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天使と悪魔の共同作業

掲載日:2025/08/31

「誰も見てないから拾っちゃいなよー」

「いけません、交番に届けるべきです!」

2つの声が同時に放たれた。そして、

「「え?」」

2つの声が合わさった。


「えっと…これはあなたがやったのかな?悪魔くん?」

「は?んなわけねーだろ。澄ました顔してお前がやったんじゃねーのかよ。天使ちゃん。」

空中で口論する人ならざる2人。

お互いが言うように、それぞれいわゆる天使と悪魔の見た目をしている。

人よりかなり小さく、2人ともちょうど1.5リットルのペットボトルくらいの背丈をしている。

どちらも翼は生えているが、羽ばたく間隔はまばらで実際は何か不思議な力で浮遊している。


「とは言っても実際問題あなた悪魔だからねぇ。信用ならないわ。」

「いやいや、ていうかこの場合、俺達どうなるの?何で今をもって尚存在しているんだ?」

「確かに、それもそうね。私達は彼の心の中にある天使と悪魔…」


「なのに、その本人が死んでいるというのは一体どういうことなの?」


2人の足元には、頭から血を流してうつ伏せに倒れている青年の姿があった。

人通りの少ない歩道。現状、天使と悪魔と青年以外に近くに人は見当たらない。


「これ、実はまだ生きているんじゃねーのか?でなきゃ俺達消えているハズだろ。」

「でも、頭部からこれだけ出血して身動き一つしていないのに生きているとは流石に…」

「くそっ。駄目だ脈がはかれねぇ。」

「無駄よ。私達天使と悪魔が干渉出来るのはあくまで彼の心だけ。

 彼の身体はおろか、落ちている財布も含めてこの世界のものには触れられないわ。」

「天使なのに"あくまで"って。ぷぷっ。」

「うっさいなあ。」


天使の言うように青年の近くには財布が落ちているが、これは彼のものではない。

この財布を見つけた時に青年はその中のお金をネコババするか、交番に届けるのか、

葛藤をし、その結果天使と悪魔が彼の心に生じている。


「見える範囲には誰もいないようね。財布を見つけてから葛藤するまで、いや、

 財布を見つけてから襲われるまで少し時間差があったのかな。」

「かもな。だが、どのみち目の前に犯人が居たところで俺らには何もできねーだろ。」

「確かに。彼が死んでしまってはどのみち。打つ手無しね。」

「それより、俺らどうすんの?このままずっとここでふわふわしてんの?」

「んー、どうなんだろ。何せ初めてのケースだから何とも言えないね。

 普通は当事者が死んだら私達も消えるものだとばかり思ってたけど…」

「俺達にはまだ何か"役割"があるってことじゃねーのか。」

「…そういうことになるかもね。でも"役割"って一体…」

「決まってんだろ!犯人を見つけ出して、そいつをぶっとばしてやんだよ!」

「違うでしょ。財布と同じ、警察に届けるのよ。」


数分後、近くを通りかかった通行人が彼を目撃し、急いで119番通報を行い救急車を呼んだ。

勿論、通行人には天使と悪魔は見えていない。


「で?どうすんだ。救急車来るまでの間、現場検証でもするか?」

「そうね。頭部からの出血が死因なのは間違いないようだけど、これは…

 何かで殴られたと見て良いのかしら。」

「あー、あれか。バールのようなもの?ってやつだろ。」

「うん。近くにそれらしいものが無いってことは、犯人はそれを持って逃走。

 あるいは、どこかで捨てたか。」

「財布の持ち主がパクられたと思って取返しに来たってところか。」

「おそらくは…それ以外に彼が白昼堂々撲殺されるってこと考えられる?」

「んにゃ、ねーだろ。財布のネコババで葛藤するようなヤツだぞ。

