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第1話 捕らわれた探偵

 霧谷透真は捕まった。

 詐欺グループ『万処』の実行犯としてだが、誤認逮捕であった。


 正確に言うと、探偵として『万処』に侵入し、大規模詐欺を探ろうと試みて、まんまと実行犯リーダーである桜川に警察に売られた形となった。


 逮捕された詐欺師としてニュース報道され、透真は留置所の冷たい鉄格子の中に座っていた。

「年寄りから金を巻き上げたクズめ! 早く仲間の居場所を吐け! そうすれば取調べは終わる!」

 捜査二課の刑事に事情聴取で言われた。だが、透真は話さなかった。警察は世間で噂のこの詐欺事件で初めて逮捕者を出せたことで、面目躍如に必死だった。その業の深さ故、執念深かった。

 

 透真は度胸を買われ店子として雇われるように接触した。ボスとのやりとりは小型カメラで記録した。だが、アジトのロッカーに置いたまま。

 アジトの場所を伝えたとしてもロッカーは始末されるだろうし、複数あるから鼬ごっことなる。ボスを捕まえるしかない。一度しか面識がないが、居場所の見当はついている。普段は別の職業についており詐欺グループの頭とは思えない。


 透真は留置所の中で考えを巡らせた。ボスの居場所は、『万処』に潜入する前に得たものだったが、アジトの場所を言ったところで巧妙な奴のことだから、証拠は表に出て来ないだろう。

とうとう、二回目の取り調べが始まった。


「霧谷透真、君が話す内容次第では、君の未来は最悪に変わる」

 冷たい笑みを浮かべた桜川と名乗る刑事が取調を始めた。

「霧谷透真、君がここにいる理由は分かっているだろう?」

 透真は取調官の顔を見つめると、全てを理解したように諦め顔で静かに応えた。

「私は何も知りません。ただの店子です」

「知ってる。そして、君は有名な探偵だ。探偵業は廃業だな。事務所は閉鎖だ」

 透真は鋭い目で睨みつけた。

「おい! 待て! 事務所は無関係だ!」

 後ろ手を結ばれている状態で透真は立ち上がると、すぐ、自分の座っている椅子を蹴り上げ、机を片手で男へ向かって蹴りつけた。そのまま出口近くにある筆記係の机に突っ込み、ペンなど床に散りばめた。直ぐに取り押さえられる。


わざとである。


「すいません……。すいません……。カッとなって、ただ、事務所の人間は無関係なんだ。それだけは分かってくれ! お願いだ」

 

 筆記係をしていた刑事は、「わかった。わかった」と透真をなだめ、とりあえず、その場は収まった。

「取調官を変えてくれ、あの人とは話したくない」

「駄目だ」と肩を張る刑事に対し、筆記係が「まぁまぁ」と治める。それからは、この桜川刑事には、何も話さずに目を瞑って口を閉ざし続けた


「取調官を変えてくれれば、関係者を教える。警察で掴んでる面子の写真があれば、持って来てくれ!」

 

そう透真が言ったことで、桜川は後ろで直立したまま、変わりの刑事がやって来た。新しい取調官は机に写真を並べて問いかけたが、透真は首を振る。


「五十人だ。きっちり五十人並べてくれ」


 刑事は苛立ちながらも、出たり入ったりして五十人の写真をなんとか用意して、透真の言う通りに、十列五段に並べた。透真は縛られたまま、


「右から三つ目、上から一つ目」

「右から二つ目、上から三つ目」

「右から九つ目、上から一つ目」

「右から二つ目、上から一つ目」

「右から十、上から一つ目」


 筆記係に振り返った。


「私の言葉通り筆記してくれたなら、それがボスです。それらが示す人物が関与しています。今から言うアジトのロッカーに関与した資料があります。この部屋の面子を残し、現場へ向かってください」

 刑事は、筆記された文字を見て頷いた。数時間後、取調官だった桜川は捕まり、霧谷透真は釈放された。


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