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友人の給料袋を探したら、キウイ2個の1割貰える事になった

作者: 白夜いくと

 高校生になると、許可制でバイトができる。俺とケンジは、「楽そうだから」という理由で食器洗いのバイトを選んだ。


 いざ。実際に働いてみたら、皿は割るわ重くて腰が痛いわ、ウォッシャーの洗剤を入れ忘れて棒立ちして怒られるわ、欠けた食器で手を切るわ……。


 大変だった。


「へへ。僕達、この仕事舐めてたね! これは努力の結晶だー!」


 バイト帰りのケンジがご機嫌で『給料袋』を見せてくる。俺は念押しで、「失くすからやめろよな」と言った。


 コイツはものをよく失くす。自転車の鍵や買ってきた昼メシも。一番すげぇなって思った失くしものは、小指固定用の簡易ギブス。ヒビ用のちゃちいやつとは言え、あんなデカいもの失くすか?




 ふと、交差点でケンジが気付く。


「ない……!」

 

 ケンジが鞄の中身を漁る。グチャッとしている中身を俺も漁るが、あるべき茶封筒がない。


 やはり、案の定ケンジは給料袋を失くしたようだ。



「ぎやぁああ! 僕の給料袋ー!」



 うるさい。


 来た道を一緒に探したが見つからない。もうじき夕方だ。途方に暮れた俺たちは近くの交番に行くことにした。


 道中。

 荷車を杖代わりにしている婆ちゃんが階段の段差で困っていたから、エレベーターまで案内した。辺りをキョロキョロしている。少し困っているように見えた。


「あまりこの道使わないんですか?」


 俺が婆ちゃんに訊くと、


「そうなの! 隣町の激安スーパーに買い物へ来てたら大変なモノ見つけちゃって。これから交番に寄るところなのよ〜! 冷凍食品買ってなくて本当に良かったわ〜」


 と言うので、


(お?)


 と思った俺たちは婆ちゃんに、「それはお金の入った茶封筒ではないですか?」と訊いた。


「そうだけど……もしかして、これあなたたちの?」


 婆ちゃんが懐から出したのは、見覚えのある茶封筒だった。今直ぐ中身を確認したがった友人を制止して、交番まで連れて行った。


(万が一違ったらややこしいからな。ここは慎重に行かなければ)


 交番。

 お巡りさんが2人居た。

 

「あら、落とし物ですか……これは、給料袋ですね〜」


 片方は人当たりのいいお姉さんお巡り。


「8日出勤。1日あたり4h……か。時給等を見るとまだ学生だな」


 片方は勘の良いベテランって感じの爺さんお巡り。


「そうなんです! 落としたのは、僕! 森田もりたケンジって言います!」


 友人が手を挙げて、「今すぐに返して!」と言いたそうに言う。2人のお巡りは『分かってはいるけど必要な事務的手続き』を行った。


 それには多くの時間が掛かり────更に、楽しそうに拾った時のことを話す婆ちゃんも居たから、辺りは完全に薄暗くなった。


 ここらへんは、人通りがなく寂しい道だ。


 親に連絡したら交番まで来てくれるらしい。婆ちゃんは、お巡りさんと連れ添って帰っていく事となった。

 

「お仕事頑張ってね、2人とも!」


 そう言って婆ちゃんは、俺たちにキウイを手渡した。咄嗟のことに返す事ができず、俺たちはしばらく手に持ったキウイを眺めていた。


 お巡りさんは、「親御さんが来るまでテレビでも観ていかないか」と、奥の部屋に通してくれた。時間は夜の9時。ケンジのお気に入り番組がちょうど終わるころだった。


「うあーん! サイアクだー! 観たかったドラマ逃したぁ!」

「サブスクで観りゃ良いじゃん」

「有料なんだよぉー!」


 ケンジが机の上のキウイを俺のキウイにぶつけてきた。八つ当たり上等。しばらくキウイのぶつけ合いをして遊んでいた。


 そうこうしているうちに、ケンジの親がやってきた。ケンジは給料袋を置き忘れたことを両親から叱られて、「しゅん」としていた。


(……ケンジ。忘れてくれるな。お前に付き合って、俺もこの時間まで居るということを)


「ケンジ、今日はありがとうな〜!」

「おー、また明日!」


 ケンジが嬉しそうに帰って行く。見送ると、違和感に気づいた。


「ん?」


 机を見るとキウイが2個置いてある。


「……マジで?」




 さぁ、俺はこのキウイをどうするべきか。俺は冗談交じりにお巡りへ、「この落とし物はどうしましょう?」と訊いた。

 お姉さんお巡りは「ふふ」と笑い、ベテランお巡りは、


「うまく切って君が1割多く食べなさい。腐らないうちにね」


 と、意味深そうで、まったく意味のない様な言葉を言った。俺の両親にその事を言ったら、


「たぶん、分数の問題を出してくれたんだ、キウイを正しく分けるやつ!」


 って盛り上がっていた。


 分数は苦手だ。得意なアイツに切ってもらおう。切れ端失くすなよ、ケンジ。

 






 おしまい

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