表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

93. 義母と僕の、ドタバタ爆笑胸キュンライフ

作者: Cas123

義母と僕の、ドタバタ爆笑胸キュンライフ


夜の静寂を切り裂くように、僕の心臓が警鐘を鳴らす。目の前には、息をのむほど美しい女性の顔。透き通るような白い肌、長いまつ毛に縁取られた大きな瞳が、僕を射抜くように見つめてくる。吐息がかかるほどの距離で、彼女の唇がゆっくりと開いた。

「ねぇ、春樹くん……」

か細く、甘く、僕の名前を呼ぶ声。あぁ、なんてことだ。このシチュエーションは、まさしく、あの、憧れの、ドラマや漫画でしか見たことのない、ラブシーン官能に至る一歩手前のやつじゃないか!僕はゴクリと唾を飲み込んだ。全身の血が沸騰するような熱さに包まれ、脈拍はレッドゾーンを振り切っている。あと一歩、あと少しで、僕の人生の新しい扉が開かれるのだ。


「テレビの音、低くしてくれない?ちょっとうるさいわ」

……ですよねー!そこはかとなく漂う生活感!てか、ここ、リビング!そして、僕の目の前にいるのは、妻、綾菜のお母さん、つまり僕の義母である、愛子さんだ!


僕、高橋春樹、34歳。数奇な運命により、21歳の若妻、綾菜と「できちゃった結婚」という名のミサイルに巻き込まれた男である。綾菜は超絶美人だ。それは認める。だが、中身は筋金入りの「THE・わがままプリンセス」。結婚して2年、僕の胃は常にキリキリ舞い、僕の精神は、常に彼女の掌で転がされている状態だ。特に、娘ひかりのことになると、そのワガママっぷりは加速する。


「あー、今日、エリとユミと飲みに行くから、ひかりちゃん見ててねー!」

これが、綾菜の口癖だ。彼女にとって、友だちとの社交は、この世の何よりも優先される。娘のひかりは、まるで宅配便の荷物のように、僕か、さもなくば、愛子さんにポンと預けられる。そして、僕はその度に思うのだ。なぜ、こんなにもワガママな妻を愛してしまったのだろう、と。正直、最近は「これは愛なのか、それとも呪いなのか?」と自問自答を繰り返す日々である。


そんな僕の唯一の救いであり、精神安定剤であり、そして心のオアシス、それが綾菜のお母さん、愛子さんなのだ。彼女は僕より一回り上の40代前半。だが、20代後半と見間違えるほど若々しく、美しい。綾菜の美しさは完全に遺伝だと確信している。しかし、綾菜と違うのは、その中身だ。愛子さんは、落ち着きがあって、いつも笑顔で、そして何よりも僕の苦労を理解してくれる。そして、僕の奔走ぶりを「春樹くん、本当によく頑張ってるわね」と優しく労ってくれるのだ。これが、どれほど僕の荒んだ心を癒してくれるか、綾菜にはわかるまい。


ある日、綾菜が友人と韓国旅行に行ってしまった。ひかりは愛子さん宅だ。仕事終わりに迎えに行くと、愛子さんがにこやかに迎えてくれた。

「あら、春樹くん。お疲れ様。よかったら、夕ご飯食べていかない?」


この時点で、僕の心臓はすでに高鳴っていた。二人で夕食!こんなシチュエーション、結婚して以来、綾菜とは皆無だ。家では台所に立つのは僕で、綾菜は「外食行こ!」「出前取ろ!」ばかり。愛子さんの手料理……想像するだけで、僕の胃袋は歓喜の雄叫びを上げた。

食卓には、色とりどりの小鉢が並び、どれもこれも美味しそうだ。僕は感動のあまり、小刻みに震えながら箸を手に取った。


「わぁ……本当に美味しいです……!」 「ふふ、春樹くん、いつも綾菜に振り回されてるから、たまにはゆっくりしてほしいのよ」

その言葉に、僕は思わず涙腺が緩んだ。僕の苦労を理解し、労わってくれる人なんて、この世に愛子さんしかいない。僕が感動していると、愛子さんが唐突に言った。

「春樹くん。近所に、美味しいフレンチのお店ができたのよ。今度、二人で行ってみない?」

…………え?

