【2章】戦闘神姫 第6話 白狼の意思と氷の姫
「流石……●●だな。依頼をしてよかったぜ。これで俺も神器使いだな」
男に話しかけるのは、ハンターの一人だった。
「神器には相性がある。使えなくても文句言うんじゃねぇぞ」
「その時はネフィリス軍にでも高値で売ってやるさ」
男たちは笑いながら、白銀の亡骸へと歩み寄る。
そのとき――
赤黒い瞳の男が、何かに気づいた。
「……誰だ。そこにいるのは?」
男の鋭い声に、私は体を強ばらせた。
「ずっと見てたのか? ガキのくせに気配を完全に消してやがる……」
森の動物に育てられた私は、知らぬ間に“気配を殺す術”を覚えていた。
「殺します? コイツ」
「お前らにやる。売るなり好きにしろ。俺には興味ねぇ」
男の仲間が続々と現れる。
「お頭ぁ! 遂に神器を手に入れましたね!」 「バカ野郎! まだ取り終えてねぇよ!」
笑いながらはしゃぐハンターたちを見て、私の中で何かが壊れた。
初めて、心の奥から“殺意”が湧いたのです。
「……殺す」
震える手で木の棒を掴み、ハンターたちを睨みつけた。
幼い少女とは思えない、冷たい視線だった。
「ガキはすっこんでろ!」
下っ端のハンターが私を蹴り飛ばす。
私は吹き飛ばされ、白銀の足元へ転がった。
「……お父さん」
白銀は、私にとって父そのものでした。
その思いとともに――死んだはずの白銀が、光を放ちはじめた。
「な、なんだこの光は!?」
眩い光が私とハンターたちを包み込む。
次の瞬間、何かが私の手に落ちてきた。
「これは……何、です?」
手の中にあったのは、二丁の拳銃だった。
「ほぅ……神器が人を選んだか」
赤黒い瞳の男は冷静に呟いた。
だが、依頼主のハンターは焦りを見せる。
「こ、小娘ぇ! それを寄越せ!」
怒声とともに、私へ手を伸ばした。
「……私にはわかる、です。この銃の使い方が。
そして――お前たちに“裁き”を与える方法も!」
私は引き金を引いた。
放たれた弾丸は、氷の弾丸だった。
次々と放たれる氷弾が、ハンターたちの眉間を正確に撃ち抜く。
「ハハハ…こいつはスゲェまるで野生の獣だな」
赤黒い瞳の男は、氷弾の雨を笑いながらも余裕で躱していた。
――数分後。
ハンターたちは全滅し、森は一面“白銀の世界”に変わっていた。
私は銃を握ったまま、意識を失う。
「さて……依頼主は死んじまったが、神器はここにある。
あの神器、俺が貰っちまうか……いや、いっそこの小娘ごと――」
倒れた私に男が手を伸ばした、その瞬間。
森を包むほどの極寒の冷気が、私の体から解き放たれた。
「……これは、この神器の奥の手か?」
男は冷や汗を流しながら、氷の檻を見つめた。
だが、それは神器の力ではなかった。
白銀が、最後に残した“奇跡”だった。
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【絶対氷壁】
神器へと姿を変えたはずの白銀が、
使用者――パラットを守るためだけに発動させた防御の奇跡。
本来は、すべてを氷の世界へと閉ざす大技。
だが、パラットの体力では到底耐えきれず、
“氷の殻”に包んで命を護ることを選んだ。
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「チッ……最後にやってくれるな。あの狼め」
男は何度も刃を振るい、銃弾を撃ち込む。
だが、氷には傷一つつかなかった。
「……まるで、守るように……」
その時、森が大きく揺れた。
地鳴りが響き、木々が倒れ、空が赤く裂ける。
「ダンジョン崩壊か……まぁいい。今回は十分楽しめた」
男は吐き捨てるように言い残し、森を後にした。
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やがて、森の崩壊が止み――
氷の中で眠っていた私は、静かに目を覚ました。
気がつけば、知らない森の入り口に倒れていた。
そこは、あの森とは違い、
穏やかで、動物たちが平和に暮らしている場所だった。
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「……こんな所に森なんてあったか?」
調査に来ていた男が異変に気づく。
「隊長! ここにダンジョンがあった形跡が!」
「付近に何もないな……消滅したのか? ん……?」
隊長の目が何かを捉えた。
「……子供?」
そこに倒れていたのは、私だった
「調査は中止だ! すぐに戻るぞ! この娘の命が危ない!」
男は私を抱き上げ、そのまま国へと急いだ。
――その男こそ、シュラだった。
シュラに命を救われた私は、やがて戦闘姫となった。
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「それでパラットちゃんは、ハンターを憎んでるんだね」
「……です。名前も知らない。わかっているのは、“赤黒い瞳”の男ということだけ……です」
壮絶な過去を聞いた俺は、同情というより“共感”してしまった。
大切な存在を殺され、何もできなかった後悔――それは俺にも覚えがあった。
「ありがとう、パラットちゃん。嫌なこと思い出させてごめん。
でも、もし俺にできることがあるなら、協力するよ」
イッシンは軽くパラットの頭を撫でて、先に進んだ。
「……ありがとう、です」
少し遅れて歩き出したパラットの頬は、
ほんのり赤く染まり、揺れる髪が熱を隠すように頬を撫でた。
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最後の階段を登り詰めた先、重厚な扉が二人の前に立ちはだかる。
「ここが、守護者の間……?」
「正確には、“守護者がいる部屋の前の広間”…です」
パラットが静かに説明する。
「ボスが存在するダンジョンの最奥には、必ず“守護者の部屋”がある、です。
その手前には、装備や体勢を整えるための“広場”が配置されるのが一般的…です」
「なるほど。つまり、この扉の先が準備エリアってわけか」
「はい。その先が本当の地獄…です」
イッシンは苦笑しながら、扉の取っ手に手をかける。
「じゃあ――開けてみようか」
そう言って押し出した瞬間――
中から、鋭い悲鳴が響いた。
「うわああああっ!! 助けてくれぇぇぇぇ!!」
その叫びは、紛れもなく人間のものだった。
そして声の主は――先にダンジョンへ入ったハンターの“お頭”だった。




