【2章】戦闘神姫 第7話 獅子王の焔の騎士アルギエラ
扉を開けた先に待ち受けていたのは、ハンター一味の頭だった。
「た、助けてくれぇ!」
怯える男をイッシンが押さえる。だが、パラットの目つきが冷たく変わる。
「一体、何があった?」
イッシンが問いかける。
「こ、このダンジョンはレベルが違うんだ! 俺たちの推測は難易度“B”。でも、中階の蜥蜴人から明らかにおかしくて……!」
「つまり、仲間を置き去りにしてでも先へ登り、ボスだけ倒せると踏んだ……ですか」
パラットの銃口が、男に向く。
「そ、そうだよ! 人数さえいればボスなら――」
パァンという音が鳴り響き氷弾が男の足元を穿ち、床が白く凍る。
「ひぃぃっ!」
「偉そうに喋るな……です。質問にだけ答える、です。――どこの依頼を受けた」
脅しより冷たい、無機質な声だった。
「お、俺たちは“黒猟会”に入りたくて……手土産に神器を渡そうとしただけなんです!」
「その黒猟会に、“赤黒い瞳”の男はいる、ですか」
男は逡巡し、首を振る。
「何度か黒猟会と仕事はしたが、赤黒い瞳の男は見たことがない……知ってるのは、それだけだ。許してくれ……ただ――」
言い終える前に、扉の奥から豪炎が噴き上がり、部屋を呑み込んだ。
「な、なんだ!?」
炎の帳の向こうから、人影が歩み出る。
「人……なのか?」
「クロカミさん、避ける……です!」
炎を帯びた腕が空を薙ぐ。イッシンは紙一重で躱した。
「腕から炎……!?」
「こ、こいつに仲間は皆やられたんだ……!」
姿を現したのは、灼熱を纏う鎧の騎士。
「我は獅子王より生まれし焔の騎士――《アルギエラ》。この宝を護る守護者なり」
「こいつが……守護者……! わかる、オーラが違う……!」
蜥蜴人とは比較にならない圧。熱と威圧が背を撫でる。
「“話す”守護者なんて、ほとんど聞いたことがない……です」
パラットは白銀を思い出す。意思を持つ守護者――それは白銀と同格の異質さ。
その時、ハンターの頭が背を向けて叫ぶ。
「お、お前たち! 後は頼んだぞ!」
言い捨て、扉へ逃げ出した。
「愚か者。この聖域から出られると思うな」
直後、塔全体が轟音で震える。
「この塔の入り口を塞いだ。出たくば、我を倒すしかない」
「た、助けてくれ! 無事に出られたら、何でも協力する!」
イッシンは短く息を吐いた。
「仲間を置いて逃げるお前を助ける義理はない。……けど、俺たちに後退はない」
「パラットちゃん、改めて言うよ。後ろは任せた!」
イッシンが剣を構える。呼応して、パラットも銃を上げる。
「援護は任せる……です!」
戦いの口火を切ったのは、パラットの速射だった。
二丁の銃口から連ね撃ちされた氷弾が、騎士の焔を削り取る。
同時、イッシンが鋭い踏み込み。
「はぁッ!」
落雷のような斬撃がアルギエラを襲う。
「甘い――!」
火花。斬撃は騎士の剣に弾かれた。
「中々の連携だ。小僧も小娘も、よく鍛えられている」
アルギエバは微動だにしない。挑戦者を待つ門番のように、位置を崩さない。
「……つまり“挑戦者”ってわけだ」
イッシンの口角がわずかに上がる。鎧を包む炎が、再び勢いを取り戻す。
「やはり……です」
パラットは“炎の特性”を読んでいた。
――鎧の内から発される焔が外殻となり、纏っている間は打撃が通りづらい。
「炎の相手なら、私が一番知っている……です」
氷弾の連射。命中の瞬間、鎧の焔がしぼむ。
「クロカミさん、今……です」
「わかってる! 今度は受けさせねぇ……!」
パラットの速射に合わせ、さらに速い踏み込み。
「まずは、その鎧を――!」
袈裟の刃が装甲を確かに捉える。だが、あと一歩。破断に届かない。
「くっ……あと少し……!」
「それで充分……です」
斬撃の余韻、その死角からパラットが滑り出る。
「白虎烈刃」
一発の“牙弾”が亀裂へ食い込み、獣の爪のように鎧を切り裂いた。
「すげぇ……これがパラットちゃんの神器……!」
【神器:氷牙銃・虎白】
神獣・白銀より授かった二丁拳銃。
放つ氷弾は周囲の水分から補填可能。威力は使用者の気力で可変。
「弾かれずに切り裂くなんて……神器ってすごいな」
「クロカミさんが亀裂を入れたおかげ……です。さすがに連発は無理……です」
その時、アルギエラの鎧が再び燃え上がる。
「鎧が……再生していく……?」
切り裂かれた装甲が、焔に包まれ元通りへ。
「今のは肝を冷やしたぞ。よかろう、我も本気を出そう」
先ほどよりも重い熱が広間を満たす。
「クロカミさん……腹を括ってください。おそらく、DAやDB、クロカミさんが戦った神器使いよりも実力は上……です」
パラットは冷静に分析しつつ、内心は焦っていた。――イッシンには荷が重いかもしれない。
だが、イッシンの顔を見て、その不安は払拭される。
「心配はなさそう……ですね」
「ごめん。さっき叱られたけど、心が燃えてる。こんな敵、見たことがない」
「……お前ら、化け物かよ」
イッシンたちはまだ知らない。
アルギエラの本当の強さを――。




