身体
「あれ、優くん。携帯電話を触って、どうしたの?」
帰路の途中、百合に声をかけられた。
「薔薇崎と番号を交換したんだよ。体育祭についての報告とかをするためにな」
「優くん、本気でやるんだね!私も頑張るよ」
そう話した後、俺たちはそれぞれ自分の家へと入っていった。
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晩ご飯を食べ終え、
自分の部屋で携帯電話をいじっていると……。
ぶー。
薔薇崎からメッセージが届いた。
(明日からの練習……楽しみにしておりますわ)
(おう)
俺は短く返信し、そのまま眠りについた……。
⸻
翌日。
俺と百合は、いつも通り学校に到着した。
教室に入ると――。
「そういう感じなのですわ」
「いいじゃないか」
薔薇崎と秋が雑談をしていた。
「おお、どうした? そこの二人。珍しいな」
俺が会話に入ると、薔薇崎がこちらを向いた。
「愛羅武さまのお話をしておりましたの。
わたくし、昨日まで愛羅武さまと親交がなく、
あまり詳しくありませんでしたから……。
席もお隣ですし、よくお話しなさっている秋さまに、
愛羅武さまについて伺っていたのですわ」
「そういうことだよ、愛羅武くん」
秋のねっとりとした目つきが、
面白がるように俺を見ていた。
「なんだよ、その目は……」
思わず頬が、わずかに熱くなる。
キンコーン、カンコーン――。
先生が教室に入ってきたので、
俺たちはそれぞれ席についた。
話を聞いていると、
今日は授業の代わりに、グラウンドで練習をするらしい。
⸻
着替えを済ませ、グラウンドへ向かう。
グラウンドは南校舎と体育館の前にあり、
行くには少し階段を降りなければならなかった。
到着すると、先生が声を張り上げる。
「では、種目ごとに分かれてください!」
俺と薔薇崎は二人三脚。
百合と秋は別の種目へと向かっていった。
「優くん、練習頑張ってね!」
百合はそう言って、走っていった。
⸻
自分たちの場所へ行くと、
係の生徒から紐を渡された。
「じゃあ、薔薇崎。つけるぞ。
一緒に練習、頑張ろうな!」
「ええ。望むところですわ」
こうして、練習が始まった。
「……まずは、スピードを合わせよう」
「……慣れてきてから、少しずつ上げよう」
………。
だいぶ時間が経った。
ふと薔薇崎の顔を見ると、
少し苦しそうに息をしていた。
「休憩しよっか」
俺がそう言うと、
「はぁ……はぁ……。
え、ええ、分かりましたわ」
俺は薔薇崎を日陰へ連れていき、
そのまま自販機まで走った。
飲み物を二本買い、戻ってくる。
「ほら、冷たいから飲みな」
そう言って、一本を薔薇崎に差し出す。
「感謝いたしますわ」
彼女は丁寧に受け取り、
しばらくしてから、静かに口を開いた。
「わたくし……同学年の方から贈り物をいただくのは、
初めてなのですわ。
いつもは、お父様とお母様、
それに使用人からしか……」
少し照れたように、微笑む。
「本当に嬉しいですわ。
心から、感謝いたします」
彼女は、もう一度深く頭を下げた。
ふと彼女は、気づいたかのように喋った。
「愛羅武さまは、あまりお疲れではなさそうですね」
そう言われて、俺は気づいた。
確かに――疲れていない。
この体で目覚めてから、
自分の身体能力を測ったことはなかったが、
元の身体より、明らかに体力があった。
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そして、二日目。
三日目。
四日目――。
毎日、薔薇崎と練習を重ねた。
そして迎えた、五日目。
――最後の練習の日だった。




