【2章】戦闘神姫 第9話 激戦アルギエラ 放て!パラットの奥の手
熱気に包まれる中、戦いは終盤を迎える。
現状、武器を持ち戦えるのはパラットのみだった。
「さて、残りは小娘ひとりか……よく粘ったが、ここまでだ」
真の姿となったアルギエラに抵抗する二人だったが、苦戦は濃かった。
(まずい……このままだと、クロカミさんが)
イッシンは攻めることも守ることもできない。
そして彼は“生身”の人間だ。
その時、アルギエラの狙いがイッシンに移る。
「小僧、貴様はどうやって死にたい? 剣か炎か、選ばせてやる」
ゆっくりとイッシンへ歩み寄る。
「俺は死なねぇよ……! うっ……」
強がって腹を押さえる。
先ほどパラットを庇った際の炎弾の傷がうずいた。
「止めだ。普通では死ねぬ方で、殺してやろう」
アルギエラの掌に炎が集束――
放たれた瞬間、氷塊がイッシンの目前で弾け、炎と衝突した。
「やっと姿を見せたな。気配を消すのが得意のようだが、この状況なら出ざるを得ないな」
無防備なイッシンを餌に、パラットを引きずり出す。
アルギエラの策は的中していた。
パラットは覚悟を決め、ハンターへ叫ぶ。
「ハンター! クロカミさんを担いで逃げる、です!
そして、クロカミさん――時間を稼いで、できる限りコイツを削ります……後は頼む、です」
「な、何を言ってるんだ! パラットちゃん!」
ふらつくイッシンを、ハンターは肩に担ぐ。
「逃げられるならありがてぇ! トンズラするぜ!」
「逃がすと思うか。――《炎弾》」
アルギエラの速射が二人を貫かんと走る――
だが、炎弾は届かなかった。
「狙うなら……今、ですよね」
パラットの氷弾が、炎の軌道を鈍らせ、弾幕を相殺する。
「流石だ、小娘。殺す前に問おう。名を」
アルギエラは追撃をやめ、パラットと対峙した。
「私の名前は、マリア・パラット。
ノヴァリス王国“氷の戦闘姫”…です」
「マリア・パラット……いい名だ。惜しいな、殺すのが」
私はまだ、死ねない理由がある……です!」
―――
「おい、離せよ!」
抱えられたイッシンたちは中階まで降りていた。
「あぁん?!」
ハンターはイッシンを雑に放り投げる。
「痛って! なにすんだよ」
「勘違いすんなよ? 手負いのお前なんか、すぐにでも殺せるんだよ」
ナイフを見せつけ、脅しにかかる。
「殺されたくなけりゃ大人しくしてろ……」
「くっ……ん?」
イッシンはあることを思い出す。
ここは中階、蜥蜴人と戦った大広間――
「武器だ……」
視線の先に、蜥蜴人が使っていた“蛇のような剣”が落ちていた。
同時に、囮にされたハンターの仲間のことが脳裏をよぎる。
「たしか……お前たち、仲間を囮にしたんだよな」
「あぁ? 今その話は関係ねぇだろ? ぶち殺すぞ!」
「殺してみろよ。手負いでも“楽勝”だ……弱虫がよ」
安い挑発――だが、効果は充分だった。
「この小僧、ぶち殺したらぁ!」
振りかぶられた腕。
イッシンは横へ転がって間合いを外し、落ちる手首を蹴り上げる。
「いてぇ!」
宙に跳ねたナイフを掴み、喉仏へ突き立てた。
「だから言ったろ。手負いでも楽勝って。それより――生きたきゃ手を貸せ」
「……はい」
ハンターは頷くしかなかった。
――
その頃、最上階では死闘が続いていた。
「《炎星岩》」
炎を纏う岩弾が、パラットへ殺到する。
「《白虎烈刃》」
一発の氷弾が触れた瞬間、刃のスリットを宿して岩塊を刻み裂く。
「やはりその技は危険だな。――だが、そろそろ限界ではないか?」
「まだ……やれます、です」
(小型なら撃てる……でも、さっきの規模を相殺するなら……あと数発、です)
炎の領域は氷の使い手にとって最悪の舞台。
それでも、退かない。
「痩せ我慢か。では、こちらから行く」
掲げた掌に炎が集まる。
「ここまでだ……せめて我が“火葬”まで手伝ってやる」
投擲の瞬間だった。
「パラットちゃん、防御してくれ!」
何かがアルギエラの手元へ投げ込まれる。
直後、轟音と共に手元で爆ぜる閃光と衝撃。
「ぐおおおおっ! 何だ、これは!」
「第二ラウンドといこうぜ……アルギエラ!」
投げ込まれたのは小型の爆弾。
炎の投擲動作と重なり、大爆発を起こしたのだ。
「待たせたね、パラットちゃん。後は任せて」
「ほぅ、武器を持ち、なお我に立つか。――面白い」
再び対峙するイッシンの手には、異様な“蛇腹めいた”剣。
(あの剣……たしか)
パラットには見覚えがあった。中階の蜥蜴人の得物の、ただの剣のはずだった。
「パラットちゃん。一発で仕留める準備、まだ残ってる?」
「時間さえ稼いでくれれば……“奥の手”がある、です。……しかし――」
「じゃあ俺が守る。最後の一発、頼む」
言葉を遮り、前へ出る。
「戻ってきたことは誉めてやる。だが哀れな武器よ、また消し炭にしてやろう」
「コイツは“可能性の塊”だぜ!」
イッシンが走る。アルギエラは炎を強め、受けを固める。
(また捨て身か……多少は喰らう。だが剣は溶かし、小僧は即殺)
横薙ぎの一閃。
「俺が、何度も同じ手を使うかよ。……炎を絶て《炎蜥蜴剣》!」
触れた瞬間に溶けるはずの刃が、逆に炎を吸い上げ、発熱を奪いながら肉薄――
アルギエラの身体を斬り裂いた。
「なぜ……炎が、消えた!?」
【炎蜥蜴剣】
稀に能力を宿すソウルウェポンが存在する。これを“特殊武器”と呼ぶ。
本剣は「炎の吸収と再放出」を本質とし、熱量を刃へ転化する特性を持つ。
「コイツの能力でお前の炎を吸いとった。
そして――吸いとった炎は放出することもできる。身をもって喰らえ! 炎蜥蜴の反射!」
イッシンは剣を振り下ろす。
剣から吸収された炎が放出され、アルギエラを襲う。
「ぐおおお……馬鹿な……我が炎の技を喰らうなど」
「お前には炎を吸収する能力は無かったようだな。後はお前を斬り刻むだけだ」
その時、アルギエラは笑いだす。
「フハハハ、見事だ……窮地に陥っても諦めぬその姿勢、そして逆転の一手。最後だ、我も全力でお前達に足掻こう……ハァッ!」
アルギエラの体が燃え出す。直後、その炎は収縮し、掌に巨大な火塊が生まれる。
「《大炎神》」
(大技が来る――このタイミングだ!)