 人から恨まれるようなことは普段から特にしてねーし、してたら俺はもっと強くなってるハズだ。」

「確かに、善悪が拮抗しているからこその天使と悪魔。極端に罪になるようなことをしてたら、

 私なんて最初っから存在していないかもしれない…」

「の割には財布はそのまんまのようだな。犯人が持ち主なら取り返しているハズだろ。」

「うーん、思ったより強く殴り過ぎて、気が動転してしまい、慌てて去った。

 だから財布はそのままだった…とか?」

「まーあり得るか。通行人が中身を確認しているところを覗いたが、

 免許証が入っていたから、こいつが犯人ならこれで確定か。」


救急車が到着。青年と通行人を乗せて、病院へと向かう。

天使と悪魔もそこについていく、というよりはついていかざる得ない見えない力が働く。


「やっぱ、コイツから極端に離れそうになると、引き戻されるな。現場検証はこれっきりだ。」

「半径5メートルが限界みたいね。」

「なあ、通行人のやつ落ちてた財布の免許証見て、コイツの身元を救急隊員に伝えてるぞ。」

「顔全然違うじゃない。何言ってんだか。」

「まあ、無理もねえか。コイツの近くにあった財布なんだから。そらコイツのだと思うわな。」

「ねえ…悪魔くん、あれ…」

「ん?何だどうした。犯人(仮)の財布に大金でも入ってたか。」


通行人が財布を改めてたところ、免許証は1つでは無かった。

3枚の免許証が財布から出てきた。20代男性、40代女性、50代男性、いずれもバラバラだ。


「何だと!どうして1つの財布から免許証が3つも!」

「…落ちてた財布自体は確かに犯人のものだったかもしれない。

 でも免許証が盗まれたものだとしたら、犯人を絞り込まないと…

 いえ、3枚全て盗品だった場合はもうお手上げよ…」

「クッソ!何てこった。」

「悔しいけど、後は警察の仕事ね。人通りが少ないとは言え、商店がないわけでもなし。

 周囲の防犯カメラに何か映っているかもしれないし、財布の指紋から辿ることも不可能では

 ないでしょう。」

「おいおい、随分と諦めがはえーじゃねーか天使ちゃん。てめぇの良心ってのはその程度かよ。」

「そうは言ってもね。あたし達じゃ彼の半径5メートルからは出られないし、

 人にも物にも触れないのよ。これ以上何が出来るってのよ。それとも何?

 何か悪魔的な閃きでもあるのかしら?」

「ぐっ…それは確かにそうだが…ん…?」

「?」

「いや、まだ可能性はゼロじゃねーよ。俺達がまだ消えてしまってねーことが何よりの証だ。」

「確かに"役割"はあるかもだけど、少なくとも今はもう彼が目覚めるまでは何も…」

「俺達ゃ残念ながら何も触れねー。しかし、ここにいる救急隊員と通行人。

 こいつらの心を動かすことぐらいは出来るんじぇねぇか?」


声を張り上げ、罵声を浴びせながら通行人に訴える悪魔。

6度に渡り、「警察に連絡しろぉ!」と耳元で怒鳴った後、通行人はついに電話を掛けた。


「ぜーぜー。どうだ。多少は動かせただろ。」

「ほっといても警察に連絡ぐらいするでしょうに。それに本当にあなたの悪魔の囁きならぬ、

 悪魔の絶叫が通行人に通じたか、怪しいもんだわ。」

「まあいい。それはそれとして、考えられる余地は他にもまだあるはずだ。

 そうだな、例えばコイツは何であんなとこに居たんだ?」

「人通りの少ない歩道だったね…目を覚ましてくれれば意識から辿れるんでしょうけど、

 今は無理のようね。大学の通学路からは外れた場所よね?」

「ああ、バイト先の近くでもねぇし。自宅から徒歩ではやや遠いな。

 友達か知り合いでも住んでたか?」

「うーん、彼にとってあまり面識がない、印象が薄い人だと私達では分からないね。」

「あるいは初対面か…なあ、こうは考えられないか?

