授業
学校に到着し、俺たちは席についた。
今日が、この学校で初めての授業だ。
――勉強内容についていけるかな。
そんなことを考えながら、授業を受ける心構えをしていると、先生が入ってきた。
君待先生以外の顔は、やはりモザイクがかかったかのように認識できない。
チャイムが鳴り、授業が始まる。
すると、目の前の席に座る桜秋が、俺に話しかけてきた。
「ごめん。ボクに筆記用具、貸してくれないかい?
忘れてきてしまったみたいでね。頼むよ、愛羅武くん」
申し訳なさそうな様子だったので、俺は頷いた。
「おう、いいよ。消しゴムとペンだな。ほら、どうぞ」
「ありがとう。助かったよ。
あ、そういえば――後で一緒に校内を回ってみないかい? 面白そうだと思って」
「いいよ。俺も、まだ全部把握してないからな」
そんなやり取りを交わした。
――そう、これもイベントのひとつだ。
クエストの「助ける」という意味は、まだはっきりしていない。
だから、こうした些細な行動も含まれるのかを確認しながら、進めていくことにした。
キーン、と頭の意識が一瞬飛ぶ。
慌てて周囲を見渡すと、
「今日の授業はここまでです。それでは、帰りの支度をしてください」
すでに帰りのホームルームが始まっていた。
「ペンと消しゴム、ありがとう。返すね」
「あ、ああ」
時間の流れが、やけに早い。
イベントに関係しない場面は、ゲーム内でもほとんど描写がなかった。
もしかすると、そういう部分は時間が圧縮されるのかもしれない。
そんな仮説を立てながら座っていると、
「愛羅武くん。一緒に校内を回りに行こっか」
桜秋の声が聞こえた。
――次のイベント、というわけか。
百合が俺を待っていたので事情を話すと、
「私も一緒に回ってもいいかな」と、ついてきたそうにする。
桜秋に確認すると、
「何人でもいいよ」
そう言って、彼女はニコリと笑った。
この学校には、南校舎・北校舎・東校舎の三つの校舎があり、西側には体育館がある。
とりあえず、正面玄関のある南校舎から回ることにした。
見て回る間も、俺たちは自然と会話を続けていた。
東校舎を回っている途中――。
「夢見さんたちは、仲がいいね」
「ええ。幼馴染で、関係が長かったからかも」
「羨ましいな」
ふと、思いついたように、秋が口を開いた。
「あ、そういえば……ボクたち、もう友達ってことでいいのかな?」
「ふふふ。はい! 私は友達だと思ってましたよ!」
「まあ、友達だろうな……名前、秋って呼んでもいいか?」
一定以上の親密度が溜まると、ヒロインたちは下の名前で呼ぶことを許してくれる。
――それを確認するため、俺はあえて聞いてみた。
「ああ。ボクのことは、好きなように呼んでいいよ」
そんな会話を続けながら、東校舎の二階を歩いていると――。
「だから、なんで私たちを無視するわけ?
私たちを悪者にしないでよ!」
そんな声が、窓の外――一階の校舎裏から聞こえてきた。
――始まった。
もう一つのイベントが。




