で転んだわけではありませんわ。
まるで……何かに足を引っ張られたかのようでしたの。
ほ、ほんとですわよ」
そう言う薔薇崎の足元に、
俺は視線を落とした。
――黒いモヤが、絡みついていた。
俺はすぐに薔薇崎の足に触れ、
そのモヤを払おうとした。
モヤは、驚くほど簡単に取れた。
そして、空中に溶けるように消えていった。
「……くすぐったいですわ」
薔薇崎は不思議そうに、俺を見つめている。
「信じるよ」
俺はそう真剣に答えた。
彼女の様子からして、
黒いモヤは見えていないのだと分かった。
――黒いモヤ。
その正体は、一体何なんだ。
考え込んだが、
今は薔薇崎の怪我を優先すべきだ。
「今日は一旦、練習をやめよう。
安静にしたほうがいい」
そうして俺たちは、
明日に備えることにした。