 コイツは犯人を追っていた。免許証を盗むところかどうか知らねぇが、

 とにかく犯行を目撃していて、通報がてら追い続けて見知らぬ場所にまで来た。

 で、犯人は見失ったが犯人が落とした財布を発見。それを持って交番に行くか迷っているところに、

 犯人に殴打されちまう。そこと前後するように俺達が現れた。」

「まあ、見知らぬ場所に居た理由は場所ではなく人を目的としていたことで説明はつくけど、

 犯人を追おうとする程の正義感を見せておいて、

 財布を拾うかどうかで迷うのかな…ってのはあるかな。追うぐらいならすぐ拾わない?」

「ぐ…それはそうだが。あーもうちょっと財布の中身見れねぇかな。」

「今度は私がやってみましょう。」


穏やかな声で通行人に囁く天使。

2度ほど「財布の中身を全て改めるのです。周りからも見えるように。」

すると、何か閃いたような仕草を見せた通行人は財布の中身を並べ始める。


「おい!何で俺の言うことは聞かねぇのに。天使ちゃんの言うことは聞くんだよ。」

「おそらく、彼が善寄りの人間だからかもしれないね。道端で倒れている人見て、

 逃げないで通報して救急車に同乗までしてくれるんだから。」

「そうか…コイツみたいに半々じゃなくて6:4ぐらいの善悪ってわけか。」

「まさか本当に他人にも作用するとはね…見て、財布の中身。あれは相当よ。」


財布から出てきたのは、5枚のキャッシュカード、100円玉2枚、500円玉1枚、

そして、1万円札17枚だった。


「なあるほど、これは迷うだろ。あんだけありゃ、警察に行く前に1枚ぐらい盗んでもバレない…

 とは思うだろ。」

「悪魔だね…1枚でも盗んじゃダメでしょうに。それに警察の手に渡るんだから、

 余計なことしない方が賢明よ。善行で隠しても悪行は悪行なんだから。」


救急車は病院に到着。集中治療室に青年は運ばれる。

外では、通行人が病院で待っていた警察に事情を説明している。

青年から離れられない天使と悪魔はひとまず集中治療室で行方を見守る。


「どうなんだ?こっから助かるもんなのかな。」

「さあ、彼に医療知識が無いから私達には分かりゃしないわ。」

「まあ、警察も来たみたいだから、俺らもここまでかね。」

「免許証の3人のうち誰かか、はたまた見ず知らずの何者か、通行人か。」

「え?通行人も容疑者に入んの?」

「特段怪しい動きはしてないし、むしろ彼の命の恩人にもなるかもしれないけれど、一応ね。」

「用心深ぇなあ。天使のくせして。」

「天使は関係ないでしょ。それに、用心深くないと善行は積めないのよ。」


応急処置を終えた青年が病室に運ばれる。まだ意識戻っていない。

数時間後、警察と通行人、免許証の3人が病室に入って来た。


「おうおう、揃いも揃ってお出ましだな。ここから解決編か。」

「まずは彼との面識があるのか、確認ってとこなのかな。」


通行人は、既に警察には説明済みだが、免許証の3人にも、

自分は通りかかっただけで青年とは面識が無い、自分が救急車を呼んだと説明。

その時、青年のものと思しき財布から出てきた3枚の免許証を警察に渡したことも話す。


20代男性は、青年とは異なる大学に通う大学生。

数週間前に取り立ての免許証を紛失したとして警察に届けを出していた。

青年とは面識が無く、今日は自宅で寝ていたと説明。


40代女性は、結婚4年目の専業主婦。

現場の近くに住んでおり、普段から車に乗らない為、免許証を紛失していたことは、

警察からの連絡を受けて初めて知った。青年とは面識が無く、

病院に呼ばれるまでは夕飯の準備をしていたと説明。


50代男性は、会社勤めのサラリーマン。

自宅も会社も現場からは離れている。免許証は昨年紛失したが、現在は既に再発行済み。

青年とは面識が無く、病院に呼ばれるまでの間は会社で仕事をしていたと説明。


「ふうん。成程ね。まあ、この中に犯人がいるとすれば1人に絞れるかな。」

「なっ、そうなのか?誰もコイツと会ったことねーようだが…」

「まあ、面識については普通に嘘ついてるんでしょーよ。