「オッサン! 投げろ!!」
イッシンがハンターに向かって叫ぶ。
「ちゃんと捕れよ、クソガキ!」
ハンターはある物を投げつけた。
重い質量――イッシンは見極めて“柄”を掴む。
「ナイスコントロール、俺様」
「重めぇ……ナイスキャッチ、俺。やっぱりお前は最後に大技を使うよな」
イッシンが手にした物は、盾であった。
―――
遡ること中階。
「わかる……この剣には能力がある。これは……」
イッシンには特別な能力があった。
武器の本質を知る能力である。
「オッサン……何か火ある?」
「クソッ、生意気な小僧だな」
ハンターはマッチで火をつけ、持っていた藁に移す。
「吸収しろ……《炎蜥蜴剣》よ」
火に剣を近づけると、その火は剣へと移った。
「おお! すげえ」
「そして、これは放出できる。こんな風に」
火の消えた藁に、再び火を戻す。
「おそらく、吸収した炎をそのまま放出することができる。これを使えばアイツの炎は完封できるはず……だけど」
「だけどなんだ?」
イッシンは悩む。アルギエラにも“奥の手”があると読んだ。
「もし完封できても、最後に大技を繰り出されたらおしまいだ……それを耐えられなければ」
「お前、武器を触っただけでどんな武器かわかるんだよな……なら、アレはどうだ?」
ハンターが指す先には、蜥蜴人が使っていたもう一つの武器。
「盾……?」
イッシンは触れて確かめる。
「これは……炎耐性のある盾だ。これなら!」
強度は十分だった。だが――
「お、重い……やっと持てる」
盾は人間サイズとかけ離れ、イッシンと同じほどの大盾。
「ふん! 所詮はガキだな……こんなの朝飯前よ」
ハンターは軽々と持ち上げる。
その時、イッシンはあることを考える。
「オッサン……頼みがある」
「まさかな……」
その“まさか”だった。
先に向かったイッシンの後を、大盾を担いだハンターが追う。
向かう途中、打ち合わせは済ませていた。
「俺が合図を出したら、思い切り俺に向かって投げてくれ……必ず捕る」
「ふん……失敗すれば全員死か。おもしれぇ、絶対捕れよ、クソガキ!」
―――
「《大炎神》!」
アルギエラに集まるすべての炎が解き放たれる。
「持ってくれよ、盾……!」
イッシンの盾と炎が激突する。
炎耐性のある盾だが、アルギエラの出力はそれを凌駕する。
高熱を受けた盾は、ミシミシと悲鳴を上げた。
「まだまだぁ! 俺は姫を守る騎士なんだ!!」
気迫で押し返す。炎がわずかに衰える。
その時、盾に大きな亀裂が走る。
「我の粘り勝ちだな……そのまま焼き尽くす」
威力は落ちても、盾は限界。絶体絶命。
だが、イッシンは笑った。
「いや……俺たちの勝ちだよ、アルギエラ」
次の瞬間、盾が割れ、炎が襲いかかる。
だがイッシンは、割れる直前に手を離し、後ろへ跳んで剣を構える。
「炎を裂け――《炎喰》!」
構えた剣を思い切り投げつける。
刃は弱まった炎をすべて吸収し、アルギエラの腹に突き刺さる。
「ぐっ……まだ我は生きておるぞ」
「“奥の手”…です」
息を潜めていたパラットが現れる。
(小娘の銃の最大火力は、おそらく《白虎烈刃》……それなら耐えきる)
「解放――《氷牙重砲・熊砲》」
パラットの二丁の拳銃が、一つの重砲へと融合する。
「なんだ?! その銃は」
【氷牙重砲・熊砲】
パラットの神器の奥の手。二丁拳銃の速射を捨て、極大の一撃に特化する。
ただし一射のみで、発射後は元の二丁《虎白》へ戻る。
「チェックメイト……です。――《絶冷熊砲》」
唸るような低音。
放たれた一撃は進路を破壊し、すべてを凍てつかせてアルギエラへ到達する。
「見事……だ」
砲撃はアルギエラの下半身を消し去り、周囲一帯を凍りつかせた。
そして俺たちは、アルギエラに勝利した。




