【2章】戦闘神姫 第3話 ダンジョン難易度推定"B"です
シュラから神器回収の任務を受け、
俺とパラットは王都を発ち、北の地へ向かっていた。
顔合わせは済んだが、口数の少ない彼女と二人きりは、少し気まずい。
「そういえばさ、シュラさんが言ってた“ダンジョンの難易度”ってどんな感じなんだ?」
「神器が眠るダンジョンには難易度があるです……大きく分けて、ボス討伐型と探索型、です」
弱々しい声ながら、パラットの説明は的確だ。
「ふーん。その難易度って、中に入るまでわからないの?」
「基本はわからないです……でも、ある程度は絞れるです」
「どうやって?」
間髪入れずに問い返すと、パラットが一瞬だけ黙り込む。
「そ、それが先遣隊とフーマさんのお仕事……です。中の敵さんの強さで推定できるです。フーマさんは強いので、情報精度は高い……です」
「なるほど。じゃあ今回の“B”だと、どのくらい?」
今回、事前にシュラから聞かされたのは難易度Bという事だけだった
「推定Bなら……現状のクロカミさんくらい、です。もう一人、同等以上のサポートがいれば十分攻略可能……です」
「初任務、緊張するけど――頼りにしてるよ、パラットさん」
その言葉に、彼女の頬がわずかに赤くなった気がした。
「年下なので、“さん”はいらない……です」
「じゃあ、パラットちゃんで。――なんてな」
「なんでもいいです……行くです」
彼女は小走りで先へ。背中は、何かから逃げるみたいにせわしない。
やがて、先遣隊の影が見えた。道中、パラットはずっと黙ったままだ。
「イッシン殿、パラット殿!」
声をかけてきたのはフーマだ。
「この先に古塔が見えるでござる。今回“出現”した塔はあれでござる」
指さす先、草原のただ中に、古びた石の塔がそびえていた。
「難易度は、どのくらいです」
「概ねBで間違いないでござる。ただ――厄介が一つ」
「どういうことだ?」
「ハンターがいるでござる。神器を盗賊共で、闇市に流す口も持っている」
塔や遺跡が“出現”する現象が知られてから、神器目当てだけでなく、回収して売る連中も増えた。彼らは神器だけじゃない。金になるものなら何でも狩る。
「……ハンター」
その一語に、パラットの表情がきゅっと強張った。サイランと対峙したときの険しさに似ている。
「パラットちゃん?」
呼びかけると、彼女の顔はすぐにいつもの無表情へ戻った。
「では、作戦を立て次第、行くです」
「その前に、主より預かり物でござる」
フーマは封書のような指令書を差し出してくる。
「これは?」
「イッシン殿への“ミッション”でござる。今回の達成基準、というやつ」
封を切る。そこには、たった一行。
――《単独でボスを討伐せよ》。
「拙者らは一度戻るでござる。……それと、イッシン殿」
フーマは少し照れくさそうに視線を逸らした。
「イッシン殿のこと、兄者と呼ばせてもらってもよいでござるか」
年下の頼みを断る理由もない。
「好きに呼んでいいよ」
「かたじけない、兄者」
耳まで赤いフーマは先遣隊を率いて引き返していった。
「では、任務とミッションのおさらい、です。今回はボス討伐型のダンジョン攻略。そしてミッションは――単独でのボス撃破、です」
「単純明快、だな」
将軍級の器かどうか、これ以上ない試金石だ。
「危険と判断したら、最悪は私が守るです……だから、頑張るです」
ほんの少しだけ、彼女との距離が近づいた気がした。
「――言ってみたかった台詞があるんだけど今なら言えるよ。パラットちゃん、後ろは任せた!」
「……では、行くです」
パラットが小さくうなずき、俺たちは塔のダンジョンへと足を踏み入れた。
――同刻・塔の最上階ーー
「聞いてねぇよ……こんな化け物、……く、来るな、やめ――」
低く濁った咆哮。鈍い音。血が石床を這い、灯りが一つ消える。
さらに奥へ進む俺達は、まだ知らない。
この塔の難易度“推定B”が、想定外に跳ね上がっていることを――。