二人で、フレンチ?まるで、デートじゃないか!僕は慌てて首を横に振った。

「い、いやいや!そんな!綾菜が何て言うか!」 「あら、どうして?綾菜はいつも友達とばかり遊びに行ってるんだから、たまには私と春樹くんが美味しいもの食べに行ったって、バチは当たらないわよ?」

愛子さんは、まるで僕の動揺を楽しむかのように、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。その笑顔に、僕はドキリとする。やばい、これは本当にヤバい。僕の理性は警報を鳴らしているが、心の奥底では、もうすでに「行きます!」と叫び出しそうになっているのだ。


そして、そのデート(仮)の日がやってきた。僕は普段着慣れないジャケットを羽織り、鏡の前で何度も髪を整えた。まるで初デートの中学生のように、落ち着かない。

「あら、春樹くん、素敵じゃない」

愛子さんの言葉に、僕は顔が赤くなるのを感じた。愛子さんは、僕の予想をはるかに超える素晴らしさで現れた。普段とは違う、シックなワンピースに身を包んだ彼女は、まるで映画女優だ。


フレンチレストランの扉を開け、席に案内されると、僕の視線は愛子さんに釘付けになった。僕たちの会話は、まるで昔からの恋人のように弾んだ。綾菜の話、ひかりの話、そして僕の仕事の話。愛子さんは僕の話を熱心に聞いてくれ、時折、僕のジョークにクスクスと笑ってくれた。その笑顔が、あまりにも無邪気で可愛らしくて、僕は思わず見惚れてしまった。僕の胸には、またしても甘酸っぱい感情が込み上げてくる。この感情は、一体なんなのだろう?妻の母に対する感情としては、あまりにも不純ではないか?


僕は意を決して愛子さんに尋ねた。

「あの……愛子さんって、どうしてそんなに、僕に優しいんですか?」

愛子さんは、少し驚いた顔をして僕を見た。そして、優しく微笑んだ。

「どうしてって……春樹くんは、私の娘の夫で、ひかりのお父さんでしょう?それに、綾菜があんなだから、春樹くんにはいつも苦労ばかりかけてるんじゃないかと思って。だから、少しでも春樹くんの力になりたいのよ」

その言葉に、僕の心臓はズキュン!と音を立てた。なんて良い人なんだ。こんなにも僕を気遣ってくれる人、他にはいない。僕は感動に打ち震え、同時に、この人が僕の義母であるという現実に、一抹の寂しさを感じた。


数日後、僕はいつものように綾菜のワガママに振り回されていた。ひかりが熱を出したというのに、綾菜は「えー、私、今日ネイルの予約あるしー」とスマホをいじっている。僕は怒りを通り越して呆れ果てていた。その時、愛子さんからLINEが届いた。

『春樹くん、ひかりちゃん大丈夫?もしよかったら、私が見ててあげるわよ』

僕は救いの神を見た心地がした。すぐに愛子さんの家にひかりを連れて行った。愛子さんは、ひかりの額に濡れタオルを当て、優しくあやしてくれている。その姿は、まるで本当の母親のようだ。僕はその光景を見て、ふと思った。もし、僕が愛子さんと結婚していたら、どんなに穏やかで満ち足りた生活を送れていたんだろう、と。


その夜、ひかりが寝息を立てている隣で、僕は愛子さんとお茶を飲んでいた。

「本当に、助かります……愛子さんがいなかったら、僕、どうなっていたか……」 「大袈裟ね、春樹くん」

愛子さんは、くすくす笑いながら僕のお茶を注いでくれた。その時、テレビから流れてきたのは、少し古いラブソングだった。どこか懐かしいメロディが、僕たちの間に流れる穏やかな時間を、さらに甘く彩る。「... 夢で会いたいと願う... 夜に限って一度も...」

「この歌、私、好きなのよ」

愛子さんが、ふと呟いた。僕はその横顔に見惚れていた。穏やかで、優しくて、そしてどこか儚げな彼女の横顔に、僕の胸は締め付けられる。この感情は、もう「尊敬」とか「感謝」とか、そんな生易しいものではなかった。これは、間違いなく「恋」だ。義母に恋をするなんて、最低だ。倫理的にも、社会的にも、許されることではない。なのに、僕の心は、彼女を求めてやまない。


翌日、僕は職場で上の空だった。取引先との会議でも、僕は上の空で、部長に「おい高橋、昨日の飲みすぎか?」と怒鳴られてしまった。僕の頭の中は、愛子さんのことでいっぱいだった。どうすれば、この気持ちを抑えられるのか。どうすれば、この関係を、これ以上踏み込まないようにできるのか。

