戦闘神姫 第4話 炎の戦闘姫 ―アヤカの矜持―
剣を構えたアヤカから、電光石火の斬撃が走った。
反射的に受け止めたが、衝撃で腕が痺れる。押し返す力は圧倒的だ。
「イッシン!鈍ったわね」
余裕の笑みを浮かべるアヤカ。俺は必死に木刀を握りしめるので精一杯だった。
「これが……戦闘姫の力か…!」
「ふふ、それだけじゃないわよ」
再び木刀がぶつかり合う。
腕力だけじゃない――全身が常人を超越した力で動いている。俺が望んでいた“力”そのものだ。
「ウエポンズになれなかったのは、本当に残念だわ。ずっとライバルだと思っていたのに」
ため息混じりの声。その響きに胸の奥がざわめく。
「馬鹿にしにきたのか!? “ただの人間をッ!”」
感情が爆発した。溜め込んでいた悔しさをぶつけるように斬りかかる――が、次の瞬間には地面に転がされ、天を仰いでいた。
覗き込むアヤカの顔は、優しげで、そして少し寂しげだった。
「馬鹿にしたわけじゃない。……ただ、本当に残念だったの」
「……ごめん。気が立ってた」
俺は息を吐く。わかっている。アヤカはそんな人じゃないことくらい。
子供の頃から一緒に鍛錬してきた。家族のように育った。だからこそ、彼女の本心も、俺の悔しさもお互いにわかっている。
「戦闘姫って……やっぱり別格なんだな」
「言ったでしょ? 力だけじゃない。誰よりも戦い続けてきた。それが、私の強さよ」
俺は思い出す。
アヤカが十歳で神器に選ばれたあの日を。
十二歳で手術を成功させ、最年少で戦闘姫となったあの瞬間を。
たった二年で、国を背負う最強格にまで成長した天才。
「俺には……叶わないな」
「大丈夫。私が全部守ってあげる。――あの人の分まで」
差し伸べられた手。
けれど、その表情には影が差していた。
その時、大きな音と共に警報音が鳴り響く。
辺りを見渡すと街の方から煙が上がる。
「私、いくわ…」
先ほどまでの優しかった目とは違い、アヤカの目付きは鋭く真剣な眼差しだった。
その刹那、アヤカは風のように街の方へ去っていった。
「俺は…どうすればいいんだ…?」
今すぐアヤカを追うべきか? ただの人間が敵う相手なのか?
怖い…死ぬのが怖いのか?準備もしてきた。覚悟だってした…。
違う…役に立たずに足手まといになるのが怖いんだ…。
俺はその場から動けなかった。
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イッシンが葛藤している中、アヤカは最速で街に着いた。
街に着くと辺り一面に被害があった。
「酷い…あの音から最速でこっちへ向かってきたけど、被害が大きすぎる」
アヤカは冷静に分析する。すると後方から叫び声が聞こえてくる。それはウエポンズの戦士だった。
その方向へ向かうと、黒い鎧を纏う戦士達がいた。
「その鎧、ネフィリス…!」
10年前――ネフィリス軍が攻めてきて以来、しばらくの間姿を見せなかった。
それが今、こうして攻めてきているという事は…
あの“噂”は本当だったんだ。
「ディストラクションアームズ(DA)が完成したの?!」
その時、過去にシュラが会議で話した事を思い出した。
「ネフィリス軍がディストラクションアームズの調整に成功したという情報が入った気を付けろ…おそらく奴らの武器のベースは神器【明鏡止水】だ」
私は見た――10年前、英雄とも呼ばれていた大将軍クロカミ・ゴウケツに匹敵する力。
そして私の“命の恩人”を殺めた奴らを…!!
その時、気配を察知したDA達が一斉に襲い掛かる。
「神器顕現――火王鬼哭!」
アヤカが放った言葉と同時に、何もない空間から光と共に剣が姿を現した。
「燃えろ…!」
アヤカが剣を振るった瞬間、周囲に炎が奔り、襲いかかったDA部隊の群れをまとめて呑み込んだ。
炎はただの熱ではなく、鉄鎧を赤熱させ、肉を内側から焼き尽くす。
一瞬で数体が灰と化す――それが、アヤカの神器【火王鬼哭】。
アヤカの太刀筋は鋭く、炎を纏った刃が敵の首筋を一瞬で断つ。
「次!」
彼女の声と同時に、また一人が崩れ落ちた。
――これが“戦闘姫”。
ただのウエポンズでは決して到達できない、絶対的な領域の強さ。
「やっぱりおかしい…この程度の兵隊で街が壊滅?…あり得ない。裏に何かいるはず…」
その時、人間とは違う、別の異質な気配に気づいた。
「熊…?」
なぜ村に熊が?だが見た瞬間にわかった。
ウエポンズ部隊が殲滅された理由を。
その熊の正体は、黒い鎧を纏い、重火器を装備したネフィリスによって改造された生物兵器。
まさに ディストラクションビースト(DB) と呼ぶべき存在だった。
「グルルルルル……!」
その熊はアヤカを見つけた瞬間、臨戦体制をとる。
「お前…何人殺した……動物だろうが関係ない。葬るわよ!」
アヤカの目に殺意が籠る。
だがこの生物兵器には、恐るべき力が隠されていることを――彼女はまだ知らなかった。