【2章】戦闘神姫 第11話 獅子王と黒獅子
塔のダンジョンの攻略を終え、俺たちはノヴァリス王国へ帰還した。
「やっと戻ってこれたね」
パラットはコクンと頷く。
アルギエラ戦を終え、無事に帰還した俺たちは、報告のため休息も取らずにシュラがいる会議室へ向かった。
――
会議室。
「――以上が報告になります」
俺たちはダンジョンの難易度のこと、単独撃破に失敗したこと、すべてを報告した。
「そうか。大変だったな。 また機会はある。それまでゆっくり休め」
シュラに報告を済ませた俺は、とあることを思い出す。
「シュラさん……これを」
俺はアルギエラから受け取った赤い欠片を渡した。
「なんだ? これは土産か?」
冗談かどうか、判別がつかない口調だった。
「塔のダンジョンの守護者がくれたんだ……そして、そいつは“獅子王の騎士”って名乗った」
「獅子王……」
シュラの表情が曇る。何かを思い出している顔だ。
「シュラさん……?」
「イッシン、お前には一応話をしておこう……」
そしてシュラは告げた。
「お前の親父さん……ゴウケツさんは、かつて“黒獅子”と呼ばれていた。 それと、ゴウケツさんが使っていた剣が、何者かに盗まれた」
「父さんが黒獅子……? つまり父さんは生きているの?」
「それはないはずだ……俺がこの目で、しっかりと死亡を確認した」
「じゃあ一体、なんのために……?」
「わからないが、何か関係はあるかもしれない。俺も少し調べる。今日はもう帰れ……」
言われるまま、俺は会議室を後にした。――シュラはまだ何か隠している。そんな気がした。
「ゴウケツさん……」
――
シュラは十年前のことを思い出す。
「シュラ……俺はもう永くない。」
「ゴウケツさん! 何言ってるんですか! まだ間に合います! 早く――」
ネフィリス軍のサイランとの死闘の末、ゴウケツの命の灯は消えかかっていた。
「シュラ……頼む。イッシンと、そしてライハのこと……それに、国にはネフィリスと繋がっている者がいる。 あと……は」
その言葉を最後に、ゴウケツの命の炎は消えた。
――
ゴウケツの死後、数日たったある日。
「ゴウケツさん……必ず突き止めてみせます。 そしてイッシンは任せてください」
墓参りを済ませた俺は軍へ来ていた。
「たしか、このあたりのはずだが……あった」
そこには軍の地下への入口が隠されていた。
「ここには何があるんだ……?」
暗闇の中、階段を降り、一枚の扉を開く。
「ここは……何かの研究室か」
室内の資料に目を通す。戦闘姫について、国の内情について――。
やがて一冊の手帳が目に留まった。
「これは……ゴウケツさんの日記か」
中身は、他愛もない日常の記録ばかり。
「特別なことは書かれていないな」
その時、一枚の写真がひらりと落ちた。
「これは……家族写真か……?」
写っていたのは、ゴウケツと妻のレイラ、そして娘のライハ。
「イッシン分かる。だが、なぜ“死亡した”ライハのことを――」
なぜゴウケツはこの場所を教えたのか。答えは出ない。 ただ、最期の言葉――“死んだはずのライハ”に手がかりがある、と俺は推測しその場を後にした。
そして数年後、俺は“ある情報”を手に入れる。
――
軍の入口。
「さて、パラットちゃん。解散しようか」
「そうする……です」
俺とパラットは軍の入口で話していた。
「身に染みたよ……俺、もっと強くなる。皆を守るために! だからパラットちゃん、今度は鍛錬に付き合ってよ」
「私でよければ……です」
「じゃあ、帰ろうか……」
その瞬間、言葉に力が抜けた。
ドサッという鈍い音とともに、俺は倒れる。
「クロカミ……さん?」
遅れてパラットが反応する。俺の体は、すでに限界を迎えていた。
「くっ……私の力ではクロカミさんを運べない。 軍の医務室まで行って戻るには時間が……」
アルギエラとの戦闘の傷は応急処置はしてあった。だが、普通の人間なら致命の傷だ。
「クロカミさんなら、考えるより先に動くはず…私が運ぶ…です。」
小柄な体で、ゆっくりと、少しずつ前へ進む。
「絶対に死なせない…です。 私が助けます」
そのとき、背後から声がかかった。
「パラット! 後は任せな」
その言葉を最後に、俺の意識は闇へ沈んだ。
――
二日後。
俺は朝の光とともに目を覚ました。
ここは、以前にも来たことのある病室だ。
「俺…どうしたんだっけ…?」
倒れたときのことを思い出す。
「そうだ…倒れたんだった。そこで意識が飛んで――」
隣でパラットが目を覚ました。
「クロカミさん……」
パラットは目元は涙で赤く腫れていた
「よぉ……目が覚めたか」
ちょうどそのとき、病室のドアが開く。
「貴女は……イアさん」
「パラットに感謝しろよ。必死にお前を運んでたんだからな」
「いえ……本当に感謝するのはイアさんのほう…です。 結果的にここまで運んでくれた…です」
「パラットちゃん。 また心配かけたね」
その時パシン、と軽い音。 パラットがイッシンの頬を叩いた。
「本当に心配した…です! もう、大事な人が目の前でいなくなるのは、こりごり…です……」
パラットは泣きながら崩れ落ちた。 その涙の意味は、痛いほど分かった。
「パラットは二日間ずっと看病してたんだぜ。 新入り、気張るのはいい。 だが報告はしろ。お前にはそれが足りねぇ」
イアが現実を叩きつける。
「すみません……俺……」
情けないことに、今は謝ることしかできなかった。
「あー! 辛気くせぇ! しゃあねぇ、アタシがお前を鍛えてやるよ」
イアの提案は思わぬものだった