そんなある週末、綾菜がまたしても、友達と旅行に行ってしまった。ひかりは愛子さん宅だ。仕事を終えて、ひかりを迎えに行った。愛子さんの家に着くと、ドアが開いていた。


「こんばんはー!」

奥から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。僕はその声に誘われるように、リビングへと足を進めた。そこで僕が見た光景に、僕は思わず目を疑った。

愛子さんとひかりが、お菓子の家を作っていたのだ。リビングのテーブルには、クッキーやチョコレート、カラフルなグミが散乱し、二人の顔にはチョコやクリームが付いている。愛子さんは、ひかりの鼻についたクリームを拭きながら、楽しそうに笑っている。その姿は、まるで童心に帰った少女のようだ。

「あら、春樹くん!」 「パパー!」


僕はひかりを抱き上げた。愛子さんの顔には、聖母のような笑顔が浮かんでいた。

「ひかりちゃんが、お菓子の家作りたいって言うから、つい私も夢中になっちゃって……」

愛子さんは、両手についたクリームを見せながら笑った。その姿に、僕はまたしても胸キュンが止まらない。完璧な義母という仮面の下に隠された、無邪気で可愛らしい一面。僕は、その魅力に、ますます深く囚われていく。


愛子さんは、突然言った。

「ねぇ、春樹くん。今度、どこかにドライブに行かない?綾菜には、内緒で」

僕の心臓が、ドクン!と大きく跳ねた。ドライブ……綾菜には内緒で!それは、まるで、本当の家族のようだ。僕の理性は、再び警鐘を鳴らした。しかし、僕の口からは、すでに「はい!」という返事が飛び出していた。


ドライブ当日。

「ねぇ、春樹くん。どこか行きたいところある?」 「え?あ、いえ、特には……」

すると愛子さんは、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

「じゃあ、私のおすすめの場所に行かない?」

僕の心臓が、またしても高鳴った。愛子さんのおすすめの場所。それは一体、どこなのだろうか。


愛子さんが連れて行ってくれたのは、小さな丘の上にある、見晴らしの良い公園だった。そこからは、街が一望でき、遠くには海が見える。ヨットやボートが浮かんでいる。

「ここ、私が若い頃、よく来てた場所なのよ。辛いことがあった時とか、一人でよくここに座って、夕日を眺めてたの」

愛子さんが、少し寂しそうに言った。僕は、愛子さんの過去に触れたような気がして、胸がキュンとなった。僕が何か言葉をかけようとすると、愛子さんが突然、僕の方を向いた。

「春樹くん。あのね、私……」

愛子さんの言葉が、途中で途切れた。彼女の瞳が、僕を真っ直ぐに見つめている。その瞳に、僕は吸い込まれそうになった。この時、僕の脳裏には、冒頭のあのシーンがフラッシュバックしていた。息をのむほど美しい顔、透き通るような白い肌、長いまつ毛に縁取られた大きな瞳……。

「私、春樹くんのこと……」

愛子さんの言葉に、僕はゴクリと唾を飲み込んだ。まさか、そんな、夢のようなことが……!

「……春樹くんのこと、本当の息子みたいに思ってるわ!」


ですよねー!はい!知ってました!僕の胸に、一気に脱力感が押し寄せた。ズコー!と効果音が聞こえそうな勢いで、僕はその場に崩れ落ちそうになった。

「えぇー!そ、そうですよねー!ははは……」

僕は乾いた笑いを漏らした。愛子さんは、僕の反応に首を傾げている。

「あら、どうしたの?」

「い、いえ!なんでもないです!いやー、まさかそんな風に思っていただいてるとは!光栄です!」

僕は必死で取り繕った。しかし、僕の心の中は、ちょっとした絶望感と、それでもなぜか温かい気持ちが入り混じっていた。

「でも、私も春樹くんとひかりちゃんと一緒にいると、本当に楽しいのよ。まるで、本当の家族みたいで」

その言葉に、僕はまたしても胸キュンが止まらない。ああ、この人は、本当に僕の心を掴んで離さない。


僕たちが丘を降りて歩いていると、突然、僕のスマホが鳴った。綾菜からだ。

「もしもし、綾菜?」 「ねぇ!どこにいるのよ!私、今、帰ってきたんだけど、うちに誰もいないじゃない!ひかりは!?まさか、またママに丸投げしてるわけじゃないでしょうね!」

