【2章】戦闘神姫 第17話 結果と成果
「イッシン、まずはご苦労。聞きたいことは山ほどあるだろうが、何から話そうか?」
レミエントがイッシンを見据え、静かに問いかける。
「……なんで俺は生きてるんだ?
全員死ぬか、イアさんを殺すしかなかったんじゃないのか?」
「芝居を打ってもらったんだ。訓練だからね。
本来の能力は、最初に説明した通り“死なない”マーキングを付与することだよ」
「ここからはアタシが説明する」
レミエントに代わり、イアが一歩前に出た。
「本来は今言った通り、レミエントの能力だ。
訓練のために、わざと芝居を打ってもらった」
「……芝居、ってことは……」
その瞬間、森の奥から見慣れた顔ぶれが現れる。
「よかった……生きてたのか……」
安堵と同時に力が抜け、イッシンは思わず息を吐いた。
「まったく、姉さんも人が悪りぃよ」
「イッシン。約束通り、今度……戦って」
マク、ユミコ、リツコ、そしてカグラ。
死んだと思わされていた面々が、次々と姿を見せる。
「コイツらは先に目を覚まして、事情は説明してある。
イッシン、今回の訓練で――お前に教えたかったことは、全部だ」
「全部って……俺、何も教わった覚えはないぞ」
「違う。お前は“戦いの中で”それを見せた」
イアは静かに、だがはっきりと言った。
「多対一の戦い方。人間としての戦い方。この二つは今回の絶対条件だった。そして死に向き合う戦い方。最後の一つは、アタシが一番覚えてほしかったことだ」
イアの訓練を通し、イッシンは無自覚のまま成長していた。
「特にカグラの参戦は大きかったな。
ウエポンズでもない“強者”を見たことが、お前の視野を広げた」
「……確かに。カグラがいなかったら、ここまで考えられなかったかもしれない。
ありがとう」
「オイオイ、アタシらじゃ役不足ってか?」
「今度は絶対に、射抜いてあげる」
「次こそは、必ず勝ちますわよ」
「違うよ。三人の戦い方も、全部参考になった。
色んな武器、色んな戦闘スタイル――全部、俺の糧だ」
夜から始まった訓練は終わり、空は朝焼けに染まり始めていた。
「もうすぐ日が昇る。帰るぞ、お前ら」
イアの号令と共に、一同は王国へ戻り始める。
「――イッシンくん」
呼び止めたのは、カグラの姉・レイカだった。
「よかったら、今度は私が稽古をつけてあげようか?」
「いいんですか!? ぜひ!」
「じゃあ、決まりだね。カグラのためにもなるし……それに――」
言葉を途中で止め、レイカは微笑んだ。
「……いや、何でもない。
また今度、誘うね」
「あ、はい。ありがとうございます」
何かを胸に秘めたまま去るレイカを見送り、イッシンも仲間たちの後を追った。
――
ノヴァリス王国とは反対に位置する国、ネフィリス王国。
「フフ……ようやく完成の域に近づきました。最強の神器“明鏡止水”のおかげですね」
黒いフードの女性は、実験台を見下ろしていた。
「残るは神器と“適合者”の確保ですね。
――ライハ」
「呼んだ? サイラン……」
闇の中から姿を現す女性。
フードの女の正体は、サイランだった。
「神器の回収と、適合しそうな人間を探してきてください。
ただし――ノヴァリス王国には近づかないで。まだ……ね」
「了解」
ライハは影のように姿を消す。
「もうすぐですよ……
ネフィリス王国が、すべてを支配する日も。
さて……後は“戦いの火種”があれば…ね。」
――ネフィリス国・訓練所――
「今日の訓練はここまでだ!解散。」
ネフィリスの戦闘隊長が訓練の終わりを告げる。
「隊長、俺はDAになれますか?」
「訓練次第だ。いずれお前達には期待している」
ネフィリス国の兵士は、皆がDAになる事を望んでいた。
それは兵士にとっての“証”になるのだから
「なぁ知ってるか?今のDA手術は進化してるらしいぜ?以前と違って、しっかり力を残したまま意識が残るらしいぜ」
「これも、サイラン様のお陰だな!」
そこへ、ライハが姿を見せる。
「ライハ様だ……相変わらず美しいな」
「なんで訓練所なんかに来たんだろうな?」
ライハは誰とも話す事なく、何かを探しているようだった。
「ここには、居そうにないね。……ん?」
その時、ライハは大きな怒声の方へ顔を向ける。
「おい!またサボったのか。ネフィリス兵として恥ずかしくないのか!?」
「……」
その男は、反省の意図も示さず黙ったままだった。
「少し反省しろ!
