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車
「待って! 優くん、私も一緒に帰るから」
百合が背後から声をかけてきた。
俺たちは並んで校門を出る。
青信号になり、横断歩道を渡ろうとした、その時だった。
減速する気配のない車が、通りに突っ込んでくる。
「優くん、いくよー」
百合は、車に気づいていない様子だった。
「危ない!」
俺は咄嗟に百合の手首を掴み、歩道へ引き戻した。
「大丈夫か、百合!? 俺はもう、誰も失いたく――」
胸の動悸と過呼吸が止まらない。
「いたた……。手首はちょっと痛いけど、大丈夫だよ。
ありがとうね、優くん!」
その言葉で、俺はようやく冷静さを取り戻した。
念のため、百合の様子を確かめる。
怪我はなさそうだ。
だが、一つだけ――違和感があった。
彼女の胸元のユリ。
その花弁の一枚が、赤く染まっていた。
俺は車道に目を向け、百合を轢きかけた車を探す。
……だが、どこにも見当たらない。
まるで、最初から存在しなかったかのように。