綾菜の怒鳴り声が、スマホから響き渡る。僕は、横にいる愛子さんをチラリと見た。愛子さんは、僕のスマホから漏れ聞こえる綾菜の声に、苦笑いを浮かべている。

「い、いや、それが、綾菜……僕たち、今……」

僕は言葉に詰まった。愛子さんが、僕のスマホに顔を近づけて、優しく言った。

「綾菜、今ね、春樹くんとひかりちゃんと、三人でドライブに来てるのよ」

「はぁあああ!?何勝手なことしてんのよ!ママ!ママまで春樹を甘やかしちゃって!絶対許さないんだからね!」

綾菜の怒鳴り声は、さらにヒートアップした。僕はスマホから耳を遠ざけたが、それでも綾菜の声は、まるで雷鳴のように僕の鼓膜を震わせた。

「あのさ、綾菜……僕だって、たまには羽伸ばしたいんだよ!いつも君のワガママに付き合ってるんだから、これくらい許してくれよ!」

僕も思わず声を荒げた。すると、綾菜はさらに激昂した。

「なによその言い方!私がワガママだって言うの!?あんたの子どもだって産んであげたんじゃない!」

僕が反論しようとしたその時、愛子さんが僕のスマホをひょいと奪い取った。

「綾菜。もう、いい加減にしなさい」

愛子さんの声は、いつになく低く、そして冷たかった。僕は思わず息をのんだ。愛子さんがこんな声を出すのは、初めてだ。

「あなたは、いつも自分のことばかり。春樹くんがどれだけ苦労してるか、わかってるの?ひかりちゃんのことも、私にばかり任せっきりで!もう少し、母親としての自覚を持ちなさい!」

愛子さんの言葉に、綾菜は言葉を失ったようだ。スマホからは、何も聞こえてこない。僕は、愛子さんの怒りに満ちた横顔を見て、またしても胸が締め付けられた。僕のために、こんなにも怒ってくれるなんて。


数秒の沈黙の後、スマホから、小さな声が聞こえてきた。

「……ごめんなさい、ママ」

綾菜が、謝った!僕は自分の耳を疑った。あの、筋金入りのワガママプリンセスが、まさか謝罪の言葉を口にするなんて!これは、明日は雪が降る、いや、隕石が落ちるレベルの奇跡だ!

愛子さんは、フッとため息をつき、僕にスマホを返した。

「春樹くん。そろそろ帰りましょう」


家に到着すると、綾菜は不機嫌そうにテレビを見ていた。だが、以前のような猛烈な怒りは感じられない。僕は、愛子さんの言葉が、綾菜に何かを響かせたのだと確信した。

綾菜が僕の顔を見て、ふと言った。

「ねぇ、春樹。今度、ママも一緒に、どこか旅行に行こうよ」

その言葉に、僕はまたしても衝撃を受けた。綾菜が、愛子さんと僕といっしょに、旅行に行こうと言ったのだ!これは、まさかの展開だ!僕の脳内では、巨大花火が打ち上がっていた。


僕たちの日常は、相変わらずドタバタだ。綾菜のワガママっぷりが完全に治ったわけではない。相変わらず、僕と愛子さんは綾菜に振り回され、苦労も絶えない。だが、確実に変わったことがある。それは、綾菜が少しだけ、僕や愛子さんのことを気遣うようになったことだ。そして、何よりも、僕と愛子さんの関係が、より深く、温かいものになったことだ。

もちろん、僕が愛子さんに抱く「恋心」が完全に消え去ったわけではない。時折、彼女の悪戯っぽい笑顔や、優しい言葉に、僕の胸は締め付けられる。だが、それはもう、叶わぬ恋の苦しみではなく、むしろ、僕たちの特別な絆の証のようなものに変わっていた。

愛子さんは、僕にとって、義母であり、心の支えであり、そして、僕の人生に咲いた、唯一無二の花なのだ。

そして、今日も僕は、綾菜の「春樹!今日、私、女子会だから、ひかりお願いね!」という言葉に、深い深いため息をつく。だが、その隣では、愛子さんがフッと微笑み、僕の肩をポンと叩いてくれた。

「春樹くん、また二人で美味しいもの食べに行きましょうね」

その言葉に、僕の心は、またしてもフワッと軽くなった。ああ、僕のドタバタ爆笑胸キュンライフは、まだまだこれからも続くのだ。そして、僕はその全てを、愛おしく思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