【3章】戦闘神姫 第3話 決戦前と戦争前
イッシンとオネット陣営の戦いが決まった翌日から、イッシンは特訓に明け暮れていた。
剣の指南はアヤカから。
基礎戦闘と実戦技術は、イアとパラットから叩き込まれる。
ノヴァリス王国近辺の山――。
「今日はこれまでね」
「あぁ。ありがとうな、アヤカ」
いつもの山で、イッシンは黙々と剣を振り続けていた。
「アンタ……本当に剣で決めたの?」
「あぁ。確かに色々な武器を使えるのはメリットだ。でも、メインの武器を決めておかないと、強敵との戦いには勝てない」
一度、イッシンは剣を見つめる。
「そう考えた時、剣が一番……俺のピンチを何度も助けてくれたからな」
夕闇が辺りを包み始めた頃、山道の向こうから足音が近づいてくる。
「兄者!緊急会議でござる。至急、会議室に来るでござる」
現れたのは、シュラの付き添いであるフーマだった。
イッシンとアヤカは顔を見合わせる。
嫌な予感が、同時に胸をよぎった。
三人は急いで山を下り、ノヴァリス王国へと戻る。
ノヴァリス王国――大会議室。
扉を開いた瞬間、イッシンは息を呑んだ。
そこには、いつもの顔ぶれとは違い、王国の将軍たち、そして戦力となるウエポンズ部隊が集結していた。
「ここが大会議室……それに、見慣れない顔が多いな」
「王国は広いもの。私も初めて見る人が多いわ」
誰もが、ここに呼ばれた理由を知らされていなかった。
やがて、ネフィリスとの会談を終えたシュラが、ノヴァリス国王と共に前へ出る。
「集まったようだな……これより、緊急会議を行う」
シュラが口を開いた途端、ざわめきは一瞬で消えた。
「先日、ネフィリス王国にて会談を行った。しかし、予期せぬ事態により、ネフィリス陣営に重症者を出してしまった」
再び、場がざわつく。
「これよりノヴァリス王国は、ネフィリスとの戦争に備え、戦力強化と神器争奪に本腰を入れる……以上だ」
「ちょっと待て!説明はそれだけか?」
オネットが声を荒げる。
「あぁ。この場では以上だ。各隊長には、俺が直接説明する……では、国王」
シュラの合図で、国王が一歩前に出る。
「我が国の強者達よ……力なき民を守ってくれ。これは侵略だ。攻め入る者は、容赦なく排除してほしい」
その一言だけで、空気が変わった。
将軍も兵も、一斉に拳を掲げる。
国王はそれ以上何も語らず、大会議室を後にした。
「凄いな……たった一言で、ここまで人を奮い立たせるのか」
「それだけ、国王は信頼されているのよ」
その言葉に力があるのは分かる。
だが同時に、イッシンはその力に、僅かな恐怖も感じていた。
「俺が留守の間、ご苦労だったな」
全隊長への説明を終え、シュラはいつもの会議室へ戻ってきた。
「改めて言う。今回の会談は……“ほぼ”失敗だ。恐らく、会談そのものが罠だった」
シュラは淡々と状況を整理する。
「各隊に伝えた内容は以下の通りだ」
・これから出現する神器の獲得を最優先とする
・ネフィリス軍との戦闘は極力避ける
やむを得ない場合のみ交戦を許可
・単独での任務は基本的に禁止
戦争前としては、当然とも言える方針だった。
「そして、神器の使用者の確保だが……誰か候補はいるか?」
「アタシの舎弟たちは、今まで出た神器には適合しなかったぜ」
(アイツが居ればな……)
イアの部下、マク達もまた同様だった。
「俺が……神器をしっかり使えれば……」
「いや、イッシン。お前は切り札だ」
その言葉に、場が静まる。
「お前の能力は、武器との“共鳴”だろう。恐らく……お前は全ての神器を使える」
イッシンは息を呑んだ。
確かに、自分は専用の武器を持たない。
だが、その場その場で武器を扱い、勝機を掴んできた。
「だが、これは極秘だ。相手に知られれば警戒される。逆に言えば……今のお前は、強みが無いようにも見える」
シュラは続ける。
「だからまず、自分だけの武器を探せ。早急にな」
「了解……俺、必ず見つけ出す」
「よし。では本題に入ろう」
シュラは地図を広げ、ある地点を指差した。
「ここから少し離れた場所に湖がある。そこにダンジョンが出現したらしい。イッシン、お前にはそこへ向かってほしい」
シュラの言葉に、アヤカが割って入る。
「イッシンだけじゃ不安だわ。私も同行するわ」
「あぁ。流石にイッシンだけでは攻略は難しいだろう。それに、そのダンジョンは見つかりやすい場所に在りながら、未だ攻略されていない」
「つまり、難易度が高めって訳ね」
「あぁ。兵からの詳細な報告も無い。その認識で間違いないだろう。どうする?」
シュラは、イッシンとアヤカに視線を向ける。
「答えは決まってるよ。行ってくるさ。そして攻略してみせるよ」
その答えは、シュラの予想通りだった。
「いい答えだ。だが、あまり無理をするなよ。お前は無茶ばかりするからな」
「後、何人かサポーターを用意してよ。流石に未知数のダンジョンで、イッシン一人じゃ心もとないわ」
「わかった。手配しよう。それでは出発は三日後だ。各自、休息を取れ」
「シュラさん……少し、よろしいでしょうか……」
会議の終わり際、イッシンが弱々しく手を上げる。
「実は――」
イッシンは、オネットとの一件を説明した。
「馬鹿タレ!」
落ちてきたのは、シュラの拳骨だった。
「お前は問題ばっかり起こしよって……だが、間違いではない。仲間を侮辱されたなら、それが正しい。少なくとも俺のチームではな。帰ってきたら、みっちり鍛えてやる覚悟をしろ」
その言葉を聞いた時、イッシンは何故だか救われた気がした。
同時に、この男に本気でついていこうと、心から思った。




