【2章】戦闘神姫 第13話 妹のカグラです…
イア主催のサバイバル訓練が始まって数時間。イッシン、マク、ユミコの攻防は激化していた。
獣人の熊腕マクと弓使いユミコの連携に、イッシンは苦戦を強いられている。
(連携の仕組みはもうわかった。――闇に紛れても位置を正確に把握して弓を通してくるなら……)
イッシンはマクへ真正面から向き合う。
「今度は俺から行くぜ……」
鉄槍を握ったまま、踏み出しは稲妻。瞬時に間合いを詰める。
「殺す気で突く!」
閃光の突きがマクの右肩を穿つ――が、マクは両腕を交差させて力を込め、槍身を噛み止めた。
「捕まえたぜ……」
「しまった……抜けない!」
隆起した筋肉に刺さった槍は容易には引き抜けない。そこへ暗闇から矢――。
「やっぱり槍はいらない!」
イッシンは槍をぱっと離し、身を屈める。刹那、イッシンに向かった矢はマクの腕に突き刺さった。
「ぐっ……! ユミコのタイミングに合わせ、わざと受けさせたな」
「ああ。普通、俺を撃つなら横か後ろだ。――あとは賭けだ。ユミコなら“ここ”って思って、先に潜った」
二重のダメージは深い。イッシンは好機を逃さない。
「ここで攻める!」
猛攻。マクは躱すだけで精一杯。闇から援護するユミコは、味方を射抜くリスクに狙いを絞れない。
「またマクちゃんに当てちゃう……仕方ない、出るか。――ん?」
ユミコの探知機が反応を示す。
「来たわね……リッちゃん」
「弓が止んだ……! これなら一人、確実に獲れる」
イッシンはユミコへ圧をかけつつ、なおマクを追い込む。
その時、暗闇に笛の短い信号。
「ユミコの合図……リツコが来るか。なら――!」
マクが地面へ力を叩き込み、振動を走らせる。イッシンの体勢が崩れ、マクは後方へ下がって態勢を立て直す。
「震わせた隙に弓か……と思ったが――最悪の布陣だな」
二人の後方から、人影。
「あらあら……二人で連携して、まだ仕留めていないのですの?」
イアが呼んだ三人目、リツコが姿を見せる。気品あるお嬢様然とした出で立ち。
「マジかよ……三人目……」
「マクさん、少しお休みになって。ユミコと二人で狩らせていただきますわ」
再び二対一が整う。
(身体能力は、さすがに獣人のマクよりは落ちるはず……なら、逃げ切れるか?)
イッシンは懐から煙玉を抜いた。
「もう一度、視界をもらう!」
白煙が四人の視界を奪う。
(探知機でサーチはされる。だが足の速さなら負けない。できる限り遠くへ離脱して手当てを――!?)
白煙は突風にあっさりと掻き消された。
「あら……どこへ行くおつもり?」
リツコの手にあるのは、異様な紋を描いた扇。
「それが、お前の武器か?」
「ふふ……教えてしまっては楽しみがなくなりますわ」
――リツコとイッシンの交戦。その後方で。
「マク……! 大丈夫?」
ユミコは止血剤を手際よく渡す。
「ああ、少し休めば戻る。獣人ってのは便利なもんだ」
「……でも、あいつ中々やる。強さ、〝副総〟に近い」
「副総……どこにいやがるんだか――ん?」
ピピッ、と単眼の探知機が鳴る。
「おかしい。私の探知対象は“人間限定”……誰かが来ている!」
――前線
「なんだ、この異様な攻めは。それに速い!」
リツコの攻撃は舞のように滑らかで、鉄扇から繰り出される一打は重い。受け止めるだけで精一杯だ。
「その扇……鉄か!」
「ご名答。ただの扇ではございませんこと。それに――」
リツコがくるりと舞う。動きが一段速まった。
「こんな芸当も、できますの」
空を裂く鉄扇。イッシンは既のところでバックステップ。
「なるほど、“踊り”か……」
「正解。これはただの武器ではない“特殊武器”ですわ」
【特殊武器 舞風】
舞の所作で使用者自身にバフ(機動・体幹)を付与。鉄扇自体に風属性を宿し、振るうことで煙霧を払うことができた。
「そして――わたくしも」
再び速度を上乗せ。
「ギリギリで避ける……!」
同じ軌道に見せかけて踏み込む。イッシンは早めにバックステップ――しかし。
「武器だけだと思わないでくださいまし」
鉄扇は囮。勢いを乗せた前蹴りが鳩尾に突き刺さる。
「勝負あり、ですわ」
イッシンは前のめりに倒れ込んだ
――少し前。観測地点。
「やってるね〜」
戦闘姫レイカが、イアたちの前に現れた。
「今日は姫がよく集まるね。国の警護は大丈夫?」
レミエントが冗談めかして問う。
「非番。それに、何かあってもここなら駆けつけられる。レミエントも知ってるでしょ、うちの戦力」
レイカは肩を竦め、背後を示す。
「今日は妹の特訓で近くに来てたの」
顔立ちの似た少女がひょこりと顔を出す。
「はじめまして、妹のカグラです……」
レイカとは対照的に、物静かな妹だ。
「ねぇイア! せっかくだからカグラも混ぜていい? この子の実戦訓練になるし」
「……そうだなぁ。面白ぇ!――それに……」
イアは望遠鏡を覗く。
「このままだと訓練というより“いじめ”だ。それもアイツのためだが、今回は違う。カグラ、戦場を荒らしてこい!」
「了解」
一言だけ残し、カグラは森へ溶けた。
レミエントは指先で空に紋を描き、遠隔で刻印を更新した。新たにカグラの肌にも同じ紋が灯る。
――
「さて、トドメを刺して三人で仕切り直しですわ」
ゆっくりとイッシンに近づく。振り下ろされる鉄扇。だが、甲高い音を鳴らして途中で止まる。
「カ、カグラさん?! なぜ貴女がここに?」
リツコの鉄扇は、カグラの太刀に受け止められていた。
「私も、イアさんと戦いたくて来た…。」
その時、イッシンはふらつきながら立ち上がる。
「アンタ誰だ? 最初にはいなかったよな?」
「私はカグラ」
名だけを告げる。
「カグラ……そ、それだけか?」
「この娘はいつも言葉が少ないのです。カグラは貴方がよく知るレイカ様の妹君ですわよ」
リツコが代わりに説明する。
「え? レイカさんの妹!?」
改めて見ると、たしかに面差しがよく似ている。
「陽気なレイカさんと比べて、物静かなんだな」
「口下手なだけですわ。でも戦闘能力はホンモノ。ウエポンズではありませんが、強さは間違いないですの」
「訓練に参加する。そして三対一はやりすぎ。だから私は君を助ける」
淡々と告げ、カグラは太刀を構えてリツコと向き合う。
「どけよ……」
気迫で立ち上がったイッシンが、カグラに圧を掛ける。
「コイツは俺が倒す。だけど助けてくれるなら、あの二人を頼めないか?」
「了解。任務遂行する」
カグラは視線だけで奥の二人を指す。
「来いよ、カグラ! 相手になってやる!」
マクとユミコは臨戦態勢に入った。
「私、一人なら勝てるとでも?」
「ここで勝たなきゃ、この先強くなれねぇ。越えてやるよ」
負傷したイッシンが向き合うのはリツコ。この戦闘は、圧倒的に不利な状況




