【2章】戦闘神姫 第4話 炎の蜥蜴と自惚れと
塔のダンジョンへ入った二人は、戦闘姫パラットの援護を受けながら、順調に階を重ねていった。
「そろそろ中間地点かな?」
「はい……そろそろ、です」
(シュラさんから聞いてはいましたけど……先日の薙刀の神器もそう。武器の扱いが上手すぎます、です。伸び代は、おそらく――)
「でもさ、難易度Bって思ったより手強いな。ひとりじゃ到底ムリだったよ」
「クロカミさんも気づいた、ですか」
パラットの表情がわずかに曇る。
「入口付近と比べて、敵さんの強さが違う、です……」
「え? 本当? 全然気づかなかったよ。常に全力で行ってたからさ。あと、パラットちゃんの援護があったからかな」
イッシンの戦いぶりは、端的に言って“常時全開”だった。
今回のミッションは《ボスを単独撃破》、それ以外はパラットの援護可――という条件だ。
「常に全力だと、守護者まで持たない、です。クロカミさんは“力の配分”を覚えるべき……です」
小さな声の進言は、確かな助言だった。
「たしかにな。見極めて温存しないとな。ありがとう、パラットちゃん」
「仲間ですから、当然……です!」
パラットの声色が、今日いちばん明るくなる。
二人は階段を上り、大広間へ続く重扉の前に出た。
「この大きな扉……ここが中間地点か」
「おそらく“中ボス”レベルの守護者がいるはず、です」
「じゃ、開けるよ――」
イッシンが取っ手へ手を伸ばした刹那、パラットの目が鋭く細まった。
「待つ、です――!!」
「ど、どうしたの?」
彼女の視線の先。
石床に、赤黒い液体が帯状にのび、扉の隙間から奥へと続いている。
鼻を刺す鉄の匂いが濃い。
「……血、です。おそらく先に入ったハンターだと思う、です。気をつけて下さい。あいつら、下調べは徹底してるはず、です」
「つまり――想定より“格上”だな。……でも、前に進むしかない」
不安よりも、胸の奥で別の熱が膨らむ。
自分の限界を、知りたい――。
「覚悟は決まってますね……では、開けます」
二人は、重い扉を押し開けた。
扉を押し開けた瞬間、熱気と獣臭が押し寄せた。
二人の前に現れたのは、人間より一回り大きい二足歩行の蜥蜴人だった。
「こいつが中ボスだな」
イッシンは剣を構え、パラットも銃口を上げる。
「パラットちゃん、ここは任せてくれ」
制止の声に、パラットが小さく笑みを浮かべて頷く。
「クロカミさんの力、見せてもらう…です」
刹那、蜥蜴人がパラットへ標的を切り替え、一直線に襲いかかる。
だが、その一歩は床に貼り付いたように止まった。
パラットの瞳が細まり、圧だけが場の温度を一段下げる。
“触れるな”という意思が、獣にも伝わった。
「お前の相手は俺だよ」
怯みの一拍を逃さず、イッシンが間を詰める。
初太刀――だが刃は分厚い盾に"弾かれた"
攻撃の返し、蜥蜴人の胸郭が大きく膨らむ。喉奥が橙に灯り、火炎が吐き出される。
イッシンは床に滑り込むように身を捌き、直撃を外した。
「モンスターらしい手だな。つまり、それが“切り札”って訳だな…だけど…!」
イッシンは二の太刀へ。しかし蜥蜴人の盾が攻撃を受ける
蜥蜴人の胸が再び膨らみブレスの予備動作
その瞬間、蜥蜴人に隙が生まれるーー
「今度は引かねぇ。そこだ…」
最速の剣でのえぐる斬り上げ。
膨らむ胸板の継ぎ目を断ち、続けざまに喉元へ一直線。
火の色が喉奥からふっと消え、巨体が崩れ落ちた。
イッシンの二度目の攻撃は敢えて盾に"受けさせた"初撃は勢いよく剣を振るったことにより盾に弾かれイッシンに隙が生まれた
だが、それを逆手にとり敢えて軽めの攻撃で盾に受けさせる事により、イッシン自体の隙を減らし、ブレス攻撃の溜めのタイミングを見計らう事に功を奏した
「お見事……です」
(難易度B相当の弱点を瞬時に見抜いて、最短で仕留める……。ただ――)
「クロカミさん、本当に見事……です。でも、もう少し“相手を見る”べきです」
パラットの声は穏やかだが、芯がある。
「戦闘IQも武器の扱いも、とても高い……です。けれど、クロカミさんは“人間”。
全力を常時で回すのは、強敵相手ほど危険……それだけ、頭の片隅に置いてください……。もう誰も仲間を失いたくない…です。」
自惚れてたのかも知れない。ネフィリスの神器使いや、モンスター等に自分の強さが通じてた事を…
「心配かけてごめんね。肝に命じるよ…そして約束する、俺は死なないよ!」
仲間のためにも強くならなくてはならないと心に誓い次の階層に向かうーー