情報
俺はそのまま百合を家まで送り届けた。
幼馴染という設定もあり、俺の家と百合の家は、道路と公園を挟んだすぐ近くにある。
自宅の玄関を開けて中へ入ると、キッチンに母さんがいた。
「優、おかえり。新しい友達はできそうだった?」
「母さん……ただいま。自己紹介は終わったから、これからかな」
母さんの顔を見た瞬間、なぜか涙が滲んだ。
理由は分からない。記憶を失っているからだろうか。
頭が、ずきりと痛む。
俺はキッチンを後にし、自分の部屋へ向かった。
この世界について、ネットで調べてみる。
地図を確認したが、この街以外の情報は何も出てこなかった。
ゲームでも、このマップしか存在しなかった。
きっと、そういう世界なのだろう。
そういえば、クエストがあった。
クエスト
『学校へ行き、自己紹介を聞け』
『報酬???』
《報酬を受け取りますか?》
……ポチ。
『報酬:記憶のかけらを入手しました』
『記憶のかけらを取得したため、自動同期を開始します』
テキストが消えた、その直後――
「……っ!」
激しい痛みが頭を貫いた。
今回は、これまでとは比べものにならない。
俺はそのまま、自分の部屋で意識を失った。
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「あれ……父さん。母さんはまだ帰ってきてないの?。
今日、俺の17歳の誕生日なんだけどな」
「ああ、連絡がつかなくてな。迷子になってなければいいが……」
プルルルル――
家電の音が、部屋に鳴り響いた。
ガチャ。
父さんが電話に出る。
「はい、???です。
……え? 警察の方ですか?
……無事なんでしょうか!?
わかりました、今すぐ病院へ向かいます!」
その時、初めて見る父の顔があった。
「父さん、どうしたの?」
「……落ち着いて聞いてくれ。
母さんが、交通事故に遭ったらしい」
心臓の鼓動が、異様な速さになる。
「……無事なの?」
「きっと、大丈夫なはずだ。
父さんは病院へ行ってくる。
???誕生日なのに……すまない」
「父さん……」
俺は、母さんの無事を祈りながら、父さんの背中を見送った。
数時間後。
リビングでずっと母さんの無事を祈って待っていると、玄関の開く音がした。
ガチャ。
「父さん!! 母さんは!?」
「……母さんは、息を引き取った。
緊急手術をしたが、間に合わなかった
信号無視をした車に轢かれ、そのままひき逃げされたそうだ」
それ以上、言葉は続かなかった。
その後、ひき逃げの犯人は捕まった。
それでも、父さんとの会話は、取り戻せないまま少しずつ減っていった。
──ぱち。
目を開けると、涙が頬を伝っていた。
ようやく思い出した。
母さんのこと。
なぜ悲しいのか。
なぜ、痛みを覚えるのか。
「もう晩ご飯よー! 降りてきてちょうだい!」
階下から、母さんの声が聞こえる。
「……ウィンドウ」
クエスト
『???を助けてあげてください』
『報酬:???の好感度上昇/報酬???』
俺は涙を拭い、はっきりと決意した。
「すべてのクエストをクリアし、
失った記憶を取り戻す。」




