【2章】戦闘神姫 第16話 決着!サバイバル訓練 戦闘姫イア
「さて、残りはお前ら二人だけだな」
血塗れのイアは、まさに地獄から来た死者のごとき禍々しさを放っていた。
「やるしかないのか?」
次の瞬間、カグラが地を蹴る。
「次はお前か、カグラ」
鋭い閃光の太刀がイアへ躍る。長太刀と大剣がぶつかり、火花が散った。
「お前は楽しませてくれんのか? カグラァ!」
二人の攻防が続くあいだ、イッシンは隙を探る。
(援護に割り込む余地がない。……俺にできることは?)
(イッシン——この訓練で教えたかったことは、もうだいたい掴めてる。あとは――)
カグラはイアの刃をいなしながら、切り返しを着実に重ねていく。
「当たらねぇのは厄介だな。——とっておきを、冥土の土産に見せてやる」
イアは突如として大剣を大地へ突き立てた。
「レイカの妹だ。正面だけ相手してりゃいい相手じゃねぇ」
イアを中心に複雑な地紋が走る。
「これは——」
「お前は避けるのに手一杯だったからな。その間に“仕込み”は済んでる。——《地縛》」
大地震砕は、大地の力を剣に宿し、術として解放できる神器。
描かれた円環の内側で、地面から鎖が噴き上がり、カグラの四肢を絡め取った。
「くっ……地面から鎖……? 動けない」
「真正面は面倒だ。だから捕まえた。——ま、剣を刺しっぱなしにしなきゃ維持できねぇ欠点はあるがな」
ゆっくりとカグラへ歩むイア。
(体は止められたけど、手は——動く)
「イッシン! これを!」
物静かなカグラが珍しく声を張り、太刀を投げる。
「これは……カグラの太刀!?」
「イッシン。この剣を——信じて」
受け取った瞬間、刃が淡く光を帯びた。
「チッ。やっぱりその太刀、特殊武器か」
「——《柳霞》、力を貸して」
「面倒になってきたが、問題ねぇ」
イアはカグラの鳩尾へ拳を叩き込み、気絶させる。
「行くぞ、イアさん……!」
「最後はやっぱりお前か、イッシン!」
イアは《地縛》を解き、大地震砕を引き抜いた。
――
「イアは、どっちが勝つと思う?」
「十中八九、カグラだろうな。——だけど」
「アイツ(イッシン)の“本質”が目を覚ませば、最後に立ってるのは違ってくる」
――
(やっぱりイッシンは“武器の底”を引き出す。あの太刀、カグラのとき以上に脈打ってる——それがアイツの力か)
「行くぞ……イアさん!」
「来いよ、イッシン」
二人の間に緊張が走る。イッシンもイアも動かない。
「来ねぇなら、こっちから行くぜ」
イアが突っ込む。上げたギアは、イッシンの想定を軽く上回る。
「受けなんかさせねぇ。特殊武器ごともぶっ壊してやるよ」
間合いを詰めた大剣がイッシンを捉えた――はずが、刃は空を切った。
「なにぃ!? 確かに斬ったはず……」
「どこを斬ってんだ?」
イアの背後に、イッシンの姿。刹那、鋭い斬撃がイアの肩を裂く。
「ぐっ……こんにゃろ。それが本来の技か」
「次は俺から行く」
今度はイッシンが踏み込む。太刀と大剣がぶつかり、火花が弾ける。
手数は太刀が上。イアは受けに回る。
(太刀の間合い、力、速度――把握した。あとは“決め”に来るところを、逆にカウンターで潰す)
(ここまでの攻めは囮。残すはこの一撃)
二人は最後の一手に備える。静寂を破ったのは、ほぼ同時。
「考えることは一緒か! 最後まで楽しませろよ、イッシン」
「ここで決める!」
先に剣を振ったのはイッシン。だがイアは読み切り、イッシンのタイミングに合わせて半歩だけ身を引く。
「そのリーチじゃ、ここは届かねぇ……計算済みだ」
「いや、俺の勝ちだよ、イアさん。――姿を曝せ、柳霞。『絶霞解除』」
“刀身が伸びた”ように見え、イアの胸を斬る。
※柳霞の霧で刀身長を短く見せ、相手に間合いを誤認させていた。何度か同じ太刀筋を見せて半歩下がらせ、解除の瞬間にリーチを通す。
「合格だ、イッシン。さすがだ」
「合格って……どういうことだ?」
「……まあ、起きたら教えてやる。――それより足元、見な」
視線を落とすと、カグラを中心に描かれた円の中――。
「まさか、誘い込まれてたのか」
イアは即座に大剣を突き立て、唱える。
「地縛」
一瞬で鎖が地面から伸び、イッシンの四肢を絡め取る。
「んじゃ、とりあえず少しお寝んねしてくれ」
イアの拳が鳩尾にめり込み、意識が闇に沈む。
「あー!!しんど。『武器の能力はほぼ使わずに勝て』だって? あの鬼め……アタシもまだまだ修行だな」
こうして四人は、全員イアに敗れた。
――
「……あれ、俺、死んだんだっけ?」
「おう、やっと起きたな」
耳に届くのはイアの声。周囲には花畑が広がっている。
「ここ、天国ですか?」
「なんでアタシまで死んだことになってんだよ。……まあ、場合によっちゃ天国かもな」
気づけば、イッシンの頭はイアの膝の上にあった。
「よく頑張ったご褒美だ。ありがたく受け取っとけ。二度とねぇぞ」
照れた横顔が近い。イッシンも思わず視線を逸らし、上体を起こす。
「やぁ、やっと目が覚めたかい。イアの膝元なんてレアだね」
レミエントの声。イッシンは慌てて立ち上がる。
「役者も揃った。じゃあ教えてやるよ――全部な」