このままじゃ任務にすら出してやらんぞ。
罰として片付けをして帰るように」
隊長は男に訓練所の片付けを命じ、去っていった。
「いいよ。片付けなんか」
ライハは男に話しかける。
「アンタ誰?」
「驚いた。私はこれでも、この国ではそれなりに有名人なんだよ」
「それで、なんか用?」
男はライハの事など、全くと言っていいほど興味がなかった。
「そんなことどうでもいいや。
君、満足してないんでしょ?」
「満足?アンタに何がわかるんだよ」
「わかるよ。
君のオーラが教えてくれてる」
「戦いに飢えているんだね。
訓練なんかでは抑えきれない、君の衝動は……」
その時、男の闘気が上がる。
先程までとは明らかに違う、異質なほどに。
「うん。気が済むまでヤろうか」
「アンタは俺を満足させてくれんのかぁ?」
ーー
サバイバル訓練から数日後。
イッシンは戦闘姫レイカに連れられ、レイカの家にある道場を訪れていた。
「やっぱり、次期“青龍”候補の実力は凄いな……。
まるで攻撃が当たらない」
レイカとカグラの流派である青柳流を極めた者のみが与えられる称号――
それが“青龍”と呼ばれる存在だった。
「私は青龍なんか興味ないわ。
本当に才能があるのは、カグラよ」
どこか寂しげな表情を浮かべながら、レイカはそう言ってイッシンを見る。
「さぁ。少し休んだし、もうちょっと稽古をつけようか」
「はい!お願いします!」
その時、道場の扉が静かに開いた。
「イッシン……。私と戦おう」
入ってきたのはカグラだった。
姿を現すなり、迷いのない声でイッシンに告げる。
「あの娘も、君のおかげで凄く楽しそうなの」
「楽しそう、なのか?
まぁいいや。訓練の続きだ。頼むよ」
レイカとカグラ。
二人の戦闘者に囲まれながら、イッシンは黙々と稽古を重ねていく。
その一つひとつを、確実に――
自分のものとして、吸収していった。
ーー数日後。
シュラに呼び出されたイッシンは、王城の会議室を訪れていた。
「イッシン。お前に国境周辺の調査に出てもらいたい」
「了解! 今回は何か出たんですか?」
「あぁ。まだ確定情報じゃないが……気がかりな報告が入っている」
シュラの表情が、ゆっくりと険しさを帯びる。
「各国で、神器使いが何人も殺られている。それも素人じゃない。かなりの手練れだ」
イッシンの背筋に、冷たいものが走る。
「敵は……ネフィリスですか?」
「わからん。
ネフィリスとて、各国を一斉に敵に回すほど無謀ではないはずだ。だが――」
一拍置いて、シュラは続けた。
「危険な任務になる。行けるか?」
返答に迷いはなかった。
「もちろんです。民が危険に晒されるくらいなら、俺がそこで止めてみせます」
「……ふん。頼もしくなったじゃないか」
シュラは小さく笑うと、首を横に振る。
「だが流石に一人では行かせん。もう二人、同行させる」
その時、会議室の扉が開いた。
「あっ! 二人って、まさか――」
「今回は、私が君の上司だね~。よろしく、イッシン」
「……よろしく」
レイカとカグラ。
二人が並び立ち、イッシンを見る。
「二人なら百人力だよ! よろしくお願いします!」
こうしてイッシンは、新たな任務に就くこととなった。
それが――
これまでとは比べものにならないほど、過酷な戦いの始まりになるとも知らずに。
――次章レイカ編




