【2章】戦闘神姫 第1話 任務と仲間
ネフィリス軍の襲撃から数日。
街はまだ荒れ果てていたが、民は強く、復興へと立ち上がっていた。
俺もまた、初めての神器戦を経験し、自分の無力を痛感した。
神器は扱えた。だが一度の使用で激しい疲労に襲われ、長くはもたない。
それでも――「神器を使える」という事実は、確かな希望だった。
そして今、俺は軍法会議の場に立たされていた――。
「これより軍法会議を開始する」
冷徹な声を響かせたのは、リーガル大佐。眼鏡の奥から圧を放つ、会議の議長だ。
「クロカミ・イッシン。お前が敵に神器の保管庫を知られ、盗まれる原因を作った件について――弁明はあるか?」
「はい。保管庫に入ったのは事実です。鍵を掛けず、そのまま出てしまいました」
敵に神器を奪われた以上、責任は俺にある。言い逃れはできない。
リーガルの視線がさらに鋭くなる。
「では最後の質問だ。お前は軍人ですらない。なぜ地下の入り口を知っていた?」
(……シュラさんのことは言えない)
「い、いや……たまたま見つけたんです。入ったら、そこが保管庫で……」
言った瞬間、リーガルの眼差しがきらりと光った。
「嘘だな。少年、私に嘘は通じん」
その時、悟った。――その眼鏡はただのものではない。
【神器《心眼鏡》】
視力を極限まで引き上げ、筋肉の動きや思考の揺らぎを読む眼鏡型の神器。
相手の虚偽・感情・弱点を見抜く、まさに“心眼”に相応しい神器
「私の前で隠し事はできん。……貴様、スパイなのか?」
「くっ……!」
窮地に追い込まれたその時――
「イッシンに保管庫を教えたのは俺だ」
会議室の扉が開き、現れたのはシュラだった。
「なぜだ、将軍。一般人に機密を漏らすなど許されん」
「こいつはもう一般人じゃない」
シュラは一枚の書類を差し出す。
そこには――『クロカミ・イッシン、シュラ部隊に正式配属』の文字。
「届けを出し忘れていた。日付は襲撃の前日だ」
「なるほど……だから会議に貴殿の姿が無かったわけか」
リーガルは唸りつつも視線を外さない。
「だが、盗難の責任は残る。将軍、どう落とし前をつける?」
「イッシンには任務を与える。俺自身も共に尽力する」
「任務、だと?」
――会議が終わり、外に出る。
「シュラさん、本当にありがとうございます」
「俺の責任でもある。だがこれからは馬車馬のように働いてもらうぞ」
提示された任務は苛烈だった。
① 盗まれた神器の奪還と、散逸した神器の回収
② シュラ本人が任務に同行する(監視兼支援)
③ 一年以内に将軍級の実力を示し、成果を挙げること
「……一年で将軍候補並みの実力を証明しろってことか」
「ああ。他に手は思いつかなかった。すまん」
だが――それは俺にとっても、逃げ場のない覚悟を決める機会だった。
「もちろん、お前には一刻も早く強くなってほしい。だが――」
言いかけて、シュラは言葉を飲み込む。胸の内に別の考えがあるが、今は語らない。
「俺はやる。もう迷わない。強くなって、みんなを守る」
「フッ……その意気だ。――今日は部隊の戦闘姫たちを紹介する」
会議室へ向かう廊下で、鋭い声が飛ぶ。
「大将軍ともあろう者が、小僧一人を庇うとはな。甘くなったじゃないか、シュラ」
現れたのは、同じ大将軍のオネットだった。
「何の話だ? 俺は自分の責任を果たしただけだ」
シュラは淡々と返す。
「精々あがけ。盗まれた神器を回収してみせろ。“戦場の修羅”が小僧一人のために動く……見ものだな」
吐き捨てるように言い残し、オネットは去っていった。
俺は拳を握るしかなかった。
「イッシン、今ので正解だ。ここで噛みつけば、あいつは何かと難癖をつけてくる」
――本能で悟った。あの男は強い。今、歯向かえばただでは済まない。
*
「オネット将軍、いかがでした?」
「思った以上に慎重だ。だが、いずれシュラを越えるには、奴は邪魔だ」
オネットの前にいるのは、陣営の軍師と呼ばれる男。
「俺の目的は一つ。シュラに勝ち、頂点に立つ。そのためにお前の力が要る。頼む」
「ええ……あなたが望むのなら。私は“正しい道”へ導くだけ。選ぶのは、あなたです」
*
軍施設の一角、独立棟の前で足を止める。
「ここが、俺の部隊の拠点だ」
「すごい……大将軍の部隊って、専用の施設まであるのか」
小さな館ほどの規模がある。
「中に全員そろっているはずだ。――お前には、最低でも肩を並べてもらう」
シュラが取っ手に手をかける。
そして、扉を開いた――。
この先で待つ面々は、どんな連中なのか。
胸の奥で、不安と期待がせめぎ合った。