 もう警察も分かってそうだけど…後は証拠か。言い逃れの余地が残ってるのがマズイね…

 凶器なんてとっくにどこかに捨ててるだろうし、防犯カメラじゃ特定は出来なかったのかな?」

「おいおい待て待て。1人で先に行くな。誰だよ犯人は。」

「えー。まだ分かんないの?悪魔の頭脳も大したことないんだねぇ。」

「くぅ…屈辱だ。情報が出そろうまでは俺の方がちょっと優勢だったのに。」

「ヒントが多過ぎると混乱するタイプかな?もう1回言うけど、この中に居るとすれば、だよ。

 まだ第三者の可能性は拭えないけど、何か証拠が出れば間違いない。」

「分かったよ。降参だから早く犯人教えろよ。そんでそいつを追い詰めよう。」





「犯人は40代女性の専業主婦よ。」





「まず、50代男性は会社で仕事をしていたことから、会社がアリバイを立証出来ているから除外。

 通行人は、救急車も警察も呼んでいることから犯人なら自分を不利な状況にし過ぎだから除外。

 私達が見ている中では、不審な動きも無かったしね。

 20代男性と40代女性はアリバイが無いという点では共通しているけど、

 20代男性は警察に免許証の紛失届を出しているから、犯人ならする必要が無い。

 よって、40代女性が犯人となるわ。」

「はー。何か聞いたら成程ぉって感じだな。あいつだけ警察の世話になってねぇのな。」

「まあ、全員が本当のこと話していれば…っていう前提でだけどね。

 後はさっきも言った通り、決定打が何か無いと…」

「財布が元々あの女のモノなら指紋があるんじゃねえのか?持ち去ってもいないわけだし。」

「そうだね!捜査の為として指紋を採取させよう。」


言うが早いが、警察に囁いた天使により指紋の採取が始まる。

財布、青年、4人の関係者の指紋が採取された。しかし、財布には青年と通行人の指紋のみが付着していた。

常用しているにしては指紋の量が少な過ぎる為、青年と通行人が犯人と断定はされなかったが、

それ以上に他の3人の可能性が低いことの裏付けにもなってしまった。


「何でだ!畜生!」

「普段から手袋とかをしていたのかもしれないね。こういう落とした時の為に。」

「となると凶器が見つかった場合も同様に指紋は無さそうか…くそぉ。怪しいことは分かっているのに、

 捕まえられないなんて…何かないか…、何か…」


女性の周りをぐるぐる飛び続ける悪魔。


「あ…!こいつはどうだ、天使ちゃんよお!これなら決定的だ!」

「何かあったの?外側から分かる情報なら流石に警察も気づくと思うけど…」

「見てみろよ」


「これは…!返り血…!」


「綺麗に拭きとったんだろうよ。だが、まだ風呂には入ってなかったようだな。

 俺達ぐらい近づいて見ないと、見逃すレベルの極小だがこれは返り血の拭き残しだろう。

 これがコイツの血液と一致すれば間違いねぇハズだ。」 


女性の耳の裏側のやや下に残っていた僅かに目視出来るレベルの返り血を悪魔は見逃さなかった。

すぐさま天使は警察に囁き、返り血を確保。その血液は青年のものと一致した。

女性は連行され事件は解決へと至った。そして3日が経過した。



「命に別状は無かったんだよな?」

「ええ」

「事件も解決したよな?」

「そうだね。」

「何でまだ起きねぇの?」

「こればっかりは本人の回復を待つしかないね。」

「俺達は何でまだ存在してんの?」

「何でだろうね?結局、元となった財布は女性のもので押収されてここにはもう無いのにね。」

「コイツの中では、財布を拾う直前で意識が止まっているから…とかか。」

「あーそれはあるかも。」

「ったく、早く起きろよ。学生の本分は勉強だろうが。消えられねぇじゃんか。だりぃな。」

「ふふ。もう少しゆっくり寝させてあげなよ。大変な目にあったんだからこの機会に休みなよ。」


天使と悪魔が両方から囁く。


「起きろー。」

「おやすみー。」

